2015.07.02
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サーキット運動の工夫について

東京都立南花畑特別支援学校 主任教諭・臨床発達心理士・自閉症スペクトラム支援士(standard) 綿引 清勝

  梅雨の過ごしづらい気候が続いていますが、水泳の授業も始まり、夏季休業も目の前に近づいてきました。

 1学期の授業内容を振り返ると、体育の教材を考えていくにあたり、子どもたちにダイナミックな活動から個別の課題を設定しやすい教材としてサーキット運動があります。

 

 サーキット運動とは、特定のコースやトラックをグルグル回りながら、様々な運動を連続的に組み合わせていきます。アスレチックのように様々な教材や教具を組み合わせていく場合と、特定の教材・教具は使わずに様々なメニューを組み合わせていくなど、場所や対象者によって柔軟に工夫できる面白さがあります。

 

 特別支援学校では、日常的な運動の機会を設けるために帯で体育や保健体育を設定している学校も多く、私がこれまで勤務してきた学校でも、コマの体育に加えて帯で実施していました。しかしながら、朝の体育では、小学部であれば20分(0.4コマ)、中学部、高等部では25分(0.5コマ)で設定されていることが多く、集合から準備運動や整理運動、まとめなどを入れていくと、実際の活動時間は15分強ぐらいが実情だと思います。

 そのような状況でランニングとして10分間走や15分間走を実施している学校を多く見かけます。しかしながら、毎日のランニングも重要ですが、同じ運動量であればサーキットやコーディネーション運動としてダンスなどを複合的に組み合わせていく方が効果的ではないかと感じています。

 ランニングの良さは、全身運動なので、走ることが難しい場合はウォーキングに切り替えることもでき、実態や課題が多様な大きな集団でも活動しやすく、準備も簡単などといったことが挙げられます。また、生涯スポーツの視点からもとても重要な活動と言えるでしょう。しかし、健康の保持・増進という視点や多様な運動の機会に触れるという視点であれば、ランニングによる全身運動として脂肪を燃焼させるための運動量の確保や心肺機能の向上が主なねらいだけでなく、それ以外の運動を加えることで筋力を高めて太りにくい身体づくりや、身体の操作性を高めることも平行して考えていく必要があるのではないかと考えます。

 そこで、ただ走るという活動を繰り返すのではなく、様々な教具を活動に取り入れることにより、多様な動きを引き出す環境を整え、運動を楽しみながら行えるようにしていけると良いのではないでしょうか。

 

 実態に応じたグループ編成を

 集団の規模にもよりますが、可能であれば課題別のグループ編成ができればよいです。学年で実施する場合や縦割りで実施する場合など様々なケースがありますが、活動内容在りきになってしまうのではなく、個々の課題に応じて種目を設定していくことが大切になります。

 本校では、昨年度より体育の研究として運動量の確保と運動の質に着目し、小学部、中学部のサーキット運動について研究を行ってきました。すなわち、課題別にいくつかのグループを編成し、課題に応じた種目を検討しています。

 

 例えば一人で活動を進めていくことがねらいのグループでは、教具に対して自ら運動を調整することに重点を置き、「ラダーを両足ジャンプで進む活動」から、「コーンにバーをかけてまたぐ、くぐるといった活動」、「太鼓橋を乗り越える活動」といったダイナミックな活動を設定しています。このような活動では、動的な活動から運動量を確保することが有効で、活動後に児童がしっかりと汗をかいていることから、運動量が確保できている様子が伺えます。また、種目を切り替えに対してどの程度柔軟に対応できているかなども活動に対する観察の視点には有効です。

 そして、太鼓橋を渡っていく際には、渋滞が起こることがありますが、あえてそういった場面を設定し、無理矢理割り込んでいくか、相手を避けていくか、次の順番が待てるかなど、対人的な調整力を高めていくような視点もあります。

 また自閉症のお子さんなどは、動的なバランスが強い反面、静的なバランスは弱い傾向があるため、「平均台では中心で10を数える」など、あえて止まらさせてみたり、話しかけて注意を逸らすといった妨害をいれることで、一つの教具に対しても活動を介して身に付く力を幅広くねらっていくようにしています。

 

 種目に応じて部分的に教員の支援を受けながら取り組むことがねらいのグループでは、簡単な補助を受けながら活動を自立的に進めていくこいとを大切にし、バーをくぐるような活動にしてもHighグループよりもその距離を長くすることで、流れの中で一つ一つの動きを丁寧に学習していけるように調整しています。最初のうちは補助が必要な場面も多くありますが、パターンが定着してくるとどんどん一人でできるようになっていくので、教具の高さや幅を微調整しながら進めていくことで、より活動が広がっていきます。

 

 教員と一緒に活動を進めていくことがねらいのグループでは、ミニハードルをまたぐといった活動だけでなく、ミニバスケットのゴールを用意し、手を伸ばしてボールを入れるといった活動を取り入れることで、肩の高さより腕を高くあげるといった日常生活動作をより意識した内容を設定しています。知的障害が重度の場合、教具に対して注目する力が弱いことがあり、ミニハードルを蹴ってしまうような場面があります。しかし、足が当たることで教具に注目することもありますし、わざと蹴っていると言い切れることでもないので、足が当たった時には、最初に子どもはどこを見ていて、それからどこを見て、どんな反応をしたかを観察していけると良いと思います。

 

 全体に共通するシステムとして、「ゴールはタンバリンを叩き、周回数分のマグネットを貼る」という流れをつくることにより、グループが変わっても活動に対してはあまり混乱せずに取り組めるような配慮を取り入れましたが、全体の流れの始めと終わりに気付くだけでなく、各種目の始めと終わりについても子どもたちがどれ位気付きながら発動に取り組めているかを大切にしていきたいです。

 

音に対するちょっとした配慮を

 「活動の始めと終わりが分かるように音楽をかける」という指導の工夫があります。私も10分間走では、音楽をかけて実施しています。ただ、体育館のような閉じられた空間では、反響音が強く、音に対して過敏さのあるお子さんはとてもつらい環境であることを理解していく必要があります。ですので、音楽を使用する場合はできるだけボリュームを下げて、子どもの反応を確かめながら適切な音量を調整していくことが指導者には求められます。

 またマイクの使用についても、声を発する人とスピーカーの位置にズレがあることを理解した上で、使用していく必要が出てきます。音が割れてしまうと嫌がるお子さんだけでなく、発達段階によっては「先生を見てね」と言葉かけをしても、スピーカーの方を見るお子さんがいます。ですので、集団の大きさにもよりますが、音響機器の扱いについては慎重に行っていくことが指導の質を高めていくポイントになるかと思います。

 

 多様な動きを引き出す工夫を

 「体育は運動量」と言われるように、サーキット運動の実践を見ると動的な活動を取り入れている授業が多いようです。私もそのようにしていますが、あえて止まるような静的な活動や的当てのような調整力を高める活動も取り入れていけると良いと思います。

 多様な身体活動は、ボディ・イメージを高めていきます。ボディ・イメージは自己に対する気付きでもありますので、運動の技能だけでなく、認知や社会性など、様々な発達にも影響が出ていきます。

 

 日常生活だとそれほど不器用さを感じないお子さんでも、特定の活動には困難さを示すことがあります。走るだけでなく、投げる運動や蹴る運動、バランスの運動などを行っていくと「体幹のひねりはどれぐらいできているか?」、「利き手と非利き手はそれぞれ使えているか?」、「身体の軸がどこにあるか?」、「膝を曲げているか?ロックしているか?」など、観察の視点もたくさんあります。さらに感覚の過敏さがあるお子さんは、手をつけることを嫌がるような場面も見られます。

 確かに運動に対する検査も重要ですが、学習の流れの中でも観察から分析できる視点がたくさんあるので、的確な実態把握による課題設定が、授業の質を向上させていくと言えるでしょう。

  子どもたちの動きに対して、「なぜその動きをしているのか」を正確に説明できるようになるには、しっかりと基礎を学んでいく必要があります。私はまだまだ勉強が足りませんが、目の前の子どもの動きに対して、自分の経験や勘で捉えるのではなく、「発達」という視点から適切に子どもの姿を捉える力を高めていきたいと思います。 

綿引 清勝(わたひき きよかつ)

東京都立南花畑特別支援学校 主任教諭・臨床発達心理士・自閉症スペクトラム支援士(standard)
東京都内の知的障害特別支援学校で中学部、高等部を経験後、現在は小学部の自閉症学級を担任。自身の実践を振り返りながら、子ども達が必要としている支援とは何かを考えていきたいと思います。

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