今年の4月から放送大学の大学院で健康教育について学んでいます。
大学を卒業以来、20年も経っているので、様々な変化に驚かされる日々です。
修士論文をまとめるために、今の時期はたくさんの論文を読んでいます。
私はテーマが「生涯を健康的に過ごすための小学生の時期の過ごし方(仮)」なので、次のような言葉で検索をかけ、関連する論文を読んでいます。
検索ワード:小学校、身体活動量、体力の二極化、休み時間、歩数、鬼ごっこ、運動好意度、ウォーキング、健康など
通常の勤務(小学校の学級担任)をしながら、そういったことをしています。
そういった少し忙しいながらも充実した日々を2か月程過ごし、感じたことがあります。
それは、教師の「視点のスパン」についてです。
小学校の教員の最も大切な仕事は教室で目の前にいる子どもと関わることです。
・九九が十分覚えられていない子どもに付き添って、何度も唱えさせる。
・漢字テストで間違えたものをできるようになるまで取り組ませる。
・友達関係で悩む子どもの相談に乗る。
そうしていると、どうしても目の前のこと(短期的なこと)ばかりに意識が向くようになってしまいがちです。
最近の小学校の教員は、一年間で結果(子どもの成長)を出すことを求められます。
特にこの数年、企業からの影響で、数値目標を設定し、それを評価していくというものが学校においても導入されています。
その評価が、教員自身の昇進や昇給にも影響を与えます。
そういったことが進めば進むほど、教師は、短期的(一年間)な子どもの成長を目指すようになってしまいがちです。
私が修士論文のテーマとしている「生涯に渡って健康的に過ごすため・・・」などは、それが達成されたがどうかの判断が難しいため、小学校における目標としては設定しにくくなります。
同様に「優しさ」「思いやり」「真面目さ」「素直さ」などの心情も子どもの状況の把握が難しいため、目標としてはあまり用いられません。
そういった状況においては、数値において子どもの状況の把握がしやすいもの、一年間で変化(良い方向へ)が見られそうなものが目標として設定されることが多くなります。
健康に関することでは、例えば次のようのものになります。
「毎年行われている新体力テストで設定されている項目のうち80%の項目で県の平均値を上回る」
そして、その目標を達成するために、業前や業間の全校体育を実施しようということがアイデアとして出されてきます。
子どもを励ましながら、暑い日も寒い日も取り組むことになります。
今書いたような全校体育の取り組みなどは、勿論、悪いことではありません。
実施した結果、それなりに数値に変化があるはずです。
もし数値に変化が表れないようであれば、それはやり方の問題でしょう。
ここで、一つ別の視点を紹介したいと思います。
それは、長期的な視点に立ったものの見方です。
大学や大学院での研究を含めたアカデミックな世界では、視点が長期的で、なおかつ幅の広いものであることが多いです。
一つの物事を様々な角度から捉え、問題の本質を見つめていきます。
こういったことは、取り組むべきことが多くある小学校では、なかなかできていないことです。
そういった中で、いくつもの研究論文を読んでいる中で見つけたものが次の言葉です。
それは、「子どもの時期に、強制的に運動を強いられた人は、生涯に渡って、スポーツとの関わりが低くなってしまう」というものです。
小学校の時代に教師が体力を高めるために良かれと思ってやった全校体育などによって、子どもが運動嫌いになってしまい、その結果、その人が生涯に渡って運動に積極的に関わることのない生き方になり、健康的でない人生を送ることになるというものです。
また、子ども時代と大人時代の関係においては、「運動好意感」が有意に影響を与えているとあります。
これは言い換えると「子ども時代に運動で楽しかったと感じられた子どもは、大人になってからも運動に積極的に取り組む」ということです。
そうであるならば、子ども時代の運動への取り組ませ方が少し違ってきます。
生涯スポーツまでを見据えた視点で小学校のスポーツを考えると、学校で取り組むべきことが違ってきます。
体力増進も大切なのですが、運動体験の中に「楽しさ」の要素を入れることが必要となります。
この数年、私が積極的に取り組んでいる鬼ごっこは、そういった要素を多分に含んでいます。
日本サッカー協会も小さな子どもの指導の際に、鬼ごっこを行うことを勧めています。
これは、楽しさもさることながら、動きの巧みさなどのレベルアップに最適だからだとされています。
話をはじめの、教師の「視点のスパン」に戻します。
子どもの運動に関して、短期的な視点での「体力テストのデータを上げること」、長期的な視点での「子どもの運動の楽しさを味わわせ、生涯スポーツにつなげること」のどちらも正しいことであり、間違っている訳ではありません。
教師がその両方の視点を意識することができているかということが大切なのだと思います。
目の前の課題である体力テストの数値の低い種目に時間を掛けて取り組んだ場合、その種目の記録は少し伸びるかもしれません。
けれどもそのことによって、運動嫌いな子どもを作ってしまう可能性があります。
その逆もあり得ます。
子どもに運動の楽しさを伝えようということにエネルギーをかけるあまり、体力テストでの数値が大きく下がってしまうということです。
教育においては、「バランス」が大事になります。
短期的な視点を持ち、なおかつ長期的な視点も持つ。
こういったことがとても大事なのだと思います。
先ほども書いたように、特に最近は短期的な視点での見方が増えているように感じます。
教師が長期的な視点を意識して持つことで、より良い教育につながるのではないかと思います。
一学期の終わりに向け、どうしても余裕がなくなり、目の前のことばかりに目が行きがちになります。
教師が心に少し余裕を持ち、半年後、一年後、三年後、五年後、十年後、五十年後などを意識して、子どもと関わることができればと思います。

鈴木 邦明(すずき くにあき)
帝京平成大学現代ライフ学部児童学科 講師
神奈川県、埼玉県において公立小学校の教員を22年間務め、2017年4月から小田原短大保育学科特任講師、2018年4月から現職。子どもの心と体の健康をテーマに研究を進めている。
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