2015.06.15
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障害のある子どもたちの余暇について思うこと

東京都立南花畑特別支援学校 主任教諭・臨床発達心理士・自閉症スペクトラム支援士(standard) 綿引 清勝

  運動会が終わり、慌ただしかった校内も少しずつ落ち着いてきました。

 さて、この時期は東京都障害者スポーツ大会開催の時期でもあります。本大会は知的障害のみならず、複数の障害種の部門に分かれてたくさんの競技が行われています。私は今年も昨年と同様に知的障害部門のバレーボールに参加してきました。

 

  学校教育在学中に素地を養う

 特別支援学校に限った話ではありませんが、「学校を卒業したら急に運動をしなくなった」、「部活動を引退したら、その競技を全くやらなくなった」といった話をよく聞きます。

 私自身、競技として柔道をずっとやっていましたが、引退してからは全く柔道着に袖を通すことがなくなってしまいました。スポーツが続かなくなる要因の燃え尽き症候群が話題になることがありますが、上記のような要因については、必ずしも本人の精神的な問題だけではなく、本人を取り巻く環境の影響がとても大きいことがあります。「やってみたい」、「続けたい」といった思いがあっても、なかなかうまくいかないこともあります。そうなってくると、自分が実際に身体を動かすことだけでなく、オリンピックの放送を応援したり、武道館に観戦に行ったりと、自分自身の柔道の位置付けが変化してきました。

 

 スポーツには「やるスポーツ」だけでなく、「みるスポーツ」や「つくるスポーツ」があります。実際に身体を動かすだけでなく、サッカー観戦に代表される「みる」という側面やスポーツフェスタの企画・運営などの「つくる」という側面があります。

 生活の中にスポーツが定着するということは、必ずしも「やる」ということではなくてもよくて、「みる」や「つくる」を通してスポーツを享受することもとても素晴らしいことだと言えます。ただ、一つ忘れてはいけないのは、「やるスポーツ」については、直接身体を動かすことで身体機能の向上や健康の保持・増進といった効果があります。ですので、できるだけこの3つのスポーツの側面が偏るのではなく、バランスよくそれぞれの側面から生活に定着していくことが理想だと感じています。

 さて、話を戻すと学校教育が終わってしまうと「どこでやるか」、「だれとやるか」という問題が出てきます。上記の特別支援学校体育連盟のように、学校に在学していれば希望すれば大会に出られるといったものではなく、自分でエントリーをする必要も出てきますし、マラソンなどは場合によっては伴走者まで自分で探す必要が出てくることだってあります。

そうなってくると、本人はやりたい気持ちをもっていても、取り巻く環境そのものが阻害要因になってしまうことを理解していく必要があると思います。

 ゆえに、学校教育段階では、卒業後の生活を見通したスポーツの指導が充実していくと良いだろうと常々考えています。例えば、授業の中で様々な大会の存在を知らせていくことができます。これは、必ずしも体育や保健体育に限った話ではなく、高等部の「職業」などで「余暇」の領域として扱うことも可能でしょう。発達障害のある方の就労についてはハードスキルよりもソフトスキルの課題が離職につながっているというような報告もありますが、学校教育段階で適切な余暇のスキルを身に付けておくことはとても大切なことです。

 そして、余暇活動としての定着のためには「場」や「仲間作り」といった学校教育段階の基礎がとても大きく影響すると感じています。できることなら、学校在学中に一つでよいので、「これ」だと言えるスポーツが見つかるとよいと思います。

 

 長く続けていくために必要な要素

 活動を長く続けていくためには、指導者や仲間、参加料や交通費、そして物品などの「ヒト」、「カネ」、「モノ」が必要になります。学校における部活動の場合には、これらが学校の教育予算や教員のフォローという形で充足されますが、一方で卒業生に対するアフターフォローについては、在学中のようにはならない現状があると言えるでしょう。

 部活動に対するニーズは高く、入部希望者は学校の生徒数の増加とともに上昇し、複数年の活動を行っていけば当然卒業生も増えていきます。しかし、人事異動によって顧問が変わることもあれば、学校の方針の変更などによって形態が変わることも考えられます。

 そこで、卒業生もしっかりとした母体をつくる必要があるだろうという見通しから、保護者の協力を得て、卒業生のバレーボールクラブを立ち上げました。

 立ち上げからは約5年経ちますが、学校教育段階ほどの手厚い体制は組めないものの、月に1回は活動を設定することで、身体を動かしてストレスを発散させるという機能だけでなく、友達に会うといった二次的な効果も見れるようになってきました。

 部活動については、必ずしも学校の教員が行うべきものであると思いません。可能であれば適切な予算配分をし、外部からの指導者を積極的に活用した方がよい場合もあります。ただ、一点強調しておきたいのは、教員の役割というよりは学校の役割として、施設開放は重要な地域支援です。

 特別支援学校の卒業生の中には、「学校と作業所であれば一人でも行ける」といった方もいます。そうであれば、いくら本人にやりたい気持ちがあって、やれる場所があったとしても、移動が阻害要因になってしまい、結局活動が途切れてしまうといったことが起きる可能性が出てきます。

 ですので、先生方の本文は授業ですから、そこに力が入れられる環境は保障されつつも、障害のある子どもたちにとって学校が余暇を支える意味や意義はとても大きいのだと理解していくことが重要なのではないでしょうか。

 

 生涯スポーツへ向けた課題

 バレーボールを例に考えていくと、例えば東京都障害者スポーツ大会は、全国障害者スポーツ大会に向けた選手の選抜も行っているので、本大会で活躍した選手は、東京都の選抜チームに選出され、さらにレベルの高い大会へ参加の道が開けていきます。競技スポーツの世界では当然のことではありますが、競技者全員が選抜されるわけではありませんし、新しい選手が選ばれれば誰かが外れることになります。競技レベルの向上という視点では、このように選手の層が厚くなり、より強い選抜チームがつくられていくことはとても意味があることだと思います。今回の大会においても、選抜チームに選出される選手の活躍は素晴らしく、応援している現役の生徒にとってもあこがれの存在として、とてもよい影響を与えていました。

 

 では、どこに課題があると言えるでしょうか。

 現状において部活動の指導については、まだまだ教員の好意による実態があり、選手のニーズは大切ですが指導者の思いも蔑ろにするわけにはいきません。そうなってくると、選抜チームを指導している先生方の思いは大切ですが、現役を退いて選別チームに入れなかった選手の活動や指導者をどう保障していくかという課題が出てきます。

 発達の遅れが大きい場合には、移動できる範囲も限られてきますし、場合にはよっては引率者がいないと活動場所へいくことが難しいこともあります。参加費が高くて活動を断念したという話を聞いたこともありますし、指導者や友達といった人間関係につまづくことで、活動が難しくなってしまったという話もあります。

 ですので、特別支援学校における卒業生の余暇活動支援はとても重要な取組であり、運動指導の専門家である特別支援学校の先生方の力添えは、障害のある子どもたちが余暇活動を充実させていくには、まだまだ必要不可欠な力なのですが、学校に丸投げの状態になってしまっては、長く続けていくことは難しくなっていくでしょう。

 そこで、私が支援させていただいているクラブについては、保護者参加型の形式を取ることで、保護者の協力を得ながら学校以外の活動もできるように展開しています。

 

保護者や地域との連携から

 保護者との連携をして行っていくことのメリットとして、支援者の確保がありますが、もっと重要なところでは保護者と本人の親子関係への影響があると考えています。

 学校の活動では見えにくかった本人の頑張りや、継続していくことで見えていく成長の過程など、保護者の気付きは本人に対する見方を変え、親子関係にも影響をしていくことがあります。

 また、本人にとっても保護者の見守りは励みになり、活動に対する動機付けになっていくことがあります。

 そして、地域とつながっていくことも重要な視点だと思います。

 活動を展開することで、ボランティアを募ったり、地域の施設を活用することで生活の範囲を広げていくなど、余暇活動の充実は一次的な効果として本人への体験的なフィードバックがありますが、二次的に生活の豊かさにつながることがあります。

 例えば、最初は在学していた学校の体育館を活用するところから始まり、地域のスポーツセンターへと活動を移行していく。さらに、バレーボールとしてスポーツセンターを利用するだけでなく、個人としてもスポーツジムなどが利用できるようになっていくといった発展的なストーリが-描けると、さらに余暇は充実していきます。

 実際に活動していく参加者から話を聞くと、「バレーボールが好き」というだけでなく「友だちに会える」ということも大きな楽しみになっています。

 以前行った調査では、「活動の利用料が安いこと」、「移動の負担が少ないこと」、「定期的な活動機会が設定されていること」などが継続要因としては重要な要素をもっていました。これらの条件を満たすという点においては、特別支援学校はとても重要な機能をもっていると言えますが、特別支援学校が丸抱えするのではなく、地域における人材の育成や施設利用の機会が広がることで、幅広い活動の選手層が気兼ねなく活動を楽しめる社会になっていくことを願っています。

 そして、そのように障害者スポーツの裾野が広がって行けば、結果として競技レベルも向上していくのではないでしょうか。 

綿引 清勝(わたひき きよかつ)

東京都立南花畑特別支援学校 主任教諭・臨床発達心理士・自閉症スペクトラム支援士(standard)
東京都内の知的障害特別支援学校で中学部、高等部を経験後、現在は小学部の自閉症学級を担任。自身の実践を振り返りながら、子ども達が必要としている支援とは何かを考えていきたいと思います。

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