2015.05.27
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運動会の演技指導における支援の工夫と配慮について

東京都立南花畑特別支援学校 主任教諭・臨床発達心理士・自閉症スペクトラム支援士(standard) 綿引 清勝

 

前回は運動会のハード面について書かせていただきましたが、今回は運動会に関する授業の内容について書かせていただこうと思います。

正直なところ、私は子どもの頃の運動会があまり好きではありませんでした。

当時は秋の運動会でしたが、夏休み明けから演技種目や鼓笛パレードの練習が始まり、『いつまでこの繰り返しが続くのか』とイライラしたものです。

 

私は体育の教員になるぐらいなので、一般的に見れば運動は苦手というよりはむしろ得意な方だと思います。しかし、集団行動でひたすら整列や行進の練習を繰り返すことはどうにも苦手でした。集団行動そのものを素晴らしい演技と発展させているものもありますが、小学生だった私はその意味が全く理解できていませんでした。

 

早くみんなと運動したいのに、なんでこんなことを繰り返さなきゃいけないんだろう?

体育の時間に対する期待や自分の中にある運動欲求が満たされず、ストレスを感じていたように思います。

 

教員になってみると、確かに指導者側の都合があるのもよく分かるのですが、小学生でボディ・イメージが曖昧な場合、教員が求めるクオリティと本人が実感できている演技との認識にずれがあるのではないか?

仮にそうだとすれば、指導目標と評価の観点を子どもと共有していくことで、そういったズレが修正できるのではないか?と考えるようになりました。

 

ソーラン節の取組から

 

運動会の演技種目でソーラン節に取り組んでいる学校は多いと思います。特に、テレビドラマで扱われてからは、どんどん知名度が上がっていったのではないでしょうか。

ソーラン節を介した集団作りや対人関係の構築はとてもよいと思いますが、特別支援学校に通っている子どもたちには、テレビドラマでやっていたような振り付けやテンポでは、活動そのものが難しい場合があります。

そこで、私の学校ではソーラン節の元になっている「漁」をテーマに表現を創っていきました。

ソーラン節の演技の特性として、波や船漕ぎなど、漁をイメージした動きが多く取り入れられています。そこで、子どもたちの実態に応じて演技のパートを3つ用意し、グループごとの少人数による授業を進めました。

第一に「波」を表現するグループは、教具を使用し、教員と一緒に全体を周回していきます。教具を「つかむ」、「上げる」、「下げる」、「振る」といった上肢の動作に加え、「歩く」、「またぐ」といった下肢の運動と組み合わせて、全身で波を表現します。

第二に「網漁」を表現するグループも、網をイメージした教具を使用し、模範となっている教員の動きに合わせながら、網を使った漁を表現していきます。徒手的な表現が難しくても教具を持つことによって動きのガイドをつくり、上下、左右の動きに加えて、回転やひねりなど、様々な動きのバリエーションを増やしていきます。

そして、「南中ソーラン」をベースとした振り付けにチャレンジするグループでは、テレビドラマのような振り付けでは難しいことがあるため、一定の動きをパターンとして繰り返すことで振り付けを覚えやすくするとともに、BGMのテンポそのものを原曲よりも落とすことで、一つ一つの動きが大きく表現できるように配慮をしました。

 

模倣の指導の工夫について

体育の指導をしていく際、模倣能力を高めていくことは、生活場面での様々な力を育てていくことにつながります。

模倣能力の育ちが生活に及ぼす影響として、「1 他者と合わせる力が育つ」、「2 身体自己像の発達と運動調整力が育つ」、「3 外界からの情報をとりこみ、学ぶ力が育つ」、「4 象徴機能の発達とイメージする力が育つ」が挙げられており、運動に限らず認知や社会性など様々な発達に模倣の力が影響することがわかります。

私の場合、最初は簡単な模倣として、「トン、トン、頭」、「トン、トン、お腹」というように、具体的な部位に音声を交えて模倣を促すことで教員との応答性が高まっているのを確認しながら進めます。

教員に対する注目が高まってきたところで、「トン、トン、上」、「トン、トン、横」、「トン、トン、前」と両手を同じように動かし、左右対称の模倣から空間を使った模倣へと発展させていきます。また、身体部位についても「トン、トン、右手」のようにどれ位応答できるか確認しながら進めていきます。

そして、座位である程度の模倣ができ、教員に注目することができるようになってから、立って動きの確認をしていきます。この場合も、すぐには音楽は使いません。身体を動かすことと、音楽に合わせることはなかなか難しいのです。最初は余計な負荷をかけず、正しい動きを覚えることを大切にします。

 

子どもの発達段階によっては、立ったままでのやり取りは姿勢の保持の影響を受ける場合があるので、まずは座位からスタートします。そうした方が、姿勢が安定して目が使いやすくなるので、より教員のことも見るようになります。

あとは、立ってしまうとどこか別な所へ動きたくなる子もいるので、座ることで「見て、真似をする」という活動に集中できる配慮が必要です。

 一番左の写真のように、左右が非対称の模倣はより難しくなるので、座ったままであったり、腕に目印を付けるといったガイドがあると正確さが上がり、自分のミスにも気づきやすくなります。

対面で模倣を促す際、教員が左手を上げ「右手を上げて」と指示をしてもクロス(同じように左手)で手をあげるお子さんやどっちを上げてよいかわからなくなってしまうお子さんがいます。

また、真ん中の写真のように身体の軸になる正中線を越す動きは混乱することが大きく、手だてがないとなかなか正確には難しくなります。

実際の授業場面では、教員が左手、児童が右手にモールを付け、そのモールをガイドに模倣の練習をしました。

ガイドがないと左右非対称の模倣が難しい児童も、授業の中ではモールのキラキラを手掛かりに模倣が正確にできることが増えました。またエラーが出ている場面でも、補助をしている教員が「キラキラの手はどっちかな?」など、ガイドを活用して子どもたちのボディ・イメージの曖昧さに対する支援をすることで、教員の模範との違いに気付き、自分で修正できることも多くなりました。

モールで注意しなければならないのは、散らかることやキラキラが気になってしまう子がいるということです。衣装として使えることや視覚的な刺激は強いので、「見る」ことには効果的ですが個によっては、シュシュやリストバンド、カラー軍手など他の素材の方が良い場合もあるでしょう。

 

教材の活用を

演技指導における重要な項目の一つに、子どもたちが自分の立ち位置を理解できるがあります。特に、「落ち着きがない」と評価される子どもについては、何もない空間の中で「そこに立っている」という曖昧なことの理解が難しい場合があります。指導者が見ている「そこ」がどこなのかを分かるようにしていく必要があるでしょう。

立ち位置が分かるように、体育館などでは簡易なマーカーを使用することで子どもたちも「そこ」がどこか分かるようにします。

同じ体操の隊形をつくるにしても、「友だちとぶつからないように広がる」ことと、「自分の名前のカードの上に立つ」ではどちらが分かりやすいでしょうか?

学習のねらいにもよりますが、結果が同じであればできるだけ分かりやすく言語指示も含めた学習環境を整理していくことが、子どもたちの学習に対する自発的な活動を引き出し、意欲を高めていくことにつながっていくのだと思います。

 

一番右の写真では、体育館で演技指導をする際、自分の立ち位置が分かりやすくなるように自作のマーカーを作成しました。またマーカーに番号を振っておけば、その順番に並べるだけで良いので準備の手間も省けますし、子どもたちの役割としても設定しやすくなります。

名前の文字だけではマーカーの理解が難しい子には写真を使うことも可能ですが、単純に赤○などのポイントをそっと置いて立ち位置を提示する方法もあると思います。

またラミネート教材を床に置くと滑ることがあるので使用には注意が必要ですが、裏面に滑り止めを貼ることで安全度が高まりますし、表面はラミネートしないということもあると思います。

ラミネート教材は安価で作りやすいというメリットがありますが、場面や対象によっては必ずしも有効だとは言えません。集団が横に広がっている場合は、光が反射してしまうために外側にいる子どもにはほとんど見えていないということがあるので注意が必要です。モニターの映り込みなども同様ですが、事前に子どもの位置からその教材が見えているかを確認することが大切です。

このデメリットをクリアできれば、簡単に作れるという点でも効果的な作りやすい教材だと思います。 小集団で、正面から提示できる場合などには使いやすいですね。

 

一番右の写真では、ソーラン節の掛け声の練習には、ポーズを写真に撮り、掛け声をかける時に写真を提示して声のキャッチボールをしました。もし、動きが苦手な子がいたとしても、声を出すといった代わりの頑張りどころをつくっていくことは、本人の有能感を高めていくには大事にしたいポイントです。

 

学習環境の整理を

反響音の大きな体育館では、聴覚の過敏さに対する配慮も重要になります。BGMの音量は当然ですが、ホイッスルの音量や音質も子どもたちの反応を確認しながら吹いていきたいものです。

以前、「運動会にアダプテッド・スポーツの視点を取り入れる」で書かせていただきましたが、マイクの使い方などの音響機器は効果的に活用していくには、子どもたちの特性に対する配慮が必要です。

これは音楽や人の声といった授業中のノイズに関しても同様で、例えば複数のグループが体育館で一緒に練習しなければならないような状況であれば、あるグループがBGMを使用すると他のグループの子どもたちもその音の刺激に引っ張られ、活動に対する集中力が途切れてグループ本来のねらいが達成できなくなる恐れがあります。

場所を変えて行うことも必要ですが、他のグループの活動との兼ね合いを考え、互いのグループに対してノイズをつくらないような配慮をしていけると、各グループの学習もより充実するのではないでしょうか。

 

生涯スポーツの視点から

特別支援学校に通っている子どもたちが、将来様々な社会参加の場面でたくさんの人との関わりが少しでも充実するような視点をもっていくことが大切だと考えています。

私は高等部、中学部、小学部とラジオ体操をやり続けていますが、全国的に共通する活動を身に付けておくことは、生涯スポーツの基礎を育てる面では非常に重要なことです。

今回のソーラン節だけでなく、鳴子を使ったをよさこいソーランに取り組んだ時も総踊りの「よっちょれ」をベースにした振り付けをしました。

BGMのテンポが遅いのは、早く踊れる人が合わせることで改善できます。皆でフォローしていくことや互いを認め合っていくことが大切です。

いつか、目の前の子どもたちが様々な場でソーラン節を介して人とつながり、人生が豊かになっていくことを心から願っています。

 

 

参考文献

・宇佐川浩著(2007)、「感覚と運動の高次化による発達臨床の実際Ⅱ」、学苑社、pp.35-43 

綿引 清勝(わたひき きよかつ)

東京都立南花畑特別支援学校 主任教諭・臨床発達心理士・自閉症スペクトラム支援士(standard)
東京都内の知的障害特別支援学校で中学部、高等部を経験後、現在は小学部の自閉症学級を担任。自身の実践を振り返りながら、子ども達が必要としている支援とは何かを考えていきたいと思います。

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