2015.02.19
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学校給食実施状況調査から考えたこと

富山県立富山視覚総合支援学校 教諭 岩本 昌明

先ごろ2月13日に平成25年度の学校給食実施状況調査が発表されたようで、「完全給食実施中学まだ8割」というタイトルの新聞の囲み記事が目に入り、私は「えっ」となりました。読み進むと、公立中学で給食実施が100%の県が千葉県、富山県、香川県の3県しかないということにも、再度「えっ」と驚いた次第です。


 公立中学校で給食が完全実施されていない県があること、完全実施されている県が全国でたった3県でしかないこと。これって「食育」どころではないのではないかと考えてしまいました。


 「衣食足りて礼節を知る」ではありませんが、文部科学省は、いや国策として「学校給食実施」に関しても何らかの方向性を強く打ち出しても良いのではないでしょうか。

 私は、この新聞記事が気になったので、「学校給食実施状況調査」で検索しました。すると【政府統計の総合窓口】の中で、生データがエクセルで公開されているではありませんか。
 サイトの中では、「学校給食実施状況調査」「学校給食費調査」「米飯給食実施状況調査」の3つの項目で公開されています。

 まず「学校給食実施状況調査」で、「都道府県別学校給食実施状況」の(公立小学校数)と(公立中学校数)の2つのExcelファイルを開き眺めてみました。完全給食、補食給食、ミルク給食の3つの項目に分かれて給食実施状況が一覧になっています。ちなみに、「完全給食」とは主食とおかず、牛乳がそろったもの、「捕食給食」は主食以外を提供するもの、「ミルク給食」は牛乳だけのものを言うそうです。

 完全給食の実施率では、何度かマスコミ等でも上がってきたかもしれませんが、中学校では、大阪府が43.2%と低いのですが、神奈川県が25.0%と最下位となっています。また、神奈川県は、ミルク給食の実施が38.7%で全国1位、兵庫県は28.9%で2位となっています。

私は、「学校給食費調査」の中にも入ってみました。その中に「都道府県別学校給食費平均月額」というExcelファイルがあります。タイトルの通り都道府県別の学校給食費が小学校で低学年、中学年、高学年の3つに分かれ、それに中学校と参考に夜間定時制高等学校の平均月額と実施回数が一覧になっています。

この表を個人的な興味本位とお叱りを受けるかもしれませんが、私なりに加工してみました。平均月額と実施回数から、1回の給食費の単価と、その単価で県ごとの順位をつくることです。興味ある方はExcelファイルをダウンロードして試みてみてください。

Excelファイルの平均月額の横に列挿入を2列します。1列には、県毎に平均月額×12÷実施回数の数式を入れます。もう1つの列には、県毎の給食費単価の順位をrank関数で求めて出来上がりです。

この結果から、中学校では、新潟県が344円で全国1位で、沖縄県は253円で最下位が分かりました。私は都道府県の順位付けに意味を見出している訳ではありません。都道府県の食材の物価の違いなど、数値の裏に様々な理由があることを考慮する必要があるでしょう。小学校の高学年では、鳥取県が293円で1位となっています。順位よりも、栄養バランスが考慮された給食が実は大変廉価で提供されていることも驚きです。

 学校給食は、食育という一面だけでなく、食物アレルギー対策と、その地域の食に関する歴史的経緯やPTAや保護者との関係性など、統計上の数値だけで一概に述べられない事情があるのではないかとは考えています。

この調査では浮き彫りになっていませんが、給食はセンター方式と自校方式など調理方法、食材の地産地消、給食費未納問題もあります。学校給食の目的はそもそも現在どうであるべきなのかなども議論の余地があることかもしれません。

私は、富山県に住んでいて、義務教育年の9年間をごく当たり前に食べてきた「給食」が、他の都道府県や市町村等は、実は「当たり前」ではないことに気付き、「給食」にまつわる楽しかったことや嫌な出来事などに久しぶりに浸ることもできました。今となっては良い思い出になっています。

新聞やマスコミで紹介されるデータは、そのままを鵜呑みにするのではなく、元の資料やデータに当たることから得られる信頼性を再確認することができました。

 様々な調査結果が、よりよい反省と次の施策と予算措置に繋がり、将来ある子どもたちの教育に還元されるようになることを常に願いたいものです。

参考:政府統計の総合窓口
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/NewList.do?tid=000001016540

岩本 昌明(いわもと まさあき)

富山県立富山視覚総合支援学校 教諭
視覚に病弱部門が併置された全国初の総合支援学校。北陸富山から四季折々にふれて、特別支援教育と英語教育を始め、身の回りに関わる雑感や思いを皆さんと共有できたらと願っています。

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