2015.01.14
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生徒の「常識?」は大丈夫か

富山県立富山視覚総合支援学校 教諭 岩本 昌明

少々遅くなりましたが
明けましておめでとうございます。
本年もどうか宜しくお願いいたします。

今回は学習面で
ちょっと「常識?」と感じた小話集です。


話自体は実際にあったことですが
最近のことだけではなく、これまでに私が経験したものを
幾つか組み合わせ、ややフィクション仕立てに
したものであることをお断りします。


その1
A子さんが確率について質問してきました。
トランプを題材にした問題です。
(私には)非常に基本的に思える問題です。
でもA子さんには
問題集の解答冊子に記載された
解説すらよく理解できないようです。

どうしてなのかと言うと
A子さんは、トランプで遊んだ経験がないからです。
だからトランプが、ハートやスペードなどの
マークが4種類あることや、11のことをジャック
12のことをクイーン、13のことをキングと呼ぶことさえも
知りませんでした。

さて問題には
「3枚引いて3枚とも絵札になる確率を求めよ」と
なっています。
絵札がジャックやクイーン、キングのことであると
知らないので、どう考えたらよいのか困ったのです。
11、12、13の3枚ですよね。
ジョーカーを除いたら全部で52枚となることも
知りませんでした。

私はびっくりしました。
スマホを自在に操ることができても
トランプ遊びもしない高校生もいることに。
P(順列)やC(組み合わせ)の記号使って
数式を作ることができたとしても



その2
B子さんが、7つの短文を並べかえて物語を作る問題に
取り組んでいます。教科書の問題です。
イソップ物語の「キツネとツル」の話にする問題です。
皆さんはあらすじを頭に思い浮かべられることでしょう。
でも、B子さんは「キツネとツル」の話を知らないので
英文の意味が分かっても、英文を話の流れに沿って
並べることができません。
私は当然知っているものと思っていました。
が、そうではありませんでした。
気になり、イソップ物語で他に知っている話は
あるのかと尋ねました。
すると「赤ずきんちゃん」「三匹の子ブタ」という
答えが返ってきました。
私はえっと思いました。
ディズニーの影響のようでしょうか。
ワンピースやポケモンなどのキャラクターの話なら
もっと分かるのかもしれません。
幼小期に絵本などで親しんだ物語が違うのでしょうか。
アンデルセン童話、グリム童話、日本昔話の区別は置いといても
読み聞かせの体験自体が少ないのでしょうか。



その3
C男君がうんうんと頭を抱えて数学の問題に苦しんでいます。
覗き込むと図形の問題です。
ある場所に補助線を引けば角度を求めることができるのですが。
C男君がこだわっているのは、
どうしてその補助線が引けるのかという点です。
どうしたらその補助線に気付けるのかと悩んでしまい
そこから先に進むことができないようです。
数学的なひらめきやセンスは、
実は慣れと経験と最後に暗記が
大きな比重を占めていることが納得できないようです。



その4
別の数学の問題でD子さんが困っています。
問題が解けないので、解答を見ています。
ある家族の円順列を求める解説に
「お父さんを固定すると・・・」と
記述があります。
「(仮に)お父さんを固定すると・・・」と
補って考えてみてはどうかと話しました。
D子さんは、なぜいきなり「お父さん」が
出てきたのかという点でこだわってしまったようです。
「お母さん」ではだめなのか、
「お兄さん」ではだめなのかと
悩んでしまったようです。

「(色々な場合があるだろうが)仮に」という語を補って
解説の行間を読みかえて理解することができないようです。
数学以前の別の壁(困難さ)を感じているようです。
式の計算ミスはありません。
日本語の部分で躓いているようです。



その5
社会科関係の知識についてです。
最近気付いたことではなく、大分前から感じていました。
(1)都道府県の位置が曖昧です。
それどころか、本州を東北、関東、中部、近畿、中国という
ブロックに分かれていることも苦手なようです。
北は北海道から南は九州鹿児島まで、白地図に都道府県名を
答えることも難しいようです。
隣接する都道府県など位置関係は苦手にしています。

(2)歴史では、歴史の時代(年号)を
平成から遡れない生徒が増えてきているように思います。
平安、鎌倉、安土桃山、室町、江戸、奈良、明治、大正等の
名称すら言えない、知らないようです。
歴史的時間軸が形成されずに現在に居るようです。
日本人でありながら、日本について
よく知らないで暮らしているようです。


体験や経験の面から「常識」がないのではと感じること、
知識不足の面から「常識」がないのではと感じること、
論理思考の面から「常識」がないのではと感じることが
あるようです。

 

これからも私は
色々な側面から「常識」をどう考えたらいいのかも含めて
生徒の「わからなさ」にも寄り添っていきたいと考えています。 

岩本 昌明(いわもと まさあき)

富山県立富山視覚総合支援学校 教諭
視覚に病弱部門が併置された全国初の総合支援学校。北陸富山から四季折々にふれて、特別支援教育と英語教育を始め、身の回りに関わる雑感や思いを皆さんと共有できたらと願っています。

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