2015.01.09
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子どもへのご褒美と褒められることの大切さ

東京都立南花畑特別支援学校 主任教諭・臨床発達心理士・自閉症スペクトラム支援士(standard) 綿引 清勝

  明けましておめでとうございます。寒さも増してきましたが、本年も引き続きよろしくお願いいたします。

さて、今回はお年玉を上げながら思い出した、子どものご褒美について考えてみたいと思います。

 

 

トークンエコノミー法とは?

 ご褒美を用いる指導方法の一つにトークンエコノミー法というものがあります。トークンエコノミー法と言うと難しく聞こえる方もいるかもしれませんが、トークンは「代用貨幣」という意味で、好子や強化子とも呼ばれるものです。

 

 詳しい方法や解説については、応用行動分析についての書籍にはたくさん載っていますし、ネットで検索しても色々と出てきますので、そちらも参考にしていただくとよいかと思いますが、簡単に説明すると、

 

身近な物では、お店のポイントカードが挙げられます。

A店では1000円の買い物をするとスタンプがもらえて、10個溜まると100円の商品がもらえる。

B店では、1000円の買い物をするとスタンプがもらえて、100個溜まると500円の商品がもらえる。

 

さて、皆さんはどちらのスタンプカードがお得に感じますか?

 

多くの方はA店のカードの方がお得だと感じるでしょうし、欲しい商品の値段が同じならA店へ足を運ぶでしょう。

この時点で、A店のカードの好子が機能していると言えます。言い換えれば、スタンプカードにより、A店へ向かうという行動が想起されています。

 

 このように、人が行動を起こすには何らかの好子が働いていると言えます。ただ、注意しなければいけないのは、トークンの形や方法には様々な物がありますが、必ずしも具体物だけが好子になるわけではないということをある生徒が教えてくれました。

 

「これが欲しい!!」のメッセージ

 ある日のことでした。いつもの登校時間になってもA君が来ません。心配していると、30分ほど遅れて保護者と一緒に登校してきました。事情を伺うと、お家でテレビショッピングを見ていて、それが欲しいとねだったところ、買ってもらえなくて機嫌を損ねてしまったようでした。

 「買ってくれるまでは学校へ行かない!!」と色々なやり取りがあったようですが、なんとか学校が終わったら買ってあげるからと説得して登校することはできたようでした。

 この部分だけ切り取ると、「なんてわがままな」と誤解を受けることもあるかもしれません。しかし、A君が物にこだわって遅刻をしてきたことは初めてだったので、本人の気持ちはどうなのか確認してみました。

 そしたら、やっぱり「欲しい!!」と答えて、しっかりと商品名まで覚えていました。「帰ったら買ってもらう」と全くぶれません。ただ、言葉ではそう伝えていても、なんとなく違和感を受けたので、そのまま本人の言うことを聞き入れるのではなく、一つの提案をしてみました。

 

 

 違和感を受けた理由は、保護者とお店に買い物へ出ても、これまでは物をねだることがなかったことがあります。むしろ、好きな物を買ってもよいと促されても、特に何かを選ぶことはないという話を聞いていました。確かに、それだけテレビショッピングの商品が魅力的だったことも考えられますが、物に対する執着は日常生活では見られません。

 そして、あと一つ気になったのは、お家の人の物を無断で学校へ持って来たり、隠したりしてわざと困らせることがあるという事がありました。

 そういったことを全体で捉えていくと、A君はその商品が本当に欲しいのではなく、その商品をねだることがコミュニケーションになっているのではないかと考えました。

 そこで、それまでは一日の頑張りを日課帳の花丸で評価していたのですが、すぐに個別のカレンダーを作成し、「このために頑張っています」の欄を設けて、そこには本人が欲しい商品名を書くようにしました。

 かくして、即席の「商品ゲットのポイントカード」を作成したのですが、これを介してA君の一つの気持ちが見えてきました。

 

本当に欲しかった物は…

 結果として、商品は買わず、このポイントカードのやり取りは、担任として最後の授業日まで続きました。毎日帰りの会の前に本人と確認し、落ち着いて授業に参加できた日は大きな花丸とし、授業に参加できなかったなど、何かしらうまくいかないことがあった日は、小さな花丸を付けました。トークンを没収する方法でレスポンスコスト法というやり方もありますが、このカードの本当の目的は商品をゲットするための物ではなかったので、あえて花丸を無くすようなことはせず、大きな花丸と小さな花丸で評価を分けました。

 その理由は、A君が物をねだる要因が、その商品を介してお家の人とコミュニケーションを取ることが主たる目的だったことと、さらに学校生活に対して自信がなかったことが挙げられます。

 コミュニケーションについては、その商品を買う時に保護者を独占できることや、商品を介して一緒に活動ができること(その時の商品は清掃に関するものでした)、そして、機嫌を直したときに生じる保護者の安堵や本人が買ってもらって喜んでいる様子を見るときの笑顔などが大きく関係していたようです。

 また、学校生活にもそれまで不登校の時期があったお子さんだったので、学校へ登校しているだけでも十分頑張っているから、その点は受け止めてあげたいと思いました。

 ですので、まずは登校できたことを褒め、花丸がもらえる。さらに、授業での頑張りで花丸が大きくなる。そして、このシステムを本人が理解できるようになってからは、カレンダーに担任のサインだけして、花丸は保護者に付けてもらうようにしました。

 こうすることで、花丸を付けるやり取りでは保護者と褒められるコミュニケーションが取れ、「今日も花丸だったね」と保護者の笑顔が得られる流れができました。また、その日の学校の様子なども、保護者と本人で共有し、振り返りもよりしっかりとできるようになりました。つまりは、花丸を付ける作業を介して、物をねだることで得ようとしていた保護者とのやり取りや笑顔が得られるようになったことに加え、カレンダーという頑張りの積み重ねが目で見えるような形になったことで、A君にとってはわざわざテレビショッピングの商品を買ってもらう必要がなくなったという結果になりました。

 ポイントが全部たまったときに、「商品と新しいポイントカードどっちがいい?」と確認したところ、「商品はいらないから新しいポイントカードが欲しい」という流れは、このような背景から生まれた物だと考えています。

 A君にとっては、一時的にテレビショッピングの商品を与えてもらうことよりも、目に見える花丸で褒められるやり取りの方が、価値の大きなものだったのでしょう。

 

 褒められることの大切さ

 A君の一日は、学校を臨時でお休みをしない限りは花丸をもらって終わります。大きいか小さいかの違いはありますが、担任、保護者と複数の人間に誉められて締めくくるという事が、とても大切でした。

 以前から、「ここがダメだから明日は頑張って」ではなく、「今日はこれができたね」と一日の中で本人の頑張りを丁寧に拾ってあげたいと常々考えてきました。部活動の指導をしていた頃、放課後の活動は一日の締めくくりなので、できる限り誉めて終わることにこだわっていましたが、A君のエピソードは、私自身改めてそのことの大切さに気付かされました。

 

 たまに、教師からの一方的な約束をしている場面を見かけることがあります。

 

 「授業中は静かにする約束でしょ」

 

 「廊下で座って待つって言ったよね」

 

 「ちゃんとやるって言ってたじゃない」 

 

 そういった約束の場面を見かけたときに、その約束を守るメリットはその子にとって何があるのかな?と疑問をもちます。これは、ルールや決まりを守ることの大切さを否定するのではありません。

 仮にA君のように「花丸が欲しい」と本人からの要求があれば、「じゃあ、先生のお手伝いしてくれる?」と約束を交わすことの意味はあると思いますが、教師の一方的な働きかけは、子どもとって必ずしも交渉に値するような魅力的な物ではないことを忘れてはいけないでしょう。

 そして、約束を守ったご褒美は、具体物でなくても大丈夫なことがあります。

 「○○を頑張ったら△△が誉めてくれる」これも大事なご褒美です。

 自分自身を振り返ったとき、中学校の部活の顧問の先生に誉められたことはよく覚えていて、その先生がいたから頑張れたと思うことがあります。それは、メダルや賞状よりもずっと嬉しかったと記憶しています。

 

 子どもにとっては、どんなに高価なおもちゃよりも、大好きな人からかけられる温かい誉め言葉の方が、何よりも大切な宝物になるのかもしれませんね。

 一日の締めくくりは、叱りなしのハッピーエンドで在りたいものです。

 

 ※今回のエピソードは保護者の了解を得て書かせていただきましたが、プライバシーの保護や話を分かりやすくするために若干のアレンジを加えています。

綿引 清勝(わたひき きよかつ)

東京都立南花畑特別支援学校 主任教諭・臨床発達心理士・自閉症スペクトラム支援士(standard)
東京都内の知的障害特別支援学校で中学部、高等部を経験後、現在は小学部の自閉症学級を担任。自身の実践を振り返りながら、子ども達が必要としている支援とは何かを考えていきたいと思います。

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