2014.10.22
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御嶽山の噴火から学ぶべきこと

帝京平成大学現代ライフ学部児童学科 講師 鈴木 邦明

9月27日に長野県と岐阜県の境にある御岳山が噴火しました。

噴火から数週間経ちますが、御嶽山の噴火に関するニュースが今でも大きく報道されています。

この文章を書いている時点で、死者は56名となっています。

非常に大規模な自然災害となってしまいました。

そして、10月16日には、雪などの影響のため、捜索が打ち切りとなりました。

複雑な思いを残したままの捜索打ち切りです。

 

ところで、今回の火山の噴火に関しては、教育的な内容を多く含んでいます。

現代の通信事情を反映し、その場にいた人が撮った映像が多数残されています。

そこには、自然の恐ろしさをとらえたもの、戸惑う人をとらえたものなど様々なものがあります。

また、無事に生還した人の行動からは、火山についてだけではない自然災害一般に関しての学ぶべきことが多数含まれています。

 

 

まず、考えるべきことは「自然の偉大さ、脅威」についてです。

何度もニュースの映像で流されている噴火の直後の映像は自然の圧倒的な力を私たちに示しています。

人間が太刀打ちできるレベルのものではありません。

数百キロの速さで噴石が雨のように飛ぶということも通常では想像もできません。

大きな噴石は、1mを超すものもあったということです。

そのパワーに驚くばかりです。

 

人間は地球において生態系の頂点に立ち、わがもの顔で暮らしています。

科学技術は進歩し、宇宙へも進出しています。

そんな人間に対して、自然は時に戒めのような警告を与えるのかもしれません。

東日本大震災も、台風などによる土砂災害も、今回の噴火も少し奢りのある人間への警告なのではと思ってしまいます。

特に、震災後の原発の扱いについては、人間が英知を集結し、今後のエネルギーのあり方について考える良い機会でした。

日本だけでなく、日本が中心となって世界を巻き込んで、核を用いるのか、用いないのか、後の処理をどうするのかなどを積極的に話し合うことが必要だったと思います。

最近の政治を見ていると何となく、なし崩しになっているように感じます。

今回の噴火がまた人間に考えるきっかけを与えているような気がします。

人間の都合だけではなく、「自然」という観点でもう一度、人間の営みを見直してみると良いかもしれません。

 

ところで、今回の噴火について実感を持った理解ができるような授業をしてみました。

それは、火山灰を実際に触らせてみるという授業です。

先ほども書いたように毎日のニュースで噴火の映像を子どもたちは見ています。

しかし、それがどんなものなのかは、子どもにとっては、なかなか捉えにくいものです。

そこで、火山灰を用意してみました。

多くの学校では、6年生が地震や火山の学習をする時の教材として火山灰を保管していることが多いです。

私の学校もやはり比較的近辺にある長野県の浅間山の火山灰がありました。

そこで子ども達に実際に火山灰に触れされることを通して、火山や噴火、そして救助についての理解を深める授業に取り組みました。

 

まず、火山灰のさらさらしている様子を触らせることで体感させました。

多くの火山灰が吹き上げられた場合、そこに人がいて呼吸をしていれば、肺まで吸ってしまいそうなことが実感できます。

また、その後、指に付いた火山灰に少しだけ水を含ませました。

少し変な感じの泥になります。

ねばねばした感じで、少し緩いセメントのような感じです。

御嶽山の山頂付近で雨によって捜索活動が中止になったのがよく分かります。

今回用いた「触れる」という体験は、子どもの感情に大きく響きます。

 

 

また、先ほども書いたように自然の脅威などを伝えることもそうですが、防災面でも伝えることが多くあるように思います。

無事生還した人は、周りの様子や自分の行動について取材に応じています。

それらが子ども達にも分かるようにテレビのニュースなどで流されています。

その中で私が教室での話の中で、取り上げたものが、埼玉県熊谷市の男性のケースです。

その男性は、山頂付近にいた時に噴火が始まり、火山灰、噴石が降ってくる状況になってしまったそうです。

その時、その男性は、両手で必死に頭を守り続けたそうです。

その結果、腕と鎖骨を6か所骨折してしまったそうです。

足などにも火傷を負いながらも、一晩山小屋で過ごし、その後、無事、救助されました。

地震などの急な自然災害の時にも大事な部分である頭を守ることの大切さがよく分かるエピソードです。

 

他には、少しパニックに近い状況になっている女性の様子も放映されていました。

噴煙を見て「えっ、何、何、何・・・、怖い、怖いっ」というような言葉でした。

自然災害だけでなく、大きな問題に直面した際、パニック状況になることなく、精神状況を落ち着かせられるということは非常に大事なことです。

状況が困難であればある程、冷静に状況を分析し、次の手を考えなくてはなりません。

今回、パニックになった女性と同じ状況にいながら、とっさに風向きを確認し、自分たちが逃げるべき方向を決定し、次の行動を取っている人も映し出されていました。

 

これは、学校での避難でも求められるものです。

火災が発生した際、火元の確認なしに逃げることは危険です。

もし給食室で火災が発生したならば、なるべくそこから遠い方向へ逃げなくてはなりません。

火災警報を聞き、パニックになってしまっては、大事な放送などが聞けなくなります。

学校に子どもがいる時に地震などが起こると子どもは「キャー」と声をあげたりします。

教師はまず、それをやめさせることが求められます。

理由は先ほど書いた通りです。

そうしないと、パニックになった人だけでなく、多くの人が巻き添えになる可能性があります。

 

 

最後に、人間と自然との関わり方について書きます。

 

御嶽山の噴火についての話を教室でした際、その日の日記に「山は怖いので行きたくありません。」と書いている子どもがいました。

火山を含めた自然は、今回の様に人間に対して、非常に厳しく関わってくることがあります。

東日本大震災もそうですし、台風なども同様です。

今回の様に多くの人が亡くなってしまうこともあります

 

しかし、人は、自然からは厳しさだけでなく、優しさや安らぎも得ています。

火山については、火山があることで、温泉に入ることができます。

温泉は日本人にとって大きな楽しみの一つです。

地熱発電でも人は自然からの恩恵を受けています。

 

今回の様な非常に悲惨な出来事があると、どうしても自然の厳しさに眼がいってしまいます。

特に子ども達はそうです。

そういった状況で、人と自然との関わり方について考えていくのです。

バランスの良い関わり方が必要であることを知る良い機会です。

 

火山だけなく、核、遺伝子組み換え、化石燃料の利用、宇宙開発など、様々な事で、自然と人との関わり方について考えることができます。

今回の噴火は、そういったことを考える良いきっかけになると思います。

 

是非、記憶が新鮮なうちに、積極的に子ども達と話をしてみてください。

子ども達には大きな可能性があります。

そして、学校には子どもを変えていく大きな可能性があります。

 

より良い未来のためにできることをしていきたいと思っています。

鈴木 邦明(すずき くにあき)

帝京平成大学現代ライフ学部児童学科 講師
神奈川県、埼玉県において公立小学校の教員を22年間務め、2017年4月から小田原短大保育学科特任講師、2018年4月から現職。子どもの心と体の健康をテーマに研究を進めている。

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