2014.10.10
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不器用な子どもたち

東京都立南花畑特別支援学校 主任教諭・臨床発達心理士・自閉症スペクトラム支援士(standard) 綿引 清勝

 第15期に引き続き、第16期も執筆させていただくことになりました。拙文ではありますが、また半年間お付き合いいただければ幸いです。

 そして、学会などでもお声かけをしていただくこともあり、これまでの自分自身を振り返るだけでなく、応援していただいてる方々には、たくさんのエネルギーをいただけたことを心より感謝を申し上げます。

 さて、学校現場で子どもたちを見ていると、学力には特に問題はないのですが、なぜか動きがぎこちなく、不器用さを感じさせる子どもたちに出会うことがあります。

 このような子どもたちの中には、発達性協調運動障害と呼ばれる診断名が付いているケースをご存知でしょうか?

 一般的な発達障害の認識としては、発達障害者支援法(平成16年12月)の第2条において「自閉症、アスペルガー症候群、その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害、その他これに類する脳機能の障害であって、その症状が通常低年齢において発言するものとして政令で定めるものをいう」とあるように、上記の名称が広く知られてきているかと思います。しかしながら、「その他の疾患」として記載されている部分は見落とされがちなところがあると感じています。

 実は、発達障碍者支援施行規則(平成17年4月)において、 発達障害者支援法のその他の疾患として協調運動の障害についても言及されているのですが、その点はあまり広くは知られていないのではないでしょうか?

 今回は、この協調運動の障害についてお話しをさせていただければと思います。

発達性協調運動障害とは

 発達性協調運動障害(以下DCD=Developemental Coordination Disorder)の定義を見てみると、DSM-5においては、

A 協調運動技能の獲得や遂行が、その人の生活年齢や技能の学習および使用の機会に応じて期待されるものよりも明らかに劣っている。その困難さは、不器用(例:物を落とす、または壁にぶつかる)、運動技能(例:物を掴む、はさみや刃物を使う、書字、自転車に乗る、スポーツに参加する)の遂行における遅さと不正確さによって明らかになる。

B 診断基準Aにおける運動技能の欠如は、生活年齢にふさわしい日常生活活動(例:自己管理、自己保全)を著明および持続的に妨げており、学業または学校での生産性、就労前および就労後の活動、余暇、および遊びに影響を与えている。

C この症状の始まりは発達段階早期である。

D この運動技能の欠如は、知的能力障害(知的発達症)や視力障害によってうまく説明されず、運動に影響を与える神経疾患(例:脳性麻痺、筋ジストロフィー、変性疾患)によるものではない

とされています。


 また、今回のDSMの改定では、他の疾患(例えば、ASDやADHDなど)との併存診断も可能になっており、今後学校現場においてもDCDの診断の付いた子どもたちが増えてくるのではないかと考えています。

  では、DCDの子どもたちは、どんなつまずきがあり、教育的なニーズを必要としているのでしょうか?

 

運動のつまずきから

 一般的に『運動』と言うと、スポーツの側面を強く意識する傾向があるのではないでしょうか。しかしながら、運動には粗大運動と微細運動があり、体育の実技だけでなく、文字を書くことや雑巾を絞る、服のボタンを締める、といったことも運動の定義に入ります。

  ですので、運動の得意、不得意は体育の授業場面に限らず、日常生活の場面においても観察の視点としてもっておく必要があると思います。

 これは、上記のDCDの定義においても、診断基準Aのところに記載されていますが、必ずしも運動=体育ではないという理解が大切だと思います。

 では、DCDの子どもはどんなつまずきがあるのでしょうか?

 協調運動のつまずきという点では、特別支援学校にも不器用なお子さんを見かけることは良くありますが、例えばハサミを使った学習の際、間違って切っていけないところを切ってしまうということがあります。

 なんとなく、線をはみ出す程度であれば、指導者もあまり気にかけずにそのまま流れていくことがありますが、友達の写真などで顔を切ってしまったり、制作物で細かい作業などは、ついつい「そんなところを切っちゃだめでしょ!!」といった指導になることがあるように思います。

 あるいは、書字の場面などでは、「もっときれいに書くまでやり直し!!」といった指導場面はないでしょうか?

 読者の皆様にはそのようなことはないと思いますが、もしそのような場面を見かけたら、「さぼっている」とか、「わざとやっている」という視点ではなく、「何らかの運動のつまずきがあるのではないか?」と仮説を立てていただければと思います。

 粗大運動においても、熱血が行き過ぎてできないことを繰り返してしまい、自信を喪失させてしまうといった話を耳にすることもあります。

 ですので、本人が苦手としているのであれば、決して無理強いはせず、何ができるかを本人と一緒に考えていくことが大切だと思います。

 

繰り返すことの意味

 「反復練習」という言葉があります。確かに、運動学習のプロセスでは『調整』→『定着』→『自動化』という流れがあるので、繰り返しが必要なことはあります。しかし、これは本人に学びや気付きがある前提になるので、なんでもかんでも繰り返せば良いといわけでありません。

 例えば、逆上がりができない子に対して、いたずらに逆上がりの練習を繰り返しても意味はないことは容易に想像できると思いますが、その運動ができるために必要な技能は何なのかを、細かく肯定ごとに分析できるようになると、その子の支援の道筋も見えてくるのではないでしょうか?

 地面を蹴る位置はどこになっているか?

 腕で身体を支持できているのか?

 鉄棒から身体は離れすぎていないか?

 重要なのは、繰り返すことではなく、手だてを講じてその子ができるようになることだと思います。

 蹴る位置が分からなければ、目印を設けることが必要でしょう。

 筋力が足りなければ、筋力を付ける遊びから入る方法もあります。

 身体が離れてしまうのであれば、鉄棒に帯を結んで身体を補助するということも考えられます。

 あとは、そもそも本人が「やりたい」という気持ちがもてているか?が重要です。もしも、その気持ちが弱いときに失敗を繰り返してしまうと、どうしても身体を使った学習が嫌いになっていきます。

 その点は、粗大運動、微細運動の両方に共通しているので、逆上がりや漢字の書き取りも、繰り返すことが学習の目的になってしまっては、どうしても苦しい学習に陥ってしまう点に注意が必要でしょう。

 繰り返すことの意味は、その子が何度も「できた」と思える活動や学習でありたいものです。

 

生活の多様性から

 極端な問いですが、例えば逆上がりはできなくてはいけないものなのでしょうか?

 正確な統計的な根拠はありませんが、私の知人でも逆上がりができない人はいます。

 個人的な回答としては、本人がやりたいと思うのであればできるように教えていく必要があると思いますが、逆上がりに限らず、様々な身体の使い方に興味や関心をもって、学習に取り組む態度を育てていくことが、学校教育では必要なのだと思います。

 頑張り過ぎていつも100点を目指すのではなく、本人なりの楽しみ方を見つけ、それが生活につながっていくことが大切なポイントになるのではないでしょうか。

 そのような視点で運動に関する学習を考えていくと、本人が必要ないと思うのであれば、それは授業だからと無理矢理やらせる必要はないと考えます。しかしながら、なぜ、やりたくないのかの理由はきちんと把握する必要は当然ありますし、その子のわだかまりを受け止めて行くことで、やっぱりやってみたいという気持ちを育てていくことを忘れてはいけないと思います。

 運動は、体育に限らず様々な日常生活場面で求められる技能です。肥満の防止や健康の保持・増進だけでなく、余暇にもつながる領域です。子どもたちの運動に対する共感的な理解がもっと広がり、身体を使うことが楽しいと思える子どもを育てていきたいですね。

 次回は、もう少し子どもたちの不器用さの具体的な支援について、掘り下げてみたいと思います。

 

参考文献

・高橋三郎、大野裕監訳(2014)、DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル、医学書院、pp.73-76 

綿引 清勝(わたひき きよかつ)

東京都立南花畑特別支援学校 主任教諭・臨床発達心理士・自閉症スペクトラム支援士(standard)
東京都内の知的障害特別支援学校で中学部、高等部を経験後、現在は小学部の自閉症学級を担任。自身の実践を振り返りながら、子ども達が必要としている支援とは何かを考えていきたいと思います。

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