2014.09.29
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合理的配慮に基づく授業とは  通常・通級・特別支援学級の連続性

東京学芸大学教職大学院 准教授 増田 謙太郎

先日、小学3年生の国語科の授業を参観する機会がありました。

 

「絵文字」に関する説明文を読んで、絵文字に関する「筆者の意見」や絵文字の「例示」を文章中から読み取ることが、授業のねらいでした。

 

一生懸命な、とてもよい雰囲気のクラスでした。

どの子も、教科書の中から「筆者の意見」「例示」を見つけ、ノートに書き、積極的に発表していました。 

 

と、言いたいところですが。

二人の子どもだけ何やら様子が違います・・・。

 

一番前の席のAさんは、教科書が違います。サイズがひとりだけ大きい。

拡大教科書です。

おそらく、視覚障害のある児童なのでしょう。

 

また教卓のそばに座るBさんと、教師がやりとりをしています。

「今、発表した○○さんは、何の絵文字のことを言ったかな?」

「車のヘッドライト・・・。」

「それは教科書のここに書いてあるね」

「うん・・・。」

「じゃあ、ここをノートに書いてごらん。」

 

どうやら、授業の内容についていくことが厳しい児童のようです。

でも、この教師は、その子ができるところ、その子にとってちょうどよい学習ができるようにしていたのです。

意見を発表することは難しくても、教科書の大事なところをノートに書くことはできるから

 

 

この教室では、最近の教育キーワードで言うところの「合理的配慮」に基づく授業が行われたのではないでしょうか。

 

 

「合理的配慮」については文部科学省のホームページにいろいろと詳しく書いてあります。調べると、次のような例示があります。

視覚障害の児童への、拡大教科書

聴覚障害の児童への、ビデオの字幕

情緒障害の児童への、落ち着ける小部屋の確保

LDの児童への、メモ

 

まさに、先ほどの大きい教科書を使っていたAさんへの支援は、「合理的配慮」であったわけです。

 

 

また、「合理的配慮を小中学校で行うには」という事例の中には「柔軟な教育課程の編成」という文言があります。

 

先ほどのBさんのように、学習のねらいや内容に対しても、その子ができるところ、その子にとってちょうどよい学習をできるようにすること。

それが、合理的配慮で示されている「柔軟な教育課程の編成」であると思います。

 

 

 

さて現在、小学校では、通常の学級のほかに、通級学級、そして特別支援学級の3つの教室があります。

 

それぞれの教室が、「合理的配慮」に基づく教育課程を編成するとどうなるでしょうか。

私は、次のように考えます。

 

通常の学級は、学習指導要領に示されているねらいや内容を確実に行うこと。そのために、どの子もあると助かる「ユニバーサルデザイン化」された授業を行うこと。

 

通級学級は、学習指導要領に示されているねらいや内容を達成するために、その子が求めている支援(拡大教科書、字幕、小部屋、メモ等)を使って、指導を行う。なぜなら、通常の学級に在籍する子供への特別支援がその設置目的だから。

 

特別支援学級は、学習指導要領の内容をそのまま行うのではなく、その子ができるところ、その子にとってちょうどよい学習を指導する。つまり、学習指導要領のねらいや内容を焦点化するということ。

 

つまり、「合理的配慮」に基づく教育課程を編成すると、この3つの教室がバラバラの存在ではなく、ひとつの連続性が見えてくるのです。「バラバラではない」とは、まさに「合理的」ですね。

 

 

でも、先ほどの授業のように、通常の学級でも、拡大教科書を使ったり、特別支援学級にいるような子どもが、「その子ができるところ、その子にとってちょうどよい学習」を行っているケースはたくさんあります。

 

それこそ、日本の教育がこれから目指していく「インクルーシブ教育」なのだと思います。

つまり、この3つの教室で場所を分けて行われていることが、ひとつの教室で行われたら・・・。

 

現場では、「インクルーシブ教育なんて、現場の実態に合わない!」といった意見が多いです。

それは、当たり前。現在のシステムでは、無理!

だって、一人の教師で、全部をやるなんて・・・できないとは言いませんが、先ほどの授業の教師くらいの授業力がないと不可能です。

 

だから、少人数指導、巡回指導などのシステム作りが、今、急ピッチで進められているのです。

 

 

 

今回で、私の「つれづれ日誌」への連載は、ひとまず終了です。

今まで、たくさんの方に読んでいただき、本当に感謝しております。

また帰ってきたいなあ・・・!(^^)!

増田 謙太郎(ますだ けんたろう)

東京学芸大学教職大学院 准教授
インクルーシブ教育、特別支援教育のことや、学校の文化のこと、教師として大事にしたいことなどを、つれづれお話しできたらと思います。

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