先日、小学3年生の国語科の授業を参観する機会がありました。
「絵文字」に関する説明文を読んで、絵文字に関する「筆者の意見」や絵文字の「例示」を文章中から読み取ることが、授業のねらいでした。
一生懸命な、とてもよい雰囲気のクラスでした。
どの子も、教科書の中から「筆者の意見」「例示」を見つけ、ノートに書き、積極的に発表していました。
と、言いたいところですが。
二人の子どもだけ何やら様子が違います・・・。
一番前の席のAさんは、教科書が違います。サイズがひとりだけ大きい。
拡大教科書です。
おそらく、視覚障害のある児童なのでしょう。
また教卓のそばに座るBさんと、教師がやりとりをしています。
「今、発表した○○さんは、何の絵文字のことを言ったかな?」
「車のヘッドライト・・・。」
「それは教科書のここに書いてあるね」
「うん・・・。」
「じゃあ、ここをノートに書いてごらん。」
どうやら、授業の内容についていくことが厳しい児童のようです。
でも、この教師は、その子ができるところ、その子にとってちょうどよい学習ができるようにしていたのです。
意見を発表することは難しくても、教科書の大事なところをノートに書くことはできるから
この教室では、最近の教育キーワードで言うところの「合理的配慮」に基づく授業が行われたのではないでしょうか。
「合理的配慮」については文部科学省のホームページにいろいろと詳しく書いてあります。調べると、次のような例示があります。
視覚障害の児童への、拡大教科書
聴覚障害の児童への、ビデオの字幕
情緒障害の児童への、落ち着ける小部屋の確保
LDの児童への、メモ
まさに、先ほどの大きい教科書を使っていたAさんへの支援は、「合理的配慮」であったわけです。
また、「合理的配慮を小中学校で行うには」という事例の中には「柔軟な教育課程の編成」という文言があります。
先ほどのBさんのように、学習のねらいや内容に対しても、その子ができるところ、その子にとってちょうどよい学習をできるようにすること。
それが、合理的配慮で示されている「柔軟な教育課程の編成」であると思います。
さて現在、小学校では、通常の学級のほかに、通級学級、そして特別支援学級の3つの教室があります。
それぞれの教室が、「合理的配慮」に基づく教育課程を編成するとどうなるでしょうか。
私は、次のように考えます。
通常の学級は、学習指導要領に示されているねらいや内容を確実に行うこと。そのために、どの子もあると助かる「ユニバーサルデザイン化」された授業を行うこと。
通級学級は、学習指導要領に示されているねらいや内容を達成するために、その子が求めている支援(拡大教科書、字幕、小部屋、メモ等)を使って、指導を行う。なぜなら、通常の学級に在籍する子供への特別支援がその設置目的だから。
特別支援学級は、学習指導要領の内容をそのまま行うのではなく、その子ができるところ、その子にとってちょうどよい学習を指導する。つまり、学習指導要領のねらいや内容を焦点化するということ。
つまり、「合理的配慮」に基づく教育課程を編成すると、この3つの教室がバラバラの存在ではなく、ひとつの連続性が見えてくるのです。「バラバラではない」とは、まさに「合理的」ですね。
でも、先ほどの授業のように、通常の学級でも、拡大教科書を使ったり、特別支援学級にいるような子どもが、「その子ができるところ、その子にとってちょうどよい学習」を行っているケースはたくさんあります。
それこそ、日本の教育がこれから目指していく「インクルーシブ教育」なのだと思います。
つまり、この3つの教室で場所を分けて行われていることが、ひとつの教室で行われたら・・・。
現場では、「インクルーシブ教育なんて、現場の実態に合わない!」といった意見が多いです。
それは、当たり前。現在のシステムでは、無理!
だって、一人の教師で、全部をやるなんて・・・できないとは言いませんが、先ほどの授業の教師くらいの授業力がないと不可能です。
だから、少人数指導、巡回指導などのシステム作りが、今、急ピッチで進められているのです。
今回で、私の「つれづれ日誌」への連載は、ひとまず終了です。
今まで、たくさんの方に読んでいただき、本当に感謝しております。
また帰ってきたいなあ・・・!(^^)!
増田 謙太郎(ますだ けんたろう)
東京学芸大学教職大学院 准教授
インクルーシブ教育、特別支援教育のことや、学校の文化のこと、教師として大事にしたいことなどを、つれづれお話しできたらと思います。
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