2014.08.06
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「子どもの貧困」対策には現金支給が有効か?

富山県立富山視覚総合支援学校 教諭 岩本 昌明

前回の「子どもの貧困」の中で、その対策に関連して、私は「現金支給」に
はいかがかなものかやや否定的に取れる個人的な気持ちを述べました。
 

しかし、その後阿部彩(2014)先生の「子どもの貧困Ⅱ-解決策」(岩波新
書)があることを知り、先日読み考えを深めることができました。この著書
の中で現金支給と現物支給についてアメリカでの政策等の例や様々なデータ
を紹介しながら、現金支給の取り組み方法が「子どもの貧困」対策には、か
なり有効であることが示されています。私は、現金支給に反対していた訳で
はなく、現金支給という、「お金のばらまき的」に見える対策に加えて、何
か別のシステムの構築にも予算を講じていただきたいという考えでしたが、
少々勉強不足であったことを反省しています。「現金支給」は効果が期待で
き、できればある程度充実した金額の支給を講ずることも大事ではないかと
考え始めています。

また、阿部彩(2008)先生の前著に相当する「子どもの貧困-日本の不公平を
考える」(岩波書店)では、貧困研究者として10年間取り組んできた成果が
紹介されています。この本の中では、貧困世帯に育つことが「貧困の連鎖」
になることを指摘しています。また「子どもの貧困」の定義づけを試みても
います。私は、政府の対策が国際的に比較すると、大変お粗末な現状をこの
本で知り認識を新たにすることができました。今後、法律の施行に関連して
各都道府県の子ども貧困対策計画の策定がどのように行われ、実行ある効果
あるものとなるのかできれば注視していきたいと思っています。

阿部先生の2冊の書籍では、膨大で緻密なデータ分析や考察などの内容に正
直圧倒されました。ただ、紙面の都合か章立ての都合で、教育または教育の
の現場からの声に関する割合が少なく感じました。直接児童生徒に携わる私
たち教職員が一緒になって、現状を正しく行政に伝え、訴える必要もあるの
ではないかと感じました。是非とも「子どもの貧困」について多くの人が、
考えることになればと願っています。


私は、この夏に2013年6月26日成立した「子どもの貧困対策の推進に関する
法律」の条文をまず読み解くことから始めてみようかと考えています。みな
さんはいかがでしょうか。


「子どもの貧困」対策については、イギリスでは2010年3月25日に、子ども
貧困法(Child Poverty Act 2010)が成立しました。この法律の中で、イギ
リスが2020年までに子どもの貧困削減に関する4つの目標を達成しなければ
ならないと謳っています。4つの目標とは、次の内容です。
1)子どもの貧困率を10%未満にする。
2)低所得者(中央値の70%未満)と物質的剥奪の複合状態にある子どもの
割合を5%未満にする。
3)2010年度の世帯所得の中央値の60%の金額を基準とする子どもの貧困
率を、2020年度末までに5%未満にする。
4)相対的貧困の状態が3年以上継続する子どもの割合を、2015年度までに
政府が定める目標値未満にする。根絶するという国策を1997年のブレア首相
の政権から変わることなく現在も継続されていることも知りました。(岩重
佳治他(2011)、「イギリスに学ぶ子どもの貧困解決」(かもがも出版))
 

 この目標の中にある「物質的剥奪」とはどういうことを言うのかについて
は、基本的な定めがないようです。法案の審議過程では、基本的な学校行事
に参加できないこと、暖房用燃料のような基本的物資を利用できないこと、
他の子どもが持つ経験や機会を持てないことなどが例示されたようです。日
本で言うと、修学旅行に行けないことなどが思いつくかもしれません。(同
掲書p98)


山野良一先生(千葉明徳短期大学教授)は上掲書籍(p110-111)の中で、「私
たちは貧困な人々を個人や家族の努力不足などの問題(「彼ら」の問題)であ
りととらえがちで、社会全体の問題(「私たち」の問題)であると考えること
がなかなかできない」と指摘しています。私は、少しずつでも「子どもの
貧困」が社会全体の問題として考えることができるようであってほしいと思い
ます。

芳川玲子先生(東海大学文学心理・社会学科教授)(本「学びの場」サイト
内の「教育インタビュー」2014年7月16日付
)が、臨床心理士の立場から
「心が折れやすい」子どもの増加が、「貧困家庭」で多く見られることを紹
介していることも知りました。芳川先生は、「子どもの貧困」がメンタルな
部分への影響とその現状を説明しておられます。不登校なども「貧困」とい
う文脈から読み直してみる必要があると思いました。この解決方法として、
芳川先生は国の教育予算を増やすことと幼児期教育の充実が必要であるとい
う考えにには個人的にも賛成です。

猛暑日続く夏季休業中が、児童生徒にとって、笑顔が絶えず安全で不安のな
い平和な毎日を健康な状態で過ごせますように。 

岩本 昌明(いわもと まさあき)

富山県立富山視覚総合支援学校 教諭
視覚に病弱部門が併置された全国初の総合支援学校。北陸富山から四季折々にふれて、特別支援教育と英語教育を始め、身の回りに関わる雑感や思いを皆さんと共有できたらと願っています。

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