ワールドカップが終わりました。ドイツの優勝で幕を閉じましたが、突出したスター選手がチームを引っ張るのではなく、組織全体の力が大切であるということをなんとなく感じる結果でした。1学期も終わり、職員室での業務が多くなる時期ですが、今回は組織のマネジメントについて考えてみたいと思います。
組織を重視する集団意識
さまざまなマネジメントの本が出ていますが、マネジメントのねらいは「環境を調整する」、「利害関係を調整する」といった意味合いであり、学校に置き換えると、授業の環境調整や学級経営のバランスなどと捉えることができます。しかしながら、最近のマネジメントは、なぜか先生方の仕事量の調整というところに焦点が集まってしまっているような感じを受けています。
ある調査でも、教員の業務時間が長いという報告がありましたが、実際に授業の準備だけでなく、校務分掌や場合によってはプロジェクトなど、様々な業務で、思うように授業準備の時間が保障されていないということもあるでしょう。
当然、多忙感についても、業務の偏りや家庭の事情など、個人によっては差はあると思いますが、どこかで「子どもたちに○○がしたい!!」という初心を忘れてしまっていることはないでしょうか?
深田(2010)は、ある民間企業の現状について二つの指摘をしています。
一つ目は、「仕事の質の低下」です。
ある企業では、「多くの社員が顧客よりも専務をはじめとした社内の人間関係へ目を向けて仕事をするようになり、結果として顧客のニーズを聞かなくなり、営業段階で行うべきシステムやコンサルティングの仕様検討も行わなくなった。」とあります。
二つ目は、「社員の幼稚化」です。
「社内や親会社との付き合いが重視され、社外との交流がなくなる中で、職場には「仲良しクラブ」的な雰囲気が蔓延し、難しい仕事に一人で黙々と取り組むよりも、大勢で簡単な仕事を大騒ぎしながら取り組むようになった」とあります。
このような背景として、社員は互いを傷つけあうことがないように、仕事の質の低下を指摘することが減り、むしろ、ちょっとしたことでも大げさに褒め合うようになった。そして、同僚同士の褒め合いに慣れてしまった社員は、仕事に対して厳しい指摘をする顧客を「わかっちゃいない」と見下し始めたというようなことがあったようだと述べています。
また、このような職場の雰囲気に嫌気がさし、優秀な技術者やコンサルタントが退職してしまい、その会社では顧客のニーズに応えられるシステム設計やコンサルティングはできなくなってしまったそうです。
顧客のニーズにこたえる
さて、上述の内容を学校現場に置き換えて考えてみるとどうでしょうか?
私は、教員とは高度専門職として、ライセンスをもった誇りの高い集団だと考えています。しかしながら、保護者の苦情に対して、「あの親はわかっていない」といったことや、子どもの問題行動に対して「子どもが悪い」、「親のしつけができていない」といった受け止め方に陥っていることは、絶対にないと言い切れるでしょうか?
東京都では「○○○ペアレント」という用語は用いていません。それは、そう呼んでしまうことで、思考が停止してしまうからです。確かに、無理難題と思える要求がないとは言えないでしょう。場合によっては、それはできませんとはっきり断ることが必要な場面もあります。しかしながら、そのクレームを解決していくことが、教員の問題解決能力を高めてくれる、良いきっかけになるではないかと思います。つまり、「保護者のクレーム」は、「教員を育ててくれるチャンス」であるとも言えます。
教員を育ててくれる保護者
以前、担任した生徒の保護者との面談で、「私は学校が信じられません」という話が出たことがあります。学校に対する不信感が、切に伝わる面談でした。
このような訴えに対して、「難しい保護者」と捉えるか、「学校を信じたいと苦しんでいる保護者」と捉えるかでは、その後の対応や信頼関係の構築に雲泥の差が出るでしょう。
特に若手のうちは、「保護者対応はちょっと苦手だな」と思うこともあるかもしれません。一般企業では、電話は2回コール以内でといったことが当たり前にありますが、ある学校では、10回コールしても出なかったことがあります。これは、学校独自の古い文化だと感じますが、外部との折衝に対する緊張感の弱さでもあるのかと考えています。
もし、子どものことについて納得が行かずに電話をかけた保護者が、10回以上電話を鳴らしても出ないという状況にあれば、当初のクレームよりも、そのことについて2次的なクレームを引き起こすことがあります。
確かに、絶えず緊張感を持続することは大変ですが、いつもより早く電話に出てみるというように、ちょっと行動を変えてみるだけで、様々なことが円滑に回るきっかけになるかもしれません。
そして、物事に対して考え方を切り替えることは、特別な授業のスキルを身に付けるよりも、経験を有しない分容易で、効率が良い方法ではないでしょうか?
一枚岩は必要か
今回は、企業のマネジメント論を参考に学校現場のマネジメントを考えてきました。飲みゅ二ケーションというように、日々の労いを仲間同士で分かち合い、明日への活力を高めていくことはとても大切だと思います。しかし、私たちを教員をつなぐキーワードは「教育」であることを忘れてはいけないでしょう。
集団は、ある目的をもったときに一枚岩になります。例えば「体育祭を成功させよう」、「公開研究会へ向けて、皆で研究を進めよう」など、前向きな目標なら良いのですが、あまり生徒とコミュニケーションを取るのが得意ではない先生を攻撃の対象としたり、クレームが出た保護者を批判したりといった、個人攻撃の罠に陥らないよう、冷静に物事を判断していきたいものです。
私たち教員は、専門職としてスペシャリストだと言えるでしょう。しかし、公の立場である以上、公平性や常識的な判断・行動がとれるジェネラリストとしての側面を磨いていくことが、より良い学校文化を創りあげていくのでしょう。
参考文献
・深田和範(2010)、マネジメント信仰が会社を滅ぼす、新潮新書

綿引 清勝(わたひき きよかつ)
東京都立南花畑特別支援学校 主任教諭・臨床発達心理士・自閉症スペクトラム支援士(standard)
東京都内の知的障害特別支援学校で中学部、高等部を経験後、現在は小学部の自閉症学級を担任。自身の実践を振り返りながら、子ども達が必要としている支援とは何かを考えていきたいと思います。
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