2014.07.09
  • twitter
  • facebook
  • google+
  • はてなブックマーク
  • 印刷

教えるから共に学ぶへ

東京都立南花畑特別支援学校 主任教諭・臨床発達心理士・自閉症スペクトラム支援士(standard) 綿引 清勝

 教員の労働時間が話題になっていますが、やはり心身が疲れた状態では、余裕がなくなり、普段は気にもとめないような事が気になったり、思わず言い過ぎてしまったりなんてこともあるかと思います。

 人間なので、誰しもそういったことが起こり得る可能性があると思いますが、現場では、そのような時こそ一度深呼吸をして、冷静に対応していくことが必要なのではないかと考えます。

 

 否定する指導の落とし穴

「躾」という言葉がありますが、時として行き過ぎた躾は体罰や虐待につながることがあります。

これらの話題は様々なメディアでも取り上げられていますが、このような背景には、「指導者の色に染める」という一方通行の指導観がもたらす弊害があるように感じています。

自分自身、学生時代の部活動の経験で思い当たることがありますが、ある段階までは「教える」という形態がとられていたはずが、いつの間にか指導者が望む行動以外のことに対しての否定になり、ひいては間違った指導に行きついてしまうのではないでしょうか?

確かに、反社会的な行動につながるような子どもたちの間違った学習を修正することは、とても大切だと考えています。特に適応の問題が絡むと、「何とかしてその行動を変えていかなければならない」と使命感や熱意、責任感が強く刺激されることもあるでしょう。

しかしながら、否定的な指導を繰り返す弊害について、奥田(2012)は以下の6つのポイントについて警鐘を鳴らしています。

 

1 行動自体を減らしてしまう

   叱られないように、何もしないようになる。いわゆる「積極性」が失われやすい。

 
2 何も新しいことを教えたことにはならない

   新しい行動は強化と消去の組み合わせによって生まれる。

 
3 一時的に効果はあるが持続しない

   回復の原理がある。叱られないと行動しないのであれば、常に叱ってくれる人の存在が必要になる。

 
4 弱化を使う側は罰的な関わりがエスカレートしがちになる

   虐待につながる危険性を孕んでいる。

 
5 弱化を受けた側にネガティブな情緒反応を引き起こす

   PTSDや自尊感情の低下を引き起こす

 
6 力関係次第で他人に同じことをしてしまう可能性を高める

   弱化を受けた側が、状況が変わって力関係の強い側に回った場合、相手に対して罰的な関わりを行ってしまいがちになる。

 

 このように、無視や否定的な指導を続けるだけでは何も教えることにはならず、ハイリスク・ノーリターンであるということが言えます。

よって、間違った行動に対しての修正は必要ですが、それだけでなく、正しいことを具体的に教えていくことが重要であると言えます。

そして、上記のポイントを踏まえて教師が子どものモデルになることを想定すると、当然、穏やかな接し方が望ましいと言えます。

また、強い言葉や大きな声は、子どもを混乱させ、結果としてそれを子どもが真似をするようになっていくので注意が必要です。

 

 

子どもから学ぶ

 子どもたちが授業中に集中できない理由は、導入のときに先生の話が長いことや、空いた窓から体育の楽しそうな声が聞こえてきていることが原因なのかもしれません。

  もしかしたら、教室前面の掲示物がずれて貼ってあることが気になっていることや、課題が簡単過ぎて飽きてしまっていることも考えられます。

  あるいは、 「ここが大切だからね!!」と授業者が一所懸命説明しようとするあまり、言葉のシャワーで話の要点が聞き取れずに困っていることだってあるかもしれません。

  教室を見渡したときに、身体を揺らしている子や、姿勢が崩れている子はいないでしょうか? 

 

  指導の改善ポイントは、その集団の個の特性に応じた支援を講じるという観点で考えると、個の課題に特化することや、授業の質を落とすということではなく、一人一人の学びを大切にするということから始まるのだと思います。

 

 川上(2010)は、教師が子どもを通して学ぶことの大切さについて「子どもを、大人を成長させてくれる存在として認めること」と論じていますが、私たちは、子どもたちに教えると同時に、様々なことを子どもたちに教えられていると感じる心の豊かさが必要なのではないかと感じます。

 

「教えることで教えられる」

 

このような姿勢をもつことで、教師と子どもが学び合い、上述したような体罰もなくなっていくのではないかと考えます。

 振り返れば、私も先輩や同僚、保護者からたくさんのことを教えてもらいましたが、それ以上に子どもたちから教えられたことが多いように思います。

 そして、たくさんの試行錯誤の末に、教材を介して子どもたちと「できた」、「分かった」、「楽しい」という瞬間を共有できることこそが、日々の残業の疲れを吹き飛ばし、給与には替えられないこの仕事の素晴らしさがあるのではないでしょうか。

 

 ダイバーシティという言葉がありますが、一人一人の多様性をつなぐことで、子どもを指導者の色に染めるのではなく、その子がもっている色が輝く指導とはどうすれば良いのかを、模索し続けていきたいと思います。

 

 

参考文献

  奥田健次(2012)、メリットの法則 行動分析学・実践編、集英社新書

  川上康則(2010)、発達のつまずきから読み解く支援アプローチ、学苑社

綿引 清勝(わたひき きよかつ)

東京都立南花畑特別支援学校 主任教諭・臨床発達心理士・自閉症スペクトラム支援士(standard)
東京都内の知的障害特別支援学校で中学部、高等部を経験後、現在は小学部の自閉症学級を担任。自身の実践を振り返りながら、子ども達が必要としている支援とは何かを考えていきたいと思います。

同じテーマの執筆者
  • 吉田 博子

    東京都立白鷺特別支援学校 中学部 教諭・自閉症スペクトラム支援士・早稲田大学大学院 教育学研究科 修士課程2年

  • 岩本 昌明

    富山県立富山視覚総合支援学校 教諭

  • 郡司 竜平

    北海道札幌養護学校 教諭

  • 増田 謙太郎

    東京学芸大学教職大学院 准教授

  • 植竹 安彦

    東京都立城北特別支援学校 教諭・臨床発達心理士

  • 渡部 起史

    福島県立あぶくま養護学校 教諭

  • 川上 康則

    東京都立港特別支援学校 教諭

  • 中川 宣子

    京都教育大学附属特別支援学校 特別支援教育士・臨床発達心理士・特別支援ICT研究会

pagetop