日本人学校ならではの事務作業と職員研修
さて日本人学校教育実践シリーズも今回で3回目を迎えました。
今回は,日本人学校ならではの教職員の事務作業と,日本人学校の特色を生かした職員研修についてご紹介していきたいと思います。
転出入児童・生徒の多い在外教育施設
在外教育施設・日本人学校に通う子どもへの指導に関して「日本に帰国することを見据えた指導」というものがあります。ここ日本人学校では児童・生徒のほぼ全員が転入生(編入生)であり、また,いずれは転出していく場合がほとんどです。
私が担任させて頂いていた第5学年の学級は,4月当初34名でスタートを切りました。しかし,第6学年に進級する際の年度末転出も合計すると1年間でなんと15名もの転出がありました。日本の平均的な学校でしたら,1年間の学校全体での転出数を1学級で超えてしまうくらいの数です。
昨年度,担任させていただいた第6学年でも、学級ベースで7月末までに3名の転出,学年でも14名の転出といった現状で,中学校に進級する際にも帰国する児童・生徒は比較的多くいます。
転出入に関わる書類管理も日本と同様に徹底されなければなりません。帰国後に通う学校に指導要録の写し等,必要書類を送付するのも日本の学校と同様におこないます。そのため,除籍簿は学校単位ではなく,学年ごとにファイリングされており,中学年以上では,その分厚いファイルが何冊にもなっているというのが現状です。
特色を生かした職員研修
上海日本人学校の職員研修は大きく分けて3つのジャンルにカテゴライズできます。
一つ目は,第1回の教育実践だよりにも少し書かせていただきましたが,現地校との『職員交流授業参観型研修』です。
実際に子どもたちの学習カリキュラムにも入っている『現地校交流会(総合的な学習の時間)』をおこなっている学校と,日中双方教員の意見交換やディスカッション・授業参観等をおこないます。
私自身が,現地校に実際に行かせていただいて感じたことは本当にたくさんあります。
まずは,児童の学力向上に対する教員の取り組みです。
ご存知の通りPISA型学力調査(上海市は,OECDパートナシップ資格で参加)において,多くの分野で世界一の成績を出している上海市の学校教育は先進的な部分も多くあります。ICT機器の充実はもとより,小学校段階より教科担当制で徹底的に授業を練り上げいきます。経験の浅い教員からの提案も教材研究後の方向性によっては積極的に取り入れられ,系統的指導がなされています。
次に感じたことは,教員に対する評価です。学校の中には「毎天、老師辛苦了!」(先生、毎日お疲れ様です!)という掲示が至る所にされています。
また、児童が参加するどのような発表会(音楽祭やスピーチコンテスト等)のパンフレットを見ても、必ず指導教員の名前が記載されており,子ども達がアワードを取ると,指導した教員も同時に表彰されます。このような社会的風潮は,学校教育全体にも良い風を送り込み,教員個々の意欲にも繋がっていくのではないかと感じました。私にとっては,とても実りある研修のひとつでもありました。もちろんすべてを参考にすることが日本の学校教育のスタイルにおいて学力向上に適応するとは思いませんが,生かせる点も見出すことができました。
二つ目は,『中国文化理解型研修』です。
夏季休業など長期休暇中に組み込まれるこの研修は,中国茶・中国武術・中国ゴマや水墨画など中国文化に実際に触れることのできる研修です。私は,中国茶と水墨画の講座を受講したのですが,どちらも講師の先生方から丁寧にご指導頂き,その奥深さや素晴らしさを実際に体感することが出来ました。
三つ目は,『校内における授業公開型研修』です。これは日本で行われている校内全体研とほぼ同類のものです。
そこに,日本人学校ならではの特色があります。それは,さまざまな自治体から派遣されている教員が集まっている日本人学校ですので,事前研や事後研において,教師それぞれが勤務していた日本の各自治体の学校で行なっている取り組みや,今までの多様な経験を紹介し合いながら研修内容を深めることができることです。この点は,私自身,大変勉強になる時間でした。
現在,この研修で学ばさせていただいたことを日々の授業や学級経営に生かしているところです。
さて,次回も(7月28日月曜日・掲載予定)引き続き『日本人学校での教育実践だより』の4回目をお送りします。
次回は,「日本人学校の保健室ってどうなっているの?」などなど普段の学校生活にスポットをあてながらお送りしていきたいと思います。ぜひぜひお楽しみに!
中村 祐哉(なかむら ゆうや)
広島県公立小学校 教諭
「社会科教育」「国際教育」「ESD」をメインテーマに,日々授業実践と研究に取り組んでおります。拙い教育実践ではありますが,共に学ばせていただければ幸いです。
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