2014.06.24
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日本人学校での教育実践だより -第2回-

広島県公立小学校 教諭 中村 祐哉

大規模日本人学校の宿泊を伴う学習について

上海日本人学校虹橋校では,第5学年で宿泊学習・第6学年で修学旅行と宿泊を伴った学習が日本の学校と同様にあります。大規模日本人学校の宿泊を伴う学習とはどのようなものなのでしょうか?
今回は,私が実際に引率・経験をした第5学年の宿泊学習と第6学年の修学旅行にスポットを当ててその実践をご紹介したいと思います。
 
 

上海日本人学校・第5学年『宿泊学習(野外活動)』について

 日本の公立小学校では,宿泊学習(野外活動)に旅行社を交えて活動を組んでいくことは少ないですね。こちら上海では,旅行社を入れて活動の打ち合わせや予約などを進めていかなければなりません。
 私が担任した年度は,1泊2日で学校からのチャーターバスに乗り高速道路を使い,約40分で到着する国営施設でその活動を行いました。中国政府直営の国営施設のため,予定していた活動の中止を急に求められたり,施設を押さえていても大きな変更を余儀なくされる事態も過去に多々事例がありました。これは政府行事を優先するためで,日本人学校以外のインター校や現地校でも同じことが起こっています。そのため,念には念をいれ,活動のバックアップも並行して考えながら準備を進めていきました。このようなことは中国の日本人学校ではよくあることで,実際に赴任されておられた方や赴任中の方々は,頷かれる場面かと思われます。それでは,ここからは時系列でご紹介していきたいと思います。
 出発の朝。226名の5年生7学級(当時)は学校で出発式を終え,それぞれのバスに乗り込み,目的地を目指します。バスの中は,日本の学校と同じようにバスレク等も行います。中国の交通事情の関係で,安全面には特に配慮しながらレクを進めていきました。マイクやCD等も使用することができました。
 初日の活動は,大きく分けて,ドラゴンボート体験・ウォークラリー・ナイトレクの3つです。 
まずはドラゴンボート体験です。ドラゴンボートとは,中国に由来する舟幅が狭く,非常に長い舟のことでお祭りやスポーツにも使われています。龍の頭と尾で装飾されていて,大きな太鼓が載せられる場合もあります。長崎県などでは,ペーロン(白龍),沖縄県では,ハーリーブニ(爬竜船)とも呼ばれている舟です。
子どもたちは安全指導を受け,ライフベストを全員が身に付けたら,いざ出発!はじめは不慣れだった子どもたちもだんだんとオールの扱いにも慣れて,約1時間の人工湖での湖畔散策を楽しむことができました。
ウォークラリーでは,その敷地が広大すぎるため,教員はそれぞれ自転車を使用して,各ポイントのチェック等にあたっていきました。中国文化を感じられるアトラクションも織り交ぜながらあっという間に時間は過ぎていきました。
そして,ナイトレク。日本の宿泊学習(野外活動)でいうところのキャンプファイヤーにあたるものですが,宿泊するホテルの大広間という屋内の環境で行うため,どちらかというとキャンドルサービスに近いイメージです。約2時間,ナイトレクの係が中心となって活動を進めていきました。ファイヤーやろうそくの代わりに,LEDランプのミニキャンドルを使い,気持ちがひとつになったところで初日の活動を無事に終えることができました。
2日目は,帰校の時間もあるため,活動時間が午前中に限られます。半日,グループレクや学級対抗のスポーツ大会などをおこないました。広大な天然芝グラウンドを使っての活動は,普段の休み時間,約1600名(当時)でいっぱいの本校グラウンドのことを考えてみると,子どもたちにとっては最高の環境でした。
 2日間の活動を終えて,日本では少なくなった学年7クラスという大集団を安全面に配慮しながら活動をすすめていく術を,自分の中では大きな経験として学び得ることができました。
 「宿泊のしおり」づくりから当日の活動内容まですべて子どもたちのつくる実行委員を中心として,子どもたち自身に考えさせていった今回の宿泊学習。事後指導の作文においては,子どもたちが「自分たちの手でやり遂げた!」という思いがたくさん書かれていたことに私自身,やりがいと感慨深いものを感じることができました。
 
 

 上海日本人学校・第6学年『修学旅行』について

新年度スタートの4月の段階では,本校の修学旅行先は,例年どおり首都・北京の予定でした。クラス替えはありましたが,学年を持ち上がったこともあり,下見も事前に担当教員が北京で行なっていました。
しかし,大気汚染や鳥インフルエンザと問題が重積したことで,北京への修学旅行を断念せざる得ない状況となりました。そこからは,通常勤務に就きながら,週末には新たに下見を行うという濃密な日々が続きました。修学旅行地の選定に関しては,旅行社との連携も重要視しながら行なっていきました。
その結果,5月末に出発予定の修学旅行先が4月中旬に決定しました。残された時間は約1ヶ月半。修学旅行先は,香港・マカオに決まり,この段階から旅行日程などを一から組んでいくという作業に入りました。
上海日本人学校では「修学旅行のしおり」から全てを子どもたちが手書きで作っていきます。パンフレットづくりの写真集めから事前学習のポスターセッションまでも含め,子どもたちも時間のない中でとても充実した準備期間と事前学習の時間を積み上げることができました。
出発の朝,学年全体で6学級・約200名(当時)の児童は,一機の飛行機で同時に目的地の香港国際空港に向かうことはできません。航空機貸し切りは莫大な予算が必要なため毎年検討の対象にはなりません。今年度は,出発する空港も上海浦東・上海虹橋と異なりました。第一団(1組~3組),第2団(4組~6組)の二グループに分け,空港も出発時刻の早い第一団が学校に近い上海虹橋空港,出発時刻の遅い第二団は学校から約40Km離れている上海浦東空港からの出発になりました。
子どもたちの集合時刻は早朝6時。5時半あたりから学校に子どもたちが集まり始めました。皆,朝4時台に起きて,集合時間に遅れないように頑張っていました。これは,さまざまな航空会社や両空港の出発便の時間帯を調べ上げ,ベストなものを旅行会社と共に選定していった結果ですが,子どもたちも朝早起きを頑張ったその分,初日の香港では,活動時間も十分取ることができました。最終日,早い便で上海に戻る第一団と,遅い便で戻る第二団の活動を初日と最終日でそれぞれ入れ替え,日程上の工夫をしていきながら進めていきました。
 
 
香港・マカオでの主な活動は次の表の通りです。

 
1日目
(5月29日発)
2日目
(5月30日)
3日目
(5月31日着)
中国東方航空便
(MU)
 
上海虹橋空港発
・09:00⇒
 
香港空港発着
・11:40
 
・12:40⇒
上海虹橋空港着
・15:00
・学校で出発式
・バスで空港へ
・飛行機で香港へ
・機内食(朝食)
・ランタオ島で
班行動,観光
お土産購入時間
・サンドウィッチ
(昼食&軽食)
・ヤム茶料理
(夕飯)
・市内バス観光
・室長会など
・ホテル泊
・ホテルブッフェ(朝食)
・高速フェリー
でマカオへ移動・観光
・ポルトガル料理
(昼食)
・マカオタワー
・マッコウ廟
・聖ポール天主堂などを観光
※第2団と時間差で移動設定
・香港へ(夕飯)
・ホテルブッフェ(朝食)
・アベニューオブスターズで班行動,金紫荊を観光
・バスで空港へ
・飛行機で上海へ
・機内食(昼食)
・上海虹橋空港着
・学校で解散式
 
※各団(各3学級)ごとに解散式をおこなう(計2回)
香港航空便
(HX)
 
上海浦東空港
・11:00⇒
 
香港空港発着
・13:40
 
・15:35⇒
上海虹橋空港
・18:00
・学校で出発式
・バスで空港へ
・飛行機で香港へ
・機内食(昼食)
・アベニューオブスターズで班行動,金紫荊を観光
・ヤム茶料理
(夕飯)
・市内バス観光
・室長会など
・ホテル泊
・ホテルブッフェ(朝食)
・高速フェリー
でマカオへ移動・観光
・ポルトガル料理(昼食)
・マッコウ廟
・マカオタワー
・聖ポール天主堂などを観光
・香港へ(夕飯)
・ホテルブッフェ(朝食)
・ランタオ島で
班行動,観光
お土産購入時間
・サンドウィッチ
(昼食&軽食)
・バスで空港へ
・飛行機で上海へ
・機内食(昼食)
・上海虹橋空港着
・学校で解散式
主な活動内容
・夜景観光(香港)
・マカオ観光
・各団で別行動
 3日間の活動の中で,私たち教員が一番気を配ったことは,児童の安全面はもちろんですが,200冊を超えるパスポートの取り扱いです。各イミグレーションの前でクラス全員分のパスポートや出入境・出入国カードを配布し,通過すると,またクラスごとに集まって回収する,という一連の流れをなんと8度も繰り返すという管理面で非常にハードなものでした。
 また,日本籍や中国籍・香港籍や台湾籍など二重国籍の児童も多数在籍するため,それぞれで出入境条件や内容も異なります。全児童のパスポートの内容やビザ・在留満期期日までの日数などの書類も旅行会社を通じて綿密に調べてから当日に臨みました。保護者の方々との勤務先等でのビザ更新の時期とも重なったため,出発ぎりぎりまでパスポート内容の確認作業をおこなった児童もいました。
修学旅行では,子どもたちは,世界でも有数の観光地や世界遺産を巡り,最高の思い出をつくることができました。一国二制度の中国の中で,その違いを子どもたちが実際に感じることができ,さまざまな文化を体験できる虹橋校の修学旅行。短い期間の中で一からつくりあげていった本年度の修学旅行でしたが,学年団教職員8名のすばらしい連携と事前活動をサポートいただいた先生方,旅行者の方々,そして保護者のみなさまの温かいご支援で無事,実施することができました。子どもたちにとっても私たち教員にとっても,これからの大きな大きな財産となる修学旅行でした。
 
次回は,7月10日(木曜日)引き続き,『日本人学校での教育実践だより-第3回-』をお送りしていきたいと思います。どうぞお楽しみに!

中村 祐哉(なかむら ゆうや)

広島県公立小学校 教諭


「社会科教育」「国際教育」「ESD」をメインテーマに,日々授業実践と研究に取り組んでおります。拙い教育実践ではありますが,共に学ばせていただければ幸いです。

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