2014.05.30
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定期「考査」を考える-ユニバーサルデザイン?-

富山県立富山視覚総合支援学校 教諭 岩本 昌明

中間考査が終わりました。

特別支援学校で、準ずる教育課程(注1)で生徒等は学習しています。
視覚教育部門の生徒は、弱視と全盲とで出題の形式などが異なります。
全盲の生徒には、点字を使用した出題になります。
時には、口頭での出題やテープやオーディオ(デイジーなど)などでの
出題もあります。

点字での出題の場合は、「試験問題の点字表記 第2版」(編集・発行 日本点字委員会)
や「点字便利帳2008年版」などを活用して墨字の問題を点字に変換します。
点字編集ソフトの開発と進歩のお陰で、作業が軽減されています。
しかし、漢字の点字変換には、僅かですが誤りがみられ、校正には時間を要します。
未だに慣れていないのは、点字表記の分かち書き(注2)です。
自信が持てないので、別の点字使用の先生に、試験問題の校正を
事前にしていただきます。
試験問題の作成には準備段階に、時間が必要になります。
特別支援学校以外の方には、理解しにくいことかもしれません。
考査の1週間前には、問題が出来上がっているほどの余裕が
必要になります(現実にはいつもギリギリですが)。

さて、今回弱視生徒の定期考査で、気づきがありました。
気づきと言うよりは、自戒を込めた反省事項かもしれません。
次に紹介します。

1.並べかえ問題(語順整序)の英単語は、コンマで区切るのでなく、
スラッシュを使った方がよい。スラッシュで単語と単語の区切りが
明確になる。こんな初歩的なことを今になって。

2.並びかえ問題(語順整序)の単語数は、5語を超えないようにする。
視野と関連しますが、晴眼者と違い、多くの語数の全体を見渡し、
把握することが難しい場合がある。

3.ページをまたがった問題を作成しない。
設問文が次のページにまたがる場合は、改ページをする。
英文などの次のページにまたがる場合も、改ページなどをする。

4.問題と問題との間にできるだけ1行スペースを入れる。
携帯メール文と同じ感覚で、見やすさが向上します。

5.語群や注などがある場合は、文末や問題文末でなく、最初に提示する。
目で文章を追っていくことと、上下の移動に順序の関係で、
ヒントは最初に明記することが大事である。

6.英単語と英単語とのスペースは、墨字の場合より広くとる。
できれば全角がよい。単語の区切りをより明確にするため。

これら6点は、考査のレイアウトに関することで、視覚教育部門に限らず
他校種の英語問題作成でも考慮されると良いことかもしれません。
ちょっと今風の言葉で言い換えれば、ユニバーサルデザインの視点
となるのでしょうか。


病弱教育部門の場合は、考査に受験ができるかが課題となる場合があります。
入学以前に何らかの不登校経験があり、学習空白が長期である場合は、
「考査」というものが何なのかから説明が必要になる場合もあります。

「考査突破マニュアル」や「考査対策マニュアル」(仮称)等、
とでも銘打って、少しでも、考査へのハードルを低くする手だてが必要になる生徒もいます。

考査を受けて、自分は点数が取れないことに向き合いたくないためなのか
欠席したりする場合もあります。
現実の不安からの一時的な逃避行為の一種かもしれません。
まあ、考査や試験が好きという人は正直世の中にそんなに多くいないのかもしれません。
資格取得を趣味や自分の向上にしている方々ぐらいでしょうか。

考査はまず「受けるものだ」というところから始めなくてはなりません。
生徒の気持ちに寄り添って、考査勉強の仕方など負担感を軽減するように工夫します。
私が具体的に行っていることは、試験範囲とテスト内容と勉強のポイントを
考査前に配布することです。(別に目新しいことではないかも)

考査勉強用と称して、本番と似たような出題の学習プリントを作成または
配布します(考査終了後に提出課題に含めます)。
その問題に答えることが、自然に勉強となり、テストでの点数獲得につながる
ようにしています(少しずつプリントに依存しないで取り組めるように配慮します)。

考査の意味(意義)を私なりに紹介し、生徒一人ひとりに理解を求めます。

「考査は、一種の健康診断のようなもの。
考査は、生徒と先生方の双方に生かせるもの。
受験した時の、学習の理解度を、自分で確認するもの。
考査結果は、自分の力(学力、能力)を決定し、以後変わらないものではなく、
その後の努力や学習で、どれだけでも変わる余地があるもの。
先生方は、授業で指導したことが、定着しているか否か確認するもの。
考査の点数が良いに越したことはないが、悪いからダメであるとか、
なにか決めつける材料にするものではない。
むしろ、間違え、できない問題があれば、それは指導した
先生方にとっての反省材料として、今後の指導(法)に生かせること。
テストでは100点満点で点数がつくかもしれないが、何点が良いとか悪いとかではない。
良い悪いの基準は、自分の中にあるかも。
テストの出題方法や難易度のさじ加減で点数は、どのようにも変わりえる。
テストは、まず参加することから始まる。
とにかく、参加することに意義がある。
参加する壁を乗り越えることが大切である。
テストは、受験するとがんばってみることも大事である。
体調が不安で心配であれば保健室等別室受験が可能であることも伝える。
目標とする点数が設定できるようであれば、その目標に向かって努力することも大切であり、
結果にびくびくする必要は全くない。」

上のようなことについて、
生徒の表情や目を見て様子を見ながら、枝葉をつけて語るようにします。
私はHRや自分の担当する教科の授業で、考査への過度の不安やストレスが
軽減されることを願って私なりの「考査観」もどきを話します。

学校が少しでも生徒にとって安心した居心地の良い場所となって
登校が喚起され、登校が持続・継続されることを期待し、症状の改善に
つながっていくことも願っています。


月曜日の朝礼では、
「先週の考査お疲れでした。考査全部受験できましたね。がんばれましたね。」と、
生徒が成長し課題を克服できたことを認め、評価することができました。
「新しい一週間、気持ちを切り替えて、新たなスタートしましょう」と、声を掛けました。


不安やストレスだけでなく、様々な家庭環境や複雑な心因的な要因で考査受験が、
不十分な状態という結果になる場合もあります。
しかし、私には見えないところで、何かしら困難に立ち向かい葛藤しつづけながらも、
必ず人間的な成長が進んでいることを信じて、考査が受けれた受けられなかったということ以外でも生徒の良いところと可能性を見守っていきたいと考えています。


(注1)検索「障がいのある人に対する準ずる教育とは」参照

(注2)点字はすべて仮名で書かれており、文を理解しやすくするために、分かち書きをします。
分かち書きのおおよそのめやすは、「文節」による区切りです。

岩本 昌明(いわもと まさあき)

富山県立富山視覚総合支援学校 教諭
視覚に病弱部門が併置された全国初の総合支援学校。北陸富山から四季折々にふれて、特別支援教育と英語教育を始め、身の回りに関わる雑感や思いを皆さんと共有できたらと願っています。

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