少し前になりますが、ある都市で生徒の問題行動に対してレベルを設定し、場合によっては隔離するという話が話題にあがりました。
そこで今回は、生活指導をしていくにあたり、色々と思うことを書いてみたいと思います。
学校教育法第26条
児童生徒に対する出席停止に関する法令は、平成13年の学校教育法の改定からだと記憶しています。
法令に関する具体的な文言を見ると、「小学校及び中学校における出席停止について、他の児童生徒に傷害、心身の苦痛又は財産上の損失を与える行為、職員に傷害又は心身の苦痛を与える行為、施設又は設備を損壊する行為、授業その他の教育活動の実施を妨げる行為を繰り返し行う等性行不良であって他の児童生徒の教育に妨げがあるときに命ずることができることとし、要件の明確化を図ったこと」とあります。
今回話題になっているレベル5では、おそらくは警察介入の可能性もある話になるでしょうから、学校教育がやるべきことはその子を教育現場から引き離すことではなく、実際にどのように受け入れていくかに真価が求められるのではないかと思います。
では、なぜそのような行動が繰り返されるのでしょうか?
それを理解するためには、仮説を立てて考えていくことが大切です。
行動の強化子から考える
学校にわざわざ登校し、様々な気になる行動をする子どもは、そもそも「なぜ、学校まで来てそういったことをするのか?」という疑問があがります。
もし、本当に学校が嫌いであれば、わざわざリスクを冒して学校まで来る理由は何なのでしょうか?
奥田(2012)は、行動には4つの理由があることを説明しています。
1 注目……………ある行動をとることによって、他者とのコミュニケーションが発生する
2 逃避、回避……ある行動をとることによって、場面を回避することができる
3 報酬……………ある行動をとることによって、報酬が得られる
4 感覚……………ある行動をとることによって、感覚が刺激される
では、例えば先生を殴ったA君は、なぜそのような行動をとったのでしょうか?
循環論の罠
思考の解決の糸口が見えない考え方を循環論と言います。
冒頭の図のように、「興奮状態が高まったから人を叩く」⇔「人を叩くのは興奮状態が高まったから」とグルグル回るだけで、それだけでは何も解決しません。ですので、この循環論に陥らないようにすることがポイントです。
大切なことは、「なぜ」を具体的に紐解いていくことだと思います。
そこで、上記の4つの強化子からその理由を考えていきます。
例えば、「人を叩く」という行動が起きる原因として、周囲の人間に注目されたかったのかしれません。
あるいは、先生の注意の仕方がどうしても許せなかったのかもしれません。
もしかして、とても体調が悪い時に、突然大きな声がしてびっくりしたことだって考えられます。
そして、これらの要因は、複合的に関連する場合もあるということに注意が必要です。
個別指導の落とし穴
もし、なかなか行動が改善しないからといって、その子を別室へ移し、屈強な男性教員が複数で囲むような指導体制をとったらどうなるでしょうか?
普通に考えれば、そのようなことはありえませんが、「暴れ出すと手をつけられない」といったことが理由で、そのような状況が起こらないとは言い切れないように思います。
しかし、それでその子は本当に自分の行動を振り返り、違う行動に変化していくのでしょうか?
やはり、集団から特別教室などへ一方的に切り離すことを個別指導と呼ぶには違和感があります。
例えば、友達に対する「注目」の強化子と、教員からの「逃避」の強化子が複合的に作用していれば、当然反発が強くなるだけで余計に問題がこじれる可能性があります。
このような行動を修正していくためには、ある行動を減らし、他の行動を教えていくことが重要です。
例えば、逃避の強化子を減らすのであれば、そもそも叱りつける場面を工夫すれば良いことです。さらに、注目の強化子を友達だけでなく、教員からも働きかけるようにすることで、その行動は変わっていく可能性が出てきます。
つまり、周囲の人間に対して反発することでしか表現できない気持ちをまずは受け止め、そこから本人の特性を考慮した新しい取組を行っていくことが望ましいと言えるでしょう。
反省させても変わらない
「反省文」というものがあります。しかし、一方的に書かされた反省文に何の意味があるのでしょうか?
私自身、高校時代に「こんな反省文じゃだめだ。やり直し!!」という経験がありますが、そこで学んだものは、行動を振り返り反省するのではなく、先生が納得する反省文の書き方です。
つまり、子どもの失敗に対して叱りつけるだけでは何も指導したことにはなりません。
「何度言ってもわからない」というのは、「子どもに分からない教え方を繰り返している」という風に考えることはできないでしょうか。
押さえておかなければならないポイントは、間違いに対して他者に認められ、受け入れられ、許される経験をすることが、ひいては相手にも同じことができるようになるのではないかと思います。
「違う」と否定するだけでは何も教えたことにはなりません。
子どもは、具体的にどうすれば良いかを教えることで成長していくのではないでしょうか。
参考文献
・奥田健次(2012)、メリットの法則 行動分析学・実践編、集英社新書

綿引 清勝(わたひき きよかつ)
東京都立南花畑特別支援学校 主任教諭・臨床発達心理士・自閉症スペクトラム支援士(standard)
東京都内の知的障害特別支援学校で中学部、高等部を経験後、現在は小学部の自閉症学級を担任。自身の実践を振り返りながら、子ども達が必要としている支援とは何かを考えていきたいと思います。
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