2014.06.05
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東京都障害者スポーツ大会に参加して

東京都立南花畑特別支援学校 主任教諭・臨床発達心理士・自閉症スペクトラム支援士(standard) 綿引 清勝

 東京都障害者スポーツ大会がはじまっています。今年は、ボウリングとバレーボールの大会に参加させていただきましたが、どの競技も一人一人がスポーツに対してそれぞれの楽しみ方をもっており、余暇活動として運動が享受されていると感じます。そして、運動の余暇活動の定着には、体育の授業だけでなく、部活動も重要であると考えています。

 現場の視点で見ると、学校ごとに取組の違いはありますが、部活動に対する生徒のニーズはとても高いと感じています。「特別支援学校にも部活動があるのですか?」と聞かれることもありますが、サッカー部やバスケットボール部というように年間を通して一つの活動を継続する部活もあれば、いくつかの種目をシーズンに応じて切り替えていく球技部といった部活動もあります。また、美術部やレクリェーション部といった文化的な活動もあり、教科指導とは違った必要性があります。

 

得意だけど不安

 今回は、運動部に所属するA君の事例について話題を提供させていただきます。
 
 A君は学年の中でも運動が上手な方でしたが、中学校までの様々な経験から思うように自分の気持ちが伝えられなくなっていました。また、慣れない活動に対しては、すごく失敗を怖がるところがありました。
 
 こういった子に対しては、無理矢理に力を引き上げようとしても、なかなかその先生の思いにはついていけず、余計に心を閉ざしてしまうことがあります。ですので、得意なことや好きなことを探して、その子の世界で話を聞くところが、支援のスタート地点になると考えています。
 
 A君との出会いは、部活動の勧誘でした。運動部にはあまり興味がなかったようですが、「元々運動に対しては少しだけ自信があったこと」ことと、「先生と一緒ならやってもいいよ」とほんの小さな動機づけです。それでも、活動へ取り組むに当たり、「この人がいれば大丈夫」、「この人に認めてもらいたい」というのはとても大切な気持ちです。
 実際に彼が私に対してそこまでの信頼を寄せてくれていたかは定かではありませんが、放課後は毎日休むことなく部活に来てくれたおかげで、たくさんの時間を一緒に過ごすことができました。
 

言葉に出せない思いを拾う

 
  A君は困った時や自信がない時には、下を向いて言葉が出なくなってしまいます。このような状況に対して、本人のことが正しく理解されないと「ふてくされている」、「無視をしている」といった誤解を受けることがあります。
 
 技術がどんどん伸びていくので、選抜チームの練習に連れて行った時のことですが、雰囲気にのまれてしまい、集団に参加できないことがありました。信頼関係ができていない指導者に何か指示をされても、返事をすることはできませんでした。一生懸命教えようとする指導者の思いとは裏腹に、黙って練習を自分で切り上げて帰ろうとしたこともありました。
 
 「あの子はなんなんだ!?」と担当の先生は驚かれていましたが、見た目だけでは伝わらないA君の困り感がそこにはあったのでしょう。不安な思いが伝えられず、体育館を後にしようとするA君を追いかけ、まずは個別に話を聞きました。そして、その先生にはA君のことを丁寧に説明することで理解していただけましたが、おそらくはこれまでも同様の体験を繰り返してきたのではないかと思いました。
 それからは、A君の思いを通訳するように付き添うことで、活動に取り組むことができるようになりました。もし、あそこで一方的に叱りつけるようなことをしていれば、二度と選抜チームの練習に行くことはなかったでしょう。
 
 その後、選抜チームの練習にも参加ができるようになり、チームメイトとともコミュニケーションが取れるようになってきました。しかし、今度は友達のプレーに対して自分の気持ちを抑えられない課題が出てきました。
 チームスポーツでは、一人が頑張ってもどうにもならないこともあります。それまで集団スポーツに参加する経験が少ないケースでは、自分は正しくプレーをしているのに、チームが負けるということは大きなストレスで、練習中に癇癪を起こし、仲間を怒鳴りつけるよな場面に遭遇することがあります。
 そのような時には、一旦練習を中断してクールダウンの時間をとり、「何に対してイライラしているのか」、「次はどうすれば良いか」をじっくりと相談しました。そうしていくことで、A君の場合は友達の頑張りが認められるようになり、少しずつ癇癪も減っていきました。
 そして、友達の良い所にも目が向くようになり、怒鳴りつけるのではなく、具体的にどうして欲しいのかを自分の言葉で伝えることができるようになっていきました。
 

夢を叶える

 
 A君は、高等部2年生の後半からキャプテンになりました。その頃には友達に対する癇癪もほぼなくなりました。後輩にも親切に教えることができるようになり、周囲の先生方からも立派なキャプテンとして認められるようになりました。
 本人と話していくことで分かったことですが、これまでは学校の先生に期待されるようなことはなく、いつも「お前はダメな奴だ」と言われ続けていたようです。最初はキャプテンという響きに緊張もあったようですが、役割を与えられたことが自信につながり、大きな成長を見せてくれました。
 
 そして、選抜チームの練習に参加しているうちにエースとして期待され、全国障害者スポーツ大会で優勝するという大きな目標がもてるようになっていきました。この頃は、全国大会で他県の選手と競い合うことを通して、心と身体が着実に成長していったように思います。全国大会の決勝戦で負けてしまった時は、チームの誰を責めることもなく「自分が決められなかったから負けたんだ」とチームメイトを気遣う場面から、責任感の高まりや気持ちを調整する力の高まりが感じられました。
 
 最初は選抜チームの練習に参加することができませんでしたが、努力を重ねることで、いつの間にか選抜チームのキャプテンとなり、チームメイトを気遣うことまでできるようになりました。そして、ついに念願の全国障害者スポーツ大会で優勝することもできました。
 
 A君は、本気になって夢を叶えました。
 

この事例から見えてくるもの

 この事例から、いくつかの支援のポイントが見えてきます。

 高等部から特別支援学校に入学してくる生徒は、たくさんの失敗経験があり、自信を無くしている子が多いと感じています。

 A君の場合、学習のつまずきだけでなく、指導者との信頼関係にも課題がありました。この時の対応は、ただその子の言葉に耳を傾け、疑わずに信じたことが、結果として本人との信頼関係の構築につながりました。

 第二に、声なき声の通訳が必要ということがあります。気持ちを言葉で伝えることが思うようにできない子は、誤解を受けやすいところがあります。これは部活動に限らず実習など外部機関との連携にも同様のことが言えますが、本人の特性を理解し、周囲の人に具体的な対応方法を伝えていくことが大切です。S.O.Sが出せない子の場合、時としてその場をやり過ごす「うそ」のような発言をすることもあります。しかし、その裏には不安や失敗への怖さがあることを忘れてはいけないと思います。

 第三に、じっくりと付き合うということが言えます。A君とは部活以外にも選抜チームの練習があったので、休日や平日の夜も一緒に過ごす時間がありました。ただ、気持ちの切り替えが上手にできない時にはなかなか言葉が出なくなってしまいます。そのような時には、数時間ほど無言で空気のやり取りをしたこともありました。

 このような個別の支援に対して、「義務教育じゃないんだから、高等部ではそこまでする必要がない」といった批判を受けたこともあります。しかし、通常学校でつまずき、様々な事情で特別支援学校に入学してきた生徒だからこそ、一人一人の良さを見出し、なんとか光る才能を形にしていくことが求められるのではないでしょうか。

 現在のA君は、選手として活躍するだけでなく、部活動の外部指導員として母校の部活動を支えています。

 いつまでも夢を忘れず、自分を大切に新たな目標を見出し、頑張っていって欲しいと思います。

 そして、学校教育を介して余暇活動が保障され、たくさんの方に生涯スポーツが享受されることを願っています。 

綿引 清勝(わたひき きよかつ)

東京都立南花畑特別支援学校 主任教諭・臨床発達心理士・自閉症スペクトラム支援士(standard)
東京都内の知的障害特別支援学校で中学部、高等部を経験後、現在は小学部の自閉症学級を担任。自身の実践を振り返りながら、子ども達が必要としている支援とは何かを考えていきたいと思います。

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