2014.08.27
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自閉症教育の「イマ」と「これから」 ‐Ⅰ‐

東京都立南花畑特別支援学校 主任教諭・臨床発達心理士・自閉症スペクトラム支援士(standard) 綿引 清勝

 8月23日、24日と京都の立命館大学で行われた日本自閉症スペクトラム学会に参加してきました。

 大会企画の講演について拝聴するだけでなく、今回はポスター発表とシンポジウムの話題提供をさせていただきましたが、全国から集まった様々な方と意見の交換ができたことは、とても勉強になりました。

 今回は、それを踏まえたポスター発表の内容について報告をさせていただきます。

 

教員の思いと子どもの実態とのズレ

 今回のポスター発表では、「知的障害特別支援学校高等部における自閉症教育のあり方」をテーマとして、高等部で軽度の知的障害を伴う自閉症児の事例について報告をさせていただきました。

 担任の先生からは「不注意があり、忘れ物や無くし物が多い」、「話は分かっているはずなのに、何度も同じ失敗を繰り返す」、「行動が遅い」といったことが報告されていました。

 そこで、本人の困り感を詳しく調べるためにWAIS‐Ⅲという発達検査を行ってみたところ、作業のスピードをあげることは苦手であることや、日常会話については、長文や複数の指示の理解は難しいという結果が見られました。そして、実習を控えていたのでTTAPという検査をバッテリーとして実施したところ、作業スピードはWAIS‐Ⅲと同様に苦手であることや、困ったときに周囲へ助けを求める力が弱いことがわかりました。

 一方で、活動場面(作業場面)を整えるといった手だてがあれば、力を発揮することができ、作業的な学習を丁寧に進める力があることが分かりました。 

 よって検査の結果から読み取れた本人の状態像と担任の先生の見立ては一致しておらず、行動が遅いことや、言葉のみの指示の理解の難しさについては、指導の修正が必要であるということが明らかになりました。

 

 では、なぜこのような担任の先生の見立てと本人の実態とのズレが生じるのでしょうか。一つは、アセスメントの活用方法があります。

 今回の事例のような生徒は、日常会話が問題なくできてしまうように見受けられるので、一見すると知的な遅れもあまりなく、本人の発達段階以上の課題や成果を求められることがあります。そこには、担任や保護者の本人に対する期待も含まれており、愛情があってのことでしょう。しかしながら、根拠のない間違った見立ては、時として本人のキャパシティを超えた間違った指導につながる可能性があり、そこから本人が失敗を繰り替えすことで自信をなくしてしまうといった二次障害を引き起こす可能性があることを忘れてはいけないと思います。

 

 上記の生徒の場合、失敗して怒られることが怖くなり、よく理解してない指示に対しても「わかりました」と返事をしてしまうことや、部材が足りないような困った場面で、それを相手に伝えることができなくなっていました。そして、注意を受けるたびに、「僕がいけないです」、「僕はダメなんです」と自尊心が低下していると思われる発言がありました。

 一方で、「自分でよく考えなさい」という指導も、本人にとっては何がいけなかったのかが理解できず、結果として同じ理由で注意を受けるということが繰り返されていました。

 

「脱構造化」から「再構造化」へ

 たまに「学校教育が終わったら期待するような支援は受けられないのだから、早いうちに支援のない環境に慣れさせた方が良い」とう意見を聞くことがあります。確かに、本人の実態に合っていない過剰な支援であれば減らしていくことも大切ですが、完全に支援を取り上げるというのは大きな間違いです。

 私たちも視力が下がれば眼鏡をかけますし、日差しが強ければサングラスをかけることもあります。必要に応じては、コンタクトレンズを使用することもあるでしょう。時間の経過とともに、眼鏡の度数も調整します。このように、本人のニーズに対して支援の度合いを調整し、カスタマイズしていくことが重要になります。

 

 今回報告させていただい生徒の場合、忘れ物チェック表を活用することで、劇的に忘れ物や無くし物が減りました。さらには、チェック表に○が増える喜びの発言から、自尊心の回復も見られました。

 作業的な学習についても、スピードを求めるのではなく、「量より質」を求めることで、本人なりに課題意識をもって取り組むことができるようになってきました。そして、実習を控えていたこともあったので、実習先へ調査を行い、実際の実習で行う予定の作業内容を事前の授業に取り入れることで、本人も安心して実習に臨むことができ、実習も自信をもって無事におえることができました。

 つまり、それまで言語指示が中心であった指導に対して、支援ツールの活用や環境の調整を進めることで、本人が本来もっていた力が発揮できるようになっていったと言えます。

 眼鏡を無理矢理に取り上げて、本人が困った状態で学習に取り組むのではなく、むしろ適切な度数の調整をし、フィットするものとしていくことが求められているのではないでしょうか。 

 

 このように、支援を無くす「脱構造化」ではなく、支援の形を本人のニーズや実態応じて調整していく「再構造化」が大切です。

 

トップダウンアプローチの視点から

 トップダウンアプローチの視点として「企業では○○ができないといけない」だから「学校でも○○をやりましょう」といった話を聞くことがあります。しかしながら、企業のニーズが本人の特性と合っていないのであれば、無理に練習して、一時的に実習がうまくいったように見えても、後々何らかの弊害が出てくるでしょう。

 重要なのは、就労率が何パーセントであるかだけでなく、就労先の定着率にも注目していく必要があります。そして、定着率をあげていくためには、本人のニーズを就労先へ伝え、家庭も含めてどれだけ共有できるかがポイントなります。つまり、本人の特性と企業のニーズを把握し、針の穴を通すような緻密なジョブマッチングが必要だと言えるでしょう。

 逆に、本人の特性を無視して就労先へ本人が合わせるような流れをつくっても、なかなか安定した就労にはつながりません。できるだけ、チームとして本人と関わりのある人間を増やし、様々な視点で長所を引き出していくことが重要です。

 このような観点から「アセスメント」を考えると、日常的な観察を当然ですが、やはり心理検査の結果なども積極的に取り入れていく必要があるでしょう。確かに、検査を行うことに対して、抵抗を感じる教員や保護者もいるでしょう。しかし、検査の負担と間違った実態把握から指導がズレるリスクを考えると、やはり心理検査は効果的に行っていくことが望ましいと言えるでしょう。

 その際、必ずしも教員が心理検査を行うことができなくても、外部専門家を積極的に活用するという方法もあります。教員の重点は授業ですので、心理検査の結果を読み取る力を高めるだけでも、支援の手だてがより具体的になってくると思います。

 高等部だから検査は必要ないということはなく、子どものニーズや特性を正確に把握するためのツールとして、上手に心理検査を使っていきたいものです。

 

 指導と支援

 環境調整のみで対応しようとすると、特に問題行動のある場合は、刺激を軽減することに論点が向いてしまい、どんどん社会から離れてしまう危険性があります。そういった視点で「指導」を捉えると、見守るだけが支援なのではなく、本人のニーズに応じて正しいことを教えていくことも支援の一つであると捉えることができます。

 今回の事例のように、失敗体験を繰り返すと「またやってもダメだ…」と自尊心が下がっていきます。このような二次障害を引き起こさないためにも、心理検査や支援ツールを適切に活用し、出口に向かって整えていくことが重要です。

 キャリア教育として考えれば、小学部や中学部で高圧的な指導を受けていると、どうしても自尊心は下がってしまいます。熱心な無理解者にならないよう、思いの丈を言葉のシャワーとして子どもたちに浴びせるのではなく、一つ一つの言葉を大切に、子どもたちが理解し、自信をもてるような言葉かけや関わりをもって欲しいと願っています。

 そして、高等部では、支援がいらないのではなく、学校教育の仕上げとして、社会参加の際にも活用できる形にカスタムしていくことが有用なのだと言えるでしょう。

 

 次回は、シンポジウムの報告を兼ねて、自閉症教育の到達点と今後の課題について考えていきたいと思います。

 

 いよいよ新学期が始まります。気持ちを新たに、頑張っていきましょう。

綿引 清勝(わたひき きよかつ)

東京都立南花畑特別支援学校 主任教諭・臨床発達心理士・自閉症スペクトラム支援士(standard)
東京都内の知的障害特別支援学校で中学部、高等部を経験後、現在は小学部の自閉症学級を担任。自身の実践を振り返りながら、子ども達が必要としている支援とは何かを考えていきたいと思います。

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