2014.05.20
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個別指導計画と体育

東京都立南花畑特別支援学校 主任教諭・臨床発達心理士・自閉症スペクトラム支援士(standard) 綿引 清勝

 「個別指導計画」は特別支援学校で働いていると当たり前なのですが、小学校で働いている友人たちの話を聞くと、通常学級の先生方にはまだ馴染みの薄い方もいらっしゃるかもしれません。

 今回は、この個別指導計画から体育の支援について考えてみたいと思います。

 

個別指導計画を書くに当たって

 個別指導計画は、教科の視点から個のニーズを見ていくことがポイントになると思います。

 そして、個別指導計画を作成するに当たっては「その子が社会参加をしていく上で必要なことを、教育ではどう支援することができるか」という視点から、あくまで主語は子どもであって欲しいと考えています。

 「良い子」という言葉がありますが、なんでもかんでも我慢をして静かにしていられるような、教員にとって「都合の良い子」を育てるのではなく、その子らしく社会で生きていくために必要な力と支援の在り方を見出していきたいものです。

  

指導の道筋とゴールを焦点化する

 目標や評価を書くときには、「誰が見ても同じように確認できること」を大切にしています。

 

 例えば、「グラウンドでランニングを一生懸命頑張る」という目標にしてしまうと、「一生懸命頑張る」の意味がよく分かりません。「途中で歩いているから頑張っていない」という評価もあれば、「途中で歩いてでも頑張っている」という見方もあるでしょう。

 

 そこで、「グランドを10周走る」と具体的な目標を立てることで、「最初は15分で走れる距離が5周でしたが、現在では10周走れるようになりました。」というような評価につながり、その子は何ができるようになったのかがよく分かります。

 

 目標と評価はつながっているものです。

 

 「何」を「どこまで」学ぶのか指導の道筋を記し、そこでのゴールを絞り込んでいくことは、学習を充実させていくことにもつながります。 

 

気になるところではなく、良いところを

  少し体育から離れますが、

 

 「思春期に入り、悪い所ばかりが目についていましたが、うちの子なりに頑張っているのがよく分かりました」

  

 ある保護者から、個別指導計画の評価に対して、このようなお返事をいただいたことがあります。

  

 情けない話ですが、当時はその子の良い所や頑張っている所を上手に見つけられず、その子の学習が充実しているとはあまり感じることができていませんでした。原因は私自身の力不足ですが、文頭に書いた「都合の良い子」にしようとしていたようにも思います。そしてそれは、その子にとっても厳しい時期だったでしょう。

 でも、試行錯誤をしながら気になる行動を変えるという視点だけでなく、その子の良い所を探しているうちに、いつの間にかその子に対する見方も変わり、結果として変えるのではなく、良いところを引き出す支援に私自身の対応も重きが変化していました。

 

 その結果、 本人の生活や授業態度も安定し、できることも少しずつ増えていきました。

 

 もちろん、それだけをやっていれば良いわけではないので、授業を疎かにして良いという話ではありません。

 しかし、子どもの実態とニーズを理解しなければ、支援の手だてや方向性はずれていきます。 

  ですので、個別指導計画を作成するときは、子どもの実態とニーズを言語化し、自分がその子のことをどこまで理解しているのかトコトン向き合う良い機会だと思います。

 

 

体育の個別指導計画を書くには

 様々な個別指導計画を読んでいると、体育に限ったことではありませんが、「楽しみました」、「頑張りました」といった抽象的な評価を目にすることがあります。

 体育の水泳を例に考えると「水に慣れる」ではなく、「肩までプールに入る」、「顔全体を水につける」などと表現した方が、読んだ人は分かりやすいでしょう。

 

 プールが苦手なAくんの場合

  実 態:顔に水がかかるのを嫌がり、プールの活動を怖がっている。

  ニーズ:余暇を視野に入れて、プールでの活動が楽しめるようになりたい。

  活 動:水中宝探し

  目 標:水に顔を付けることができるようになる。

  手だて:目に水が入らないように、ゴーグルを付ける。

  配 慮:無理矢理水に顔を付けるのではなく、遊びながら活動に取り組めるようにする。

  評 価:最初は水を怖がっている場面もありましたが、ゴーグルを使って顔全体を水につけることができるようになりました。

  

 このように、実態からその子のニーズを把握し、目標に対してどのような手だてを講じるかで、学習の深まりが全く違ってくると思います。その際、教員の思いだけで子どもを捉えるのではなく、保護者とじっくり相談することが大切です。

 

押さえておきたいポイント

 体育の個別指導計画を考えていく際、「体育で学習したことが、他の日常生活場面やどういった動作につながるか?」、「日常生活で活用している様々な運動の技能をどう体育にも取り入れるか?」の二つの視点が大切ではないかと考えています。

 さらに、教科の目標が子どもたちの実態に難しいときには、基礎となっている自立活動の観点を取り入れていけると良いのではないかと思います。 

 

 子どもや保護者にとっては、たった一枚の個別指導計画です。

 

 学びの輝く姿が届けられるよう、丁寧に書いていきたいと思います。

  

 

 参考文献

宮崎英憲監修 特別支援教育の実践研究会編(2012)、「<特別支援教育>個別の指導計画を生かした通知表記入例と文例集」、明治図書、pp.120‐121

綿引 清勝(わたひき きよかつ)

東京都立南花畑特別支援学校 主任教諭・臨床発達心理士・自閉症スペクトラム支援士(standard)
東京都内の知的障害特別支援学校で中学部、高等部を経験後、現在は小学部の自閉症学級を担任。自身の実践を振り返りながら、子ども達が必要としている支援とは何かを考えていきたいと思います。

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