(教室の窓の外に見える医王山と山々)
心に刻んだ出会いがある。
一瞬の出会いだとしても、一生心に刻まれる出会いがある。
誰にでも必ずある「出会い」。
みなさんの心には、どんな出会いが刻まれていますか?
大切なのは、出会いを価値あるものとして心に刻むかどうか。
良い出会い。
悪い出会い。
価値ある出会い。
価値の薄い出会い。
どんな出会いを心に刻むか。
それは自分しだい。
「人生自己責任」
全ては自分しだい。
人間は、自分しだいで、どんな出会いも心に刻むことができる。
どうせなら、すばらしい出会いを心に刻んで行きたい。
出会いを、
良く刻むか。
悪く刻むか。
どのように刻むか。
全ては自分しだい。
私の連載も、あと2回で終了。
それで、全国の応援して下さっている皆さんとお別れ。
だから・・・
あと2回で、何を書くか。
それは、私の「あゆみ」。
私が心に刻んだ出会いの「あゆみ」を紹介したい。
【第1話】
里帰りをした時、じいちゃんが僕を応接間へ呼んだ。
二人っきりだった。
今まで、二人っきりで話したことなどなかったから緊張した。
じいちゃんは言った。
真顔で言った。
「和。お前は体が弱いんだから、しっかり勉強して、賢くなって、体でなく頭で働ける仕事をしろ。」
じいちゃんの目は笑ってなかった。
僕の将来をみつめて、言っていた。
僕は、黙ってうなづいた。
しっかりうなづいた。
一生懸命に勉強しようと思った。
先生の話をしっかりと聞いて、忘れないようにしようと思った。
それから10年。
じいちゃんが、こたつで大好きなプロレスを見ながら、息を引き取った。
「明日もバリバリ仕事するぞ!」
と、おじさんと飲んだ後に、プロレスを見ながら息を引き取った。
じいちゃんが死んだと聞いて1週間泣いた。
久々に学校へ行った。
「うあっ、泊、線香くさっ!」と、男友達。
「泊君、親せきやったから、近くにいたんでしょ。」と、女友達。
「それでか。」と、納得顔の男友達。
僕は、じいちゃんの苦労話を母からたくさん聞いていた。
だから、じいちゃんが思いやりの深さが、知らないうちに僕の心に刻まれていた。
だからか、一週間泣いた。
【第2話】
お別れの時に、「先生は、ガニマタなんだよ。」と、サンダルの外側が大きく減ったところを見せただけで行ってしまった先生。
悪い事をした子は一発、それを見て面白がってしまった僕たちを二発、手加減なくたたいて、大切にすべき人の道を一生忘れないようにして下さった先生。
僕たちを背負ってプールを25m泳ぎ、消しゴムを何度忘れても貸して下さり、春休みには自分の家に遊びに招いて大切にして下さった先生。
「ブッコロスー!!」と叫びながら、カッターを振りかざして友達を追いかける子を見て、「泊君、止めてきてくれ。」と言われ、一瞬驚いたが、全力で止めてくると「ありがとう。」と言った先生。
「君は印象に残らないから落ちる。安心して出なさい。」と、僕を生徒会選挙に出馬させた挙句に当選させてしまった先生。
授業に1秒でも遅れると、絶対に許してくれず教室から締め出すが、校内で出会うと、「泊さん、哲学していますか?」と笑顔で尋ねて下さり、歴代総理が食べに来るという老舗のうなぎ屋へ連れて行って吉川英治について語って下さった先生。
ゼミ希望の時に、第三次希望までも漏れて、どこにも行くことができない僕たち二人を、「引き受けよう。」と、拾ってくださった、末期がんの先生。
その先生が最後の入院をされた時、「君たちは僕が引き受ける。」と、預かって下さった、神風特攻隊の生き残りだった先生。
私は、数多くの師に出会い、育てて頂いた。
どの先生方の真心も、私の心には、確かに刻まれている。
【第3話】
教育実習が終わった後、持って帰ってしまった教科書を、茶目っ気を出しながら謝罪してお返ししたところ、軽蔑の眼差しで去って行かれ、真面目に仕事をせねばと反省して励んでいたところ、18年後に、「泊、がんばっとるらしいな。」と声をかけてくださり、本気で真面目の大切さを教えてくれた教育実習担当の先生。
初対面なのに、いきなり、「お前!俺が見込みがあると決めたんや!だから、お前頑張れ!」と、絶大なインパクトだけを残して去り、教員スタートの楔を打ち込んでくださった教員の大先輩。
口答えしたことに腹を立てて3日間口を聞いてくれなかった挙句に、「あんた、うちの人が正しいと言っていたから私が正しいんだからねっ!」と、生意気で手を焼いたであろう初任の私に、いつも本気で向き合い、叱り教えて下さった初任研担当の先生。
初めて、全国大会で研究授業をした時に、1年以上前にした私との約束を守って、私の授業だけを見に来て下さった元教員のおじいちゃん先生。ダメダメな授業だったにも関わらず、「えらいもんが出た!」と褒めながら去って行ったと思いきや、全体レセプション〆のスピーチで数百人を前に、「今日は素晴らしい大会やった!社会科の未来が楽しみや!」と語り、凡人の私にヘビー級パンチの衝撃と激励を下さった。実は教育界の重鎮だった、おじいちゃん先生。
私の実践報告を聞いて、「150人集めるから講演に来てくれ。」と約束し、実際に150人以上を集めて素晴らしい社会科研究会の取り組みを見せて下さり、社会科教員いかに生きるべきかを自らの姿で御指導下さった、有言実行、社会科の偉人の御一人、香川県社会科研究会の会長先生。
今は身近にいらっしゃらない先生方とのエピソードに限って、ほんの一部だけ挙げた。
どの先生との出会いも、心に深く刻まれている。
先生方の偉大さを思い出すと・・・折り返し地点を曲がって走っている自分は、これで良いのか?!と、いつも発心させられる。
いやぁ・・・
これらの出会いは、とても重く、とても深いが、法隆寺五重塔の芯柱のように私の人生を支えてくれている。
【第4話】
ある時、僕は、深く、深く、悩んでいた。
そして、苦しんでいた。
泣きたいほどに辛かったんだ。
その時、一個年上の先輩に声をかけてもらった。
「泊君、元気~?!」
その瞬間、悩んでいる自分がちっぽけに思えた。
決してちっぽけではない、大きな悩みだったんだが・・・。
なぜか一瞬で悩みから解放され、前向きな自分になった。
悩みは雲散霧消し、生きる活力が宿った。
ほんの一秒・・・。
出会うだけで、ここまで人を変えることができるって・・・。
生きる力を伝染させるシビレエイに、確かに僕は出会った!
現実の世界を生きるのは簡単ではない。
しかし、ドン・キホーテように、狂人だと思われようが、出会う人と本気で向き合って、心に勇気と希望の炎を宿す人間に出会ってしまった。
それから、僕の心の英雄の一人は、ドン・キホーテ。
ドン・キホーテを守り助けるドン・キホーテになりたい。
みなさんは、出会いをどのように心に刻んでいますか?
同じ出会いでも、
どう出会いを刻むかは、自分しだい。
人は、出会いの良い刻み方をすると、人生が変わります。
これで連載は、あと一回。
この場をお借りして、私の教育つれづれ日誌へのお便りを下さった方々へ、心から御礼申し上げます。
みなさんの励ましや共感のお便り、力になっています。
明日からも、感謝の心で頑張ります!

泊 和寿(とまり かずひさ)
石川県金沢市立三谷小学校 教諭
私は、子どもたちが目を輝かせて生き生きと学ぶ姿が大好きです。子どもが本気になって学ぶと、グワッと教師を越えていきます。今年も、そんな感動をめざしたいと思います。
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