2014.02.17
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「耳」と「音」でソチオリンピックを楽しむ

富山県立富山視覚総合支援学校 教諭 岩本 昌明

ソチオリンピックが開催され、日本人選手の奮闘とその結果に一喜一憂の毎日を送っています。改めてメダルを獲得することは並大抵ではないことを知らされています。同時に日本のマスコミは、どうも静かに選手に声援を送ることができず、不必要で過大な期待と重圧で押しつぶす傾向が強いようです。

 

さて、オリンピックほどではありませんが、本校でも先日スキー実習が実施されました。病弱と視覚の生徒が一緒に立山山麓スキー場[らいちょうバレー・極楽坂](注1)のゲレンデでスキーを親しんできました。

(注1:http://www.tateyama36.co.jp/

 

私は学校での待機組であったので、今年度の生徒のスキー実習の様子は直接知ることはできませんでした。しかし、生徒から数日経って私の英語の授業中に少しずつですが、スキー実習の様子や感想を聞くことができました。富山三つ星山の会(注2)のボランティアの方にスキーの指導援助も得ることができ、生徒はとても満足できたようです。

(注2:http://www.mitsuboshi.sakura.ne.jp/index.html)

 

 昼食と休憩着替えは、立山山麓温泉ロッジ太郎(注3)にお世話になりました。長いことずっと本校のスキー実習で利用させていただいております。

(注3:http://ltaro.com/

 

数年前ですが、先天全盲の生徒とスキーをしました。みなさん、目をつぶってスキーってできますか。私にはできません。先天全盲の生徒には、晴眼者の方が目をつぶってスキーをするのとは異なった感覚で、斜面を滑り降りるのではないかと思います。

私がA君と一緒にスキーをどのように楽しんだのか紹介したいと思います。まずリフトに乗る場所への移動は、ストックを鳴らしながら誘導します。歩行のガイドのように肘を持って移動することもあります。しかし、ストックなどが邪魔になり、片方の手が塞がり不安定になるので、できるだけ自分で移動するようにしました。スキー板での歩行は全く支障がない状態です。リフトに乗るときは、「ガタガタ」とリフトが回転してくる音と音の間隔を覚えます。リフトに座る位置に、さっと移動します。そしてA君と腕を組みながら、リフトが膝裏に「こつん」とぶつかるのを感じて座ります。リフトに乗っているときは、景色について、できるだけ解説をします。ゲレンデに流れているBGMの歌手や歌詞について話もします。そうこうするうちにリフトから降りる場面が近づいてきます。リフトから降りるときは、「降りるまであと30m。あと10m」などと距離で言う場合もあります。「あと10秒、あと5秒」など時間で言う場合もあります。そして、「さあスキー板を少し上向きにして」「はい、今だ」などと声掛けをし、リフトから滑り出ていきます。

 

TABS(Tokyo Association for Blind Skiers)(注4)という団体があり、このサイト中でスキーのサポートをしている動画も紹介されています。 私は初めてスキー実習の引率で生徒のサポートをするときに、校内のサーバーに保存されていた動画を事前に見て勉強していきました。その当時と似た動画が、このサイトでも紹介されています。

(注4:http://tabs.cocolog-nifty.com/blog/cat22366830/index.html

ゲレンデを下りてくるときは、私がA君の後ろから斜面の様子や、スキーをしている他の人や障害物などに注意して滑りやすいように指示を出します。「はい、右に回って、そのまま真っ直ぐだよ、次は左に」などです。A君は、既に十分上手に滑れたので、全く滑ったことがない全盲の方がどのような過程で滑るようになるのかは、残念ですが、私はよく分からないのです。でも、全盲の生徒がスキーをする場合は、声を掛けて、その声を頼りに斜面を左右に移動しながら滑り降りていきます。または声に代わる音のするもの、例えばストックなどを鳴らしながら、その音のする方に導きながら降りていくこともしました。気を付けなければいけないのは、障害物です。木やリフトの支柱や凹凸や、途中で止まっている別のスキーヤーやボーダーなどにぶつからないようになどしました。スピードが出過ぎて、転倒して打ち所が悪かったなどが起きないように注意しました。なだらかな斜面ではありますが、半日一度も転倒することなく、リフトも何回も利用して大変充実したスキー学習で終えたことを思い出しました。

 

さて、先日廊下ですれ違ったB君に「建国記念の日はどう過ごしていたのか」と尋ねました。B君は、「ソチオリンピックのスキージャンプの音を聞いていた」と答えてくれました。「シャーっ」という音がして、アナウンサーが「飛びました」や「着地しました」までの間を聞きくらべていたのだそうです。そして着地してからの「ザザァー」とスキーが雪と擦れる音を観賞して楽しんでいたそうです。B君には、ジャンプ台を滑走してくる音と着地してからのスキー板と雪が出す音の種類が違うことが分かるのです。さらに、その音と音の間隔で、飛距離が長いとか短いが分かるのだと言うのです。B君はソチオリンピックを音から楽しんでいたのです。

私は、今まで何気なくずっとアナウンサーや解説の方の説明を聞きながらテレビの画面を見ていました。でも、種目によって雪との摩擦で生じる「音」や「(選手等の発する)声」に特徴があり、その違いがあることに気づくようになりました。カーリング、アイスホッケー、スピードスケート、ボブスレーなどの種目を音の違いで感じ分けることができるでしょうか。「耳」や「音」からという別の観点から、オリンピックを楽しんでみてはいかがでしょうか。

岩本 昌明(いわもと まさあき)

富山県立富山視覚総合支援学校 教諭
視覚に病弱部門が併置された全国初の総合支援学校。北陸富山から四季折々にふれて、特別支援教育と英語教育を始め、身の回りに関わる雑感や思いを皆さんと共有できたらと願っています。

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