実践の場から
昨年末、学びの場.comより授業の取材がありました。自立活動の授業の様子など、興味深くご覧になっていただけて嬉しく思います。
通常の教育に特別支援教育の視点を取り入れると、勉強が得意な子もそうでない子も、一人ひとりの良さが、一人ひとりのものさしの中で輝き、自己有能感を得られるのではないかと思います。ぜひ「実践の場から」をご覧になっていただけると嬉しいです。
子どもに寄り添う「言葉かけ」
教育実践をする上で、子どもたちの「言葉かけ」に気をつけるようにしています。
私は短気な性格のため、感情のコントロールがとても下手だと自覚しています。そのため、「イライラ」とした時に、自分の感情を子どもたちにぶつけて、心を傷つけないように、言葉かけには特に気をつけるようにしています。それでも、思うようにできないことがしばしばです。
教師の何気ない一言で、子どもたちは勇気付けられたり、逆にやる気を失ってしまったりしているのではないかと思います。
言葉は言霊と言われたりするくらいですので、例え叱らなければならない場面でも、「寄り添い」を基本とした言葉かけを目指していきたいと思います。
Iメッセージで伝えよう
次に、指導者だけではなく、家庭での子育てにおいてもしばしば聞かれる言葉かけを見つめ直していきたいと思います。
よく、学校や家庭、街の中でも耳にする例を4つ取り上げたいと思います。
(1)「言うこと聞かないと、お菓子買ってあげないよ」
というような、権力を振りかざすことで子どもを従わせようとする言葉です。おどし表現とも捉えられるかもしれません。
では、どのように伝えたらよいでしょう。
「お菓子買いに行こうか。お片づけしてからね。」というように、先に、子どもにとってやりたいことや願いを受け止めてから、次に、大人がしてほしいことを伝えたらどうでしょうか。
「○○しないと、△△してあげないよ」という「おどし表現」は、
「△△しようね。○○してからね。」と「願いや思いの共有表現」にしてみましょう。
(2)「もう、何やってんの!」
というような、大人の怒りの感情をただぶつけている表現です。子どもにとっては良かれと思ってやっていることもあります。ただ怒られても、子どもは何がいけなかったのか、ではどうしたらよかったのかわかりません。
「ちらかすのはやめてほしいな。箱にしまってね」というように、「(私は)こう思う」「(私は)困るの」というように「私は」という主語をつけた表現にしてみましょう。つい、「あなたは何してるの」という「あなた(YOU)」メッセージになると、相手の否定ばかりをぶつけてしまうからです。
「何やってるの!」という「感情表現」から
「(私は)やめてほしいの」という「I(アイ)メッセージ」で伝えてみましょう。
(3)「やめなさい、ダメでしょ」
というような、禁止、否定だけを言う表現です。もちろん、お子さんにとり危険が迫る場面では、仕方ないと思います。そうではない場合、ただ「ダメ」「やめろ」と言われても、これも、なぜだめなのか、どうしたらよいのか分かりません。
「机の上でお絵かきしてごらん」というように、大人がしてほしいことや、やってもよいことを伝えてみましょう。
「ダメでしょ!」の「禁止・否定表現」から
「○○してごらん」と「さそいかける表現」で伝えてみましょう。
(4)「ちゃんと座りなさい」
というような、命令表現、禁止表現です。これはよく言ってしまいがちですが、言われた子どもは、ふてくされてしまったり、反発心をいだくだけだったりします。それに、「ちゃんと」という言葉には具体性がないので、「何をどこまでやれば」大人が求める「ちゃんと」になるのか分かりません。
「背中を伸ばして座ろう」というように、何をどうして欲しいのか具体的に伝えてみましょう。
「ちゃんと座りなさい」の「命令語・禁止語」から
「背中を伸ばして座ろうね」と「具体的な期待」を伝えてみましょう。
いかがでしょうか。良くないとしてあげた表現は、実は私がよく言ってしまいがちな表現でした。意識をしないとつい口から出てしまう表現なんです。
この時に「あなたは何で○○なの」という、「あなた(YOU)」を主語にしてしまうと、子どもに否がある表現になってしまいがちです。そこで、「私(I)」を主語にすると、柔らかい表現で、「どうしてそう思った」のかや、「どうしてほしいのか」ということが相手に伝わりやすくなります。
子どもたちは、相手の考えが分かれば、次からは自分で相手の心理も受けとめ考えながら行動するように、少しずつなっていくと思います。
ぜひ、「I(アイ)メッセージ」で伝えてみてください。
インフルエンザが大流行しているようです。お身体を大切にしてすごしてくださいね。
植竹 安彦(うえたけ やすひこ)
東京都立城北特別支援学校 教諭・臨床発達心理士
肢体不自由教育からの視点を中心に、子どもたちの発達を支えるために日々できることを一緒に考えていきたいと思います。
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