2014.01.16
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乱暴な子の誤解を理解へ~固有覚の働き~

東京都立城北特別支援学校 教諭・臨床発達心理士 植竹 安彦

今年もよろしくお願いします

 新年明けましておめでとうございます。2014年もよろしくお願いします。

 

 3学期が始まり、約2週間ぶりに子どもたちと再会しました。みんな大きな病気もせず、元気に登校してこられたことに安心しましたが、やはり長期休業があると子どもたちの身体の硬さが気になります。

 

 身体にまひがある子が多いので、体の硬さは仕方がない部分もありますが、意図的に身体を日々動かす大切さを改めて感じる瞬間でもあります。

 

 さて、今回は、体の動きについて考えていきたいと思います。

 

乱暴な子・不器用な子の理解

 

 文字を書く際に、筆圧が高く何本も鉛筆の芯を折ってしまう子。人を呼ぶ時に「ねぇねぇ」ではなく、「バシバシ」と友達を叩きけんかが絶えない子。牛乳パックからコップへ注ごうとすると、一気に注いでしまい必ずこぼしてしまう子。理科の実験で試験管を洗う際に底を抜いてしまうなど、力任せな行動が目立つ子。など、乱暴・がさつ・不器用などのイメージをもたれやすい子が皆さんの周りにいませんか。

 

 つい周りの大人は、「ちょっと何やってるのよ」「もっと丁寧にやりなさい」「何やってるのよ、集中しなさい」などといった声をかけがちではないでしょうか。

 

 でも、こういった子どもたちのほとんどが、わざと乱暴やがさつに振舞っているわけではないことがほとんどです。本人に自覚がないのに、いつも周りから、冷たい言葉をかけられていたら、どんなに心が傷つくでしょうか。

 

 だから、自覚させるために「よく見なさい」と注意しているのです、という方もいらっしゃるかもしれません。

 

 この力の調節などをつかさどっている感覚を「固有覚」と言います。視覚や聴覚は、見えて、聞こえてと、いつ使っているか自覚しやすい感覚ですが、この固有覚は、いつ、どのように使っているのか平衡感覚と同様に自覚しにくいことから、子どもたちは誤解を受けやすいのです。

 

固有覚の働き

 

 固有覚は関節や筋、腱の中にセンサーにあたる感覚受容器があり、筋肉や関節の動きを感じとっています。もう少し具体的には、「筋肉に生じている張力」や「関節の角度や動き」を感知しています。

 

 では、この固有覚を受け止める回路のつながりが悪かったらどうなるでしょうか。そうです、それが先ほどお伝えしたように、自分の体をどのように動かしているのか実感が伴いません。そのため、力加減が分からず、本人は「トントン」のつもりでも、結果は「バンバン」と叩いてしまうなど、乱暴な子と受け止められてしまうのです。

 

 乱暴な子、ガサツな子と受け止められがちなお子さんの背景に、もしかしたら固有覚がうまく働いていないのかもしれないと考えてみると、少し受け止め方も変わるのではないでしょうか。

 

 そして、背景が分かってきたうえで、どのようにしたらよいかが気になるところですね。

 

 指導のポイントとしては、各関節がしっかり曲げ伸ばしされたり、腱が痛みが伴わない程度によく伸ばされること、重みがしっかり感じられるような物を持ったり、ギューっと力を入れて押すなどの活動が効果的です。

 

 例えば、ストレッチ体操や、太極拳や日本舞踊のようなゆっくりと身体を動かす運動も良いでしょう。また、少し重いものを運ぶお手伝いや、お相撲遊び、木登り(登り棒)、ジャングルジムに登る、鉄棒にしがみつくなども良いと思います。

 

 固有覚の働きやメカニズムが分かると、もっといろいろな活動が思いついてくると思います。このような全身運動を取り入れていくと、少しずつ身体への実感が伴い出し、力加減が分かってきたり、体の位置感覚が高まり、器用さが育ってくると思います。

 

背景を読み取る心を

 

 このように、何かおかしいな、どうしてなんだろう、という行動の背景に何か理由があるのではないかと考えるようになると、つまずきがある子どもたちの良き理解者になれるのではないかと思います。

 

 

 寒さが増してきました、みなさん風邪をひかないようにおきをつけください。また次回もよろしくお願いします。

植竹 安彦(うえたけ やすひこ)

東京都立城北特別支援学校 教諭・臨床発達心理士
肢体不自由教育からの視点を中心に、子どもたちの発達を支えるために日々できることを一緒に考えていきたいと思います。

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