一年の終わりに
2学期も終わり、2013年もあとわずかですね。今年も子どもたちの成長に驚かされることがたくさんありました。障害があってもなくても、みんな学びたがっていることを強く感じた一年でした。
子どもたちにとっての一年は、大人の過ごす一年とは比較にならないほど、貴重な一年だと私は思います。
未来は今、この時の積み重ねです。未来に向けた今を輝かせる学びの場をつくりたいと思います。
―Sensory Integration- 感覚統合と環境
今月、12月7日、8日と日本感覚統合学会が主催する、「第31回日本感覚統合学会研究大会(東京大会)」へ参加してきました。
「すこやかな育ち―感覚統合と環境―」が大会のテーマに掲げられており、今の子どもたちが育つ環境について「これで良いのだろうか」と改めて考える必要を強く感じました。
そこで今回は、「子どもが育つ環境」について考えていきたいと思います。
子どもが育つ環境
今回の研究大会の特別講演で、環境建築家・東京工業大学名誉教授の仙田満先生はこのように述べていらっしゃいました。
「こどもは幼い頃からあそびを通して、さまざまな能力を獲得していく。その能力を5つに分類すると、身体性、社会性、感性、創造性、挑戦性である。身体性とは体力・運動能力である。」
さらに
「社会性はアメリカの作家ロバート・フルガムが著しベストセラーとなった『人生に必要な知恵はすべて幼稚園の砂場で学んだ』本の題名のように、けんかをして仲直りすることは小さな頃にあそびを通して学ぶといったことである。
こどもの成育環境はあそび空間,あそび時間,あそび集団,あそび方法という4つの要素で構成されていると考えられる。」
と、おっしゃっていました。
仙田先生のお話をうかがい、私の心の中では、子どもが育つこれらの環境がそろっているのは、現代では、「学校と公園」ではないかと思いました。
しかし、その公園ですら、週末であっても子どもの姿が減っているように思います。
公園から子どもが減っている要因として、昨今の子どもを取り巻く社会環境があります。みなさんも容易に思いつくと思いますが、誘拐や幼い子どもへの犯罪などが新聞をにぎわせていることから、保護者も子どもだけで公園へ行かせることにためらいがあると思います。
また、共働きの家庭が増え、平日はもとより、週末であっても子どもに関われる時間が減っていると思います。
さらに、公園の遊具も安全管理という点から、昔はあった回旋塔とよばれるクルクル回る地球儀のような遊具などは絶滅してしまったかのように見られません。このことは、子どもの遊びを単純化させ、遊びによる知的好奇心も減らしてしまったのではないかと私は感じています。
子どもたちも、平日にクタクタになるまで頑張って働いてくれている両親を、公園に連れて行って欲しいと言いづらい時代でもあるかもしれません。そんな時に子どもたちはつい、テレビゲームで時間をつぶしてしまっているのが今の日本だと思います。
心と体を育てる意義
そのようなご家庭でも学習塾には通わせていることが多いと思います。
でも、学力は、学びを支える「心と体」が育っていないと伸び辛いということを知ってほしいと思います。
心と体が育っていないと、せっかく、高いお金を払って学習塾へ通わせても高い効果を出し辛いのです。
幼いころより、ご両親と公園で体を使い遊ぶことにより、親と子の「共育」がされます。
例えば、ブランコを押してもらうことで、運動発達面では、平衡感覚や手の発達が促されます。そうした機能面にプラスして、お父さん・お母さんに揺らしてもらうことで楽しく遊ぶことができた体験から、「お父さん・お母さん大好き」という感情を心の中に宿します。
いつも私を守ってくれている、支えていてくれるということが、言葉ではなく体を通して伝わり、見えはしませんが、心の中の土にいつも栄養を与え続けてくれます。この幼少期の体験は、大人になっても心の土をうるおしてくれる源となることでしょう。
また、最近ではほとんどみられなくなった、「木登り」をぜひお子さんと一緒に体験してほしいと思います。今の子どもたちには、木に登るということは、ものすごいチャレンジに感じるはずです。
木登りは、手をかける場所、足場は自分の体との対話で作り出します。すべり台のはしごのように、見える形では用意されていません。そして、手の力、足の力と勇気で木に登り、降りるか、ジャンプして地上に戻ります。
すぐに、運動分析をしてしまうのは、私の職業病ですが、木登りから、体を支える力加減や体の部位を感じる固有覚が育ったり、バランス感覚や、どこに手や足をついてのぼろうかという運動企画力が育ったりします。
ここで保護者が関わることで、まだ弱い手足の力を少し支えてあげ気に登り、自分の目線がはるかに高い世界へたどり着く経験は、チャレンジする心や、誰かと力を合わせる大切さを体験から学べると思います。
昔は、近所の路地裏など、どこでも遊び場が保障されていました。そこには、地域の大人の目が必ずあり、町が子ども達を育ててくれていました。
地域の絆が築きにくい現代だからこそ、改めて「遊ぶ環境」を創造しないと、「生きる力」に満ちた大人に育つための足場が育ちません。
私は「外遊びでこそ子どもの根っこが育つ」と考えます。
研究大会の特別講演2で、横浜の川和保育園の園長である、寺田信太郎先生がこのように述べていました。
「子どもにとって『あそぶ』ことは、生きることそのものと言っていいと思います。
まず、自分が「やりたい」と思うことを選ぶ。自分で考えて何かを創り出す。友だちやお兄さんお姉さんの姿をみてあこがれを持つ。自分ができないことに挑戦して、失敗したり、できなかったりしながら、やがてできなかったことができるようになる。こうしたことを経験する場が「環境」であると考えています。
チャレンジする意志を育てることこそが『生きる力』そのものであると考えています。そしてこれは、自ら選びとったもので十分にあそぶことでしか養われないものなのです。」
寺田園長の講演では、川和保育園で生活する園児のビデオ映像を見せていただきました。体を使った遊びを通して達成した時の園児の顔はみんなキラキラと輝いていました。そして、友達ができて自分にできないことを悔しがり、何度も挑戦してできた時の、新しい自分との出会いは、全身から喜びがあふれていました。そしてどの園児も話を聞く姿勢、遊びに学習に取り組む集中力は素晴らしいものがありました。
子どもの輝く姿は、大人の心も動かします。
きっと保護者も子どもの輝く笑顔を見たいと思い、子育てしていると思います。ぜひこの冬休みに、子どもと大人が共に育つ遊び環境を見つけてみてください。寒いけど、輝く笑顔が公園にあふれていたら、きっと一人、また一人と親子で公園へ出かけるのではないかと思います。
子ども達の笑顔が町に増えることで、元気な日本になる2014年になったら嬉しく思います。
2014年もよろしくお願いします。
植竹 安彦(うえたけ やすひこ)
東京都立城北特別支援学校 教諭・臨床発達心理士
肢体不自由教育からの視点を中心に、子どもたちの発達を支えるために日々できることを一緒に考えていきたいと思います。
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