2013.12.26
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特別支援学級でできる書写の授業

東京学芸大学教職大学院 准教授 増田 謙太郎

 新年早々に、毛筆で書初めをする学校も多いのではないでしょうか。

 

 私が担当している特別支援学級にて、12月に「運筆スピードのコントロール」と「筆圧コントロール」の二つを目標として、書写の単元を設定しました。年明けに、毛筆での書初めをやる前のウオーミングアップといったところです。

 

 

「運筆スピードのコントロール」への指導・支援
 鉛筆で字を書く時に、とにかく速く書ける、でも字はとても汚い。という子供がけっこういます。
 特別支援学級の子供は、なぞり書きや視写などで字を書く練習(猛特訓!?)をして、文字を習得するケースが多いです。

大人側も「とりあえず字が書ければOK」と思ってしまうことが多く、丁寧に字を書くことには目をつぶってしまいがちです。

 

 でもある程度まで書けるようになると、やっぱり書いた字の美しさは気になってきますし、漢字の学習へ進むに当たっては、やはり文字をきれいに正しく書けるようにしたいものです。

 

 そこで、「運筆スピードのコントロール」のために、以下の指導・支援を考えました。

 

○ゆっくりエクササイズ

 まず、書写の授業の初めに、太極拳のように、ゆっくり身体を動かすエクササイズを行います。

 指導者が子供の前で、ゆっくり手を下から上にあげます。

 子供には指導者の動きに合わせて模倣させます。

 上まで行ったら、今度は下へ。左から右へ。

 「ゆっくり」とはどういうことか。体で表現します。

 

 字を書くということは、運動のひとつです。運動が上手くなるためには、自分の動きをコントロールする力が必要ですね。

 「ゆっくり」体を動かすことに慣れてくると、運筆するときに「ゆっくり!」と声かけしてあげるだけで、コントロールを意識できるようになるでしょう。

 

 

○すずりいい子いい子作戦

 文字を速く書く子供の特徴として、運筆スピードの速さだけでなく、次の画への移動も素早い様子が見られます。その結果、始筆がいいかげんになります。

 そのために、一画書いたら、筆で、すずりを「いい子いい子」することを教えましょう。

 「赤ちゃんにいい子いい子するみたいに、やさしくね。」とイメージを持たせられるとよいと思います。

 

 

 

「筆圧コントロール」への指導・支援

 筆圧のコントロールとは、「力加減」を学ぶことです。書字の場面に限らず、日常生活で力加減を調整できない子供はけっこう多いです。

 

○ギュっ! ちょっとギュっ! トン!

 筆圧の強さを「ギュっ! ちょっとギュっ! トン!」の三つの擬音語で表現します。

 

 「ギュっ!」は、穂先が完全に曲がるくらい力を入れた状態。使うのは、始筆の時。

 「トン!」は、穂先が少しだけ付くくらい。使うのは、「はらい」の始筆の時。

 「ちょっとギュ!っ」は、その中間。使うのは、運筆している時。

 

 ちょっとギュ!が、一番難しいです。ですが、この感覚をマスターできると、運筆の時に、力が入りすぎない状態になります。

 

 よく体育で「跳び箱」の指導の時に、「ダー! タン! バン!」なんて言って、踏み切りや着手をイメージさせるやり方があると思います。あれと同じで、擬音語的な指示は、けっこう子供たちに伝わりやすいですね。

 

 このエクササイズは、先ほどの「ゆっくりエクササイズ」と同様、力を入れすぎない状態というのはどういうものかを体感するものです。

 

 いきなり筆に墨をつけてやるのではなくて、墨をつけない状態で、床や机の上で練習するとよいでしょう。

 

 

○筆圧の介助の仕方

 筆圧の調整がどうしても難しい子供には、声かけやトレーニングだけでは不十分ですので、字を書くときに介助をして、力加減を体感できるようにしてあげましょう。

 よくこういうときに補助者は、筆に手を添えて教えています。

 それよりも、写真のように手のひらの下から、指一本ストッパーのように抑えてあげるとよいでしょう。

 

 

 よく、書写の授業では「丁寧に字を書きましょう」と、子供に向けて言いがちです。

 でも、「丁寧に書く」というのはとても抽象的です。

 「丁寧に字を書く」ために、どうすればいいのかを分析して、教えてあげることが大事ですね。

増田 謙太郎(ますだ けんたろう)

東京学芸大学教職大学院 准教授
インクルーシブ教育、特別支援教育のことや、学校の文化のこと、教師として大事にしたいことなどを、つれづれお話しできたらと思います。

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