2013.12.11
  • twitter
  • facebook
  • はてなブックマーク
  • 印刷

ドキドキする「褒め方」

東京都立城北特別支援学校 教諭・臨床発達心理士 植竹 安彦

風邪の流行る季節に

 マスクの季節になりました。私は風邪が流行り出すこの時期から、花粉症シーズンが終わるまで、マスク生活になります。私の勤務校の中には、進行性の障害のお子さんもいますので、風邪一つが命にかかわることがあります。「風邪は万病のもと」という言葉がありますが、本当にそう思います。まずは、自分がひかない心がけが子ども達の健康につながりますので、今年もいろんなマスクを試しながら過ごしたいと思います。

 

「褒める」ことの意義

 

 さて、今回は「褒め方」についてお話したいと思います。

 

 前回のつれづれ日誌で、「自己有能感」について書きましたが、褒めることは正に自己有能感につながる第一歩だと思います。

 

 そして、なぜほめるのかという点も、少し考えながらお話したいと思います。なぜかというと、ほめること一つをとっても、子どもを育てることを仕事としている私たちにとっては技能の一つだと捉えているからです。

 

 私は、褒めるということは、「相手を認めること・受けとめること」「相手の存在を確かにする作業」であるとも捉えています。ほめることの意義を整理できていると、より効果的に褒めることができると思います。

 

「ドキドキする」褒め方

 

 一人一人の子どもにとって、タイミングよく、相手に合った称賛を伝えることが出来た時、顔がぱっと明るくなり、聞こえるはずのない胸の鼓動が「ドキドキ」と高鳴っているように感じることがあります。

 

 そんな素敵なドキドキのある教室になった時に、より深い学びの場となるのではないでしょうか。

 

 私自身、褒めることくらいできているよ、と数年前は思っていました。しかし、以前も書きました教師道場での授業改善の中でハッとする出来事があり、褒めることというのは、実は奥が深いと思ったことがあります。

 

 それは、ビデオ分析による検証を行った際です。自分は褒めているつもりが、授業の展開を急いでいたのか、形だけ拍手はしているものの、相手を最後まで見ずに褒めていました。

 

 その際に道場のリーダーからは、「今、あなたを褒めているのですよ」と相手に伝わる褒め方をしていなければ意味が無いと指摘されました。

 

 それ以来、褒め方というのをとても意識しています。そんな中で整理できた、「褒め方のポイント」を5つにまとめてみました。

 

(1)「事実を具体的に褒める」

 例えば、掃除をしている場面で、「Aさんの、ほうきを持つ右手の握り方が良いですね。」とか、「もう係活動やってくれたの?早いなぁ」など、どの部分がどのように良かったのか具体的に伝えることです。

 

 事実を言われているので、子どもにとっても、受け入れやすいと思います。

 

 そして、子どもにとっては、「そんな細かいことまで気づいてくれているのか」となれば、先生は見守ってくれているという「安心感」にもつながると思います。

 

(2)「その子に合った褒め方」

 先生は褒めたつもりでも、子どもにとっては、「そんなの当たり前だよ」とか「今頃気付いたの」ということもあります。相手の心をくすぐるではありませんが、その子一人一人に合った褒め方というのも必要です。

 

 例えば皆から注目されたくない状況のお子さんがいたとします。その際は、何か褒めてあげたい場面で、ポンと肩をたたき、コクンとうなずいてあげるだけでも十分なこともあると思います。

 

 また、集中しづらいお子さんの場合では、すぐに褒めずに、目をあわせてから、一瞬間を置いて、集中を高めてから「正解でーす」など、してあげることで、学級全体の集中力が高まることがあります。

 

 相手の性格、置かれている学級での状況・立場などを踏まえて褒めることが大切だと思います。

 

(3)「その時、その場で褒める」

 これは、言葉のままですが、その良かった瞬間に褒めることで、嬉しさを共感することができます。嬉しいことはやはり、共感できることで、何倍にも膨らむと思います。

 それに、後から、「さっきのあの場面良かったね」と言っても、子どもにとってはなんのことだっけとなっては、効果も半減です。

 

 そして、もうひとつ、その場で褒める意義としては、子ども達は自信がなく活動している場面もあります。そこで、「いいんだよ、あってるよ」とか、「いい調子、大丈夫だよ」など行為を認めることで、安心して取り組めることにもなります。

 

(4)「心を配る」

 これは、子ども達のほんの小さな「しぐさ」「まなざし」「表情」などに気づこうとする視点です。どうしても先生は結果だけに目を向けてしまいがちです。でも途中の過程こそ子ども達には価値がありますので、そこを見落とさない心配りです。

 

 例えば、いつも発表場面で手を上げられない子が勇気をもって手を上げたとします。さしてあげられればよいかもしれませんが、そうもいかない場面や、もしかしたらまだ話すことに自信がないかもしれません。その時に、「Bくんも手をあげてくれたね、ありがとう」や言葉でなくても、ちらっと目を併せてうなずいてあげるだけでもBくんは認められたと感じられると思います。そんな小さな心を配れたら、子ども達同士も、そんな小さな変化も大切に育ってくれるのではないでしょうか。

 

(5)「褒め方の方法・技を増やす」

 褒め方もいろいろな方法があります。外国人の方を見ていると、本当に表情豊かに全身で褒めています。英語の外国人講師の先生から、いろんな身振りや、褒める言葉もレパートリーが大切だと教わったことがあります。

 

 私も「すごい」「やったぁ(ハイタッチ)」「Excellent」など言葉だけでもいろいろ使います。さらに、手をグルグル回してから拍手など、嬉しい瞬間をいかに一緒にたのしむかとうことをしています。

 

そして、褒めることは「ありがとう」「お疲れ様」など感謝の言葉、ねぎらいの言葉も含まれると思います。この言葉は、先ほども書きましたが、相手を認める言葉です。子ども達にとり、相手のために何かできた力というのは、社会の一員として力を果たす力になります。相手を思う正に「思いやり」の力の根源です。

 

 そして、「君ならできるよ」といった未来の可能性を認めることも一つの褒め言葉だと思います。いろいろな褒め方を研究できればと思います。

 

いよいよ、師走です。子ども達と残りの2学期を大切にかけ抜けたいと思います。ではまた次回もお楽しみに。 

植竹 安彦(うえたけ やすひこ)

東京都立城北特別支援学校 教諭・臨床発達心理士
肢体不自由教育からの視点を中心に、子どもたちの発達を支えるために日々できることを一緒に考えていきたいと思います。

同じテーマの執筆者
  • 吉田 博子

    東京都立白鷺特別支援学校 中学部 教諭・自閉症スペクトラム支援士・早稲田大学大学院 教育学研究科 修士課程2年

  • 綿引 清勝

    東京都立南花畑特別支援学校 主任教諭・臨床発達心理士・自閉症スペクトラム支援士(standard)

  • 岩本 昌明

    富山県立富山視覚総合支援学校 教諭

  • 郡司 竜平

    北海道札幌養護学校 教諭

  • 増田 謙太郎

    東京学芸大学教職大学院 准教授

  • 渡部 起史

    福島県立あぶくま養護学校 教諭

  • 川上 康則

    東京都立港特別支援学校 教諭

  • 中川 宣子

    京都教育大学附属特別支援学校 特別支援教育士・臨床発達心理士・特別支援ICT研究会

  • 髙橋 三郎

    福生市立福生第七小学校 ことばの教室 主任教諭 博士(教育学)公認心理師 臨床発達心理士

  • 丸山 裕也

    信州大学教育学部附属特別支援学校 教諭

  • 下條 綾乃

    在沖米軍基地内 公立アメリカンスクール 日本語日本文化教師

  • 渡邊 満昭

    静岡市立中島小学校教諭・公認心理師

  • 山本 優佳里

    寝屋川市立小学校

ご意見・ご要望、お待ちしています!

この記事に対する皆様のご意見、ご要望をお寄せください。今後の記事制作の参考にさせていただきます。(なお個別・個人的なご質問・ご相談等に関してはお受けいたしかねます。)

pagetop