2013.12.05
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生最高!「時代を担う子供の文化芸術体験事業」と指揮者体験

富山県立富山視覚総合支援学校 教諭 岩本 昌明

 11月27日に、「時代を担う子供の文化体験事業」による「巡回公演」が本校でありました。
(参考:http://www.kodomogeijutsu.com/
 この事業は文化庁が担当する事業です。この事業に関心がある学校関係者の方は、名称が次年度は「文化芸術による子供の育成事業」に変わるそうですが、平成26年度実施校の募集がすでに始まっており、提出書類の期限が平成25年12月26日(木曜日)必着と迫っております。お急ぎ下さい。

 なお、この「募集は,平成26年度概算要求(「文化芸術による子供の育成事業」)の内容に基づき実施希望校の募集を行うものです。このため,今後の予算編成の状況等によっては,内容の変更や,規模の縮小,スケジュールの遅れ等が生じる場合がありますので,あらかじめ御了承の上,応募してください。」と但し書きがあります。私は、この事業に関しては、概算要求が満額認められること、また少しでも増額されることも願っております。

 

 「時代を担う子供の文化体験事業」といかめしい名称ですが、簡単に言えば、芸術鑑賞の機会があったということです。この実施要項(案)の第1条(趣旨)には、次のことが示されています。
(参照:文部科学省)

 

(趣 旨)

第1条 次代の文化の担い手となる子どもたちが、優れた舞台芸術の巡回公演等を鑑賞し、文化芸術団体等による実演指導、ワークショップやこれらの団体等との共演に参加し、優れた舞台芸術に触れること(以下、「巡回公演事業」という。)又は、一流の芸術家の派遣による講話、実技披露、実技指導を体験すること(以下、「派遣事業」という。)により、将来の芸術家の育成や国民の芸術鑑賞能力の向上につなげるとともに、子どもの発想力やコミュニケーション能力の育成を図る。

 

 実は単なる芸術鑑賞として、児童生徒に文化芸術体験を行うのみならず、「芸術表現を通じたコミュニケーション教育の推進」ということが謳われています。

 そのためかどうか分かりませんが、「本公演前に文化芸術団体が学校へ赴き、鑑賞指導や実技指導をおこなうワークショップがあり、公演の鑑賞や児童・生徒との共演をより効果的なものとすることができる。」ことも、実施要項の中で示されています。(上掲文化庁のサイト参照)

 

 今回本校に来ていただいた文化芸術団体は、学校法人大阪音楽大学のザ・カレッジ・オペラハウス管弦楽団といいます。事前のワークショップが7月にあり、管楽器、木管楽器、打楽器の代表の方が、楽器に触れる機会を作っていただきました。私は、今回の本公演の伏線になっていたことを、恥ずかしいことですがきちんと理解しておりませんでした。生徒には実りあるものとなったように感じました。と言うのも、楽器紹介の中で、演奏者の方が、「7月に私が来て、皆さんと○○をしましたね。」「夏に来たときは、△△をしましたが覚えていますか。」などと、児童生徒に7月のことに触れて話し掛けて下さいました。視覚障害の児童生徒らは、顔や姿形など外見を記憶に留めていなくても、声や話しぶり等の特徴をよく覚えており、ワークショップの時と本公演とがリンクしたような顔になってきました。今日は楽団の演奏を聴くことで、ちょっとよそ行きの緊張にあふれていた顔が、一度来校された方が含まれていることを知り、少しほぐれ、親近感が湧いたように感じました。楽団の方とのコミュニケーションが一つ成立したようです。

 

 私は、当時この事業があったか分かりませんが、小学生の時に「注文の多い料理店」を、中学校の時に「ベニスの商人」や「まんじゅうこわい」をどこかの劇団が来られ、それぞれ学校の体育館で、また高等学校の時にある東京の交響楽団の演奏を学校近くの文化施設で鑑賞したことを思い出しました。観賞したという記憶だけになっていますが、頭の片隅に今もしっかりと残っています。目に焼き付いていると言えるかもしれません。テレビなど情報や文化に触れる機会が今ほどは多くなかった私の青少年時代には、それは貴重な機会であり、これによりちょとだけ文化の香りに浸ることができたのだと思います。

 

 話が前後しますが、弦、木管、金管、打楽器の4つのパートの楽器紹介がありました。説明をされる方が、視覚障害の児童生徒に配慮して楽器を紹介されました。通常であれば、「楽器を見てください。これがヴァイオリンです、これがホルンです」となるでしょう。本校では、「□□の木でできています。縦60cm、横20cm、生まれたての赤ちゃんほどの大きさで、こんな音が出ます」などのように、できるだけ具体的に楽器がイメージとして残るように、大きさ、材質、音などの情報と関係づけて紹介していただきました。また、楽器のパートが、どの位置に配置されているのか、前の方、右の方、左の方、奥の方などと紹介してくださいました。とても分かりやすかったです、楽団の方々には、本校の実情に合わせた事前の準備も大変であったことと推察いたします。

 

 個人的に「指揮者体験」のコーナーが印象に残りました。指揮者の大勝秀也(おおかつしゅうや)さんに言われるまま、会場の児童生徒だけでなく、私たち教職員や保護者の方が、一斉に席を立ちます。そして、大勝さんから簡単な指揮のコツを伝授していただきます。会場にいる方が全員指揮者となり、腕を上げ下ろししました。大勝さんは、「この中の誰かの指揮を楽団が見て演奏します。頑張って皆さん指揮をしてくださいね」と、全員が真剣に指揮に取り組むように励ましてくださいました。私も指揮をしました、まるで自分の指揮を見て楽団の方が演奏してくださっているかのようで、なんだか嬉しい気持ちになりました。無事全員がカルメンの指揮を終えました。

「これで、ここにお集まりの皆さんが全員、楽団を前にして指揮を体験されたことになりますね」と言われ、どの方も何とも言い得ない充実感に浸ることができました。

 

 全員でのバーチャル指揮者体験後、児童生徒代表3名が直接指揮棒を持って、楽団の前に立って指揮者を体験しました。さすが楽団の方はプロです。児童生徒の指揮の上げ下ろしのスピードとタイミングに上手に合わせて演奏を変えて下さいます。3人3様のカルメンの演奏も聴くことができました。翌日私の授業で感想を聞くと、指揮者体験が一番良かったと話してくれました。自分のタクト一つで、楽団全員が演奏してくれたのですから「チョー気持ちよかった」という感想も聞くことができました。指揮者としての初体験は、児童生徒の心にきっと大きな想い出として残ったものでしょう。余談ですが、指揮者の大勝さん自身も、小学校の時に指揮者になろうと思われたのがこのような演奏会がきっかけとのことです。将来の指揮者が、現れるかもしれません。楽しみです。

 

 また、私は、東日本大震災のチャリティーソングである「花は咲く」を、楽器紹介の中で生で演奏されるのを聞いて、その演奏の豊かさに理由が分かりませんが、思わず涙を誘われそうになりました。中学部高等部普通科の生徒が学習発表会で、震災と防災に関してステージ発表をしました。その終わりで、この「花が咲く」を音楽選択者が中心になって演奏をしました。私は世俗と離れた生活をしているためか、この曲が何なのかさえ知識がなかったのですが、楽器の奏でる音調から震災の方々を思う気持ちと私のイメージが共感共振していくのを感じることができました。音楽を聴いて気持ちがゆさぶられるようになるのは始めてでした。

 

 ソプラノ歌手の田邉織恵さんが、歌劇「カルメン」より“ハバネラ”を歌いながら、児童生徒、保護者、教職員の座席の間を歩いていきました。歌の素晴らしさは言うまでもありません。なによりも田邊さんが、聴く人に感動を与えることができる、そんな姿が身体全体から伝わってきました。大変輝いておられました。私は、笑顔ときれいな歌声で周りを幸せにできるって素敵だなと感じました。私たち教師も、ソプラノ歌手ほどは無理かもしれませんが、授業を通して生徒に何かしら感動感激する仕掛けを提供するような努力は大事ではないかと思いを新たにしました(純粋に歌劇を楽しまず、つい第3者のように、考えてしまうのは少々情けないです)。

 

 生演奏の大迫力に触れる機会は、CDやテレビなどからの音声とは格段に異なる体験になりました。CDやテレビから聴くのと違わないのではないかと言われる方がいます。いえ全く違うのです。空気の振動が直接私たちの身体全体をふるわせるのです。CDやテレビからでは、耳に音が届く程度のイメージです。楽団のそれも体育館での演奏は、異なるそれぞれの楽器が出す音色や振動が絡み合い、身体全体に衝撃波となって迫ってくるのです。音楽を「体感する」という状態です。身震いするほど感動できるのです。それにコンサートホールのように観客とステージの間が離れているのではなく、間近ほんの数m先に楽団の方が座っておられるのです。「生」は本当に良いものですね。芸術鑑賞についてこのような紙面でお伝えすることには限界があり、大変もどかしく感じています。申し訳ありません。でも、良かったのです。

 

 この事業を通して、私は指揮者の方や演奏者の方、司会の方と児童生徒および会場のみなさんと様々なスタイルのコミュニケーション活動が成立したのではと思いました。難しいことを言うより、何よりも児童生徒以上に私も元気や夢や希望や明日への活力等をもらえたのではないかと思います。文化庁が目標とした以上の付加価値が十二分にある事業であると感じました。師走間近にせまり、やや遅めですが「芸術の秋」が堪能できました。取組の仕方は千差万別でありましょうが、さまざまな文化芸術活動が日本全国どこかで開催され、そのために多くの方がご尽力されていることでしょう。ステージマネージャーや事務局など関係者の方々には深く感謝いたします。またこのような文化活動が今後も保障継続されるますことを改めて強く願う次第です。

 

追伸

前回の記事に関して、本「学びの場.com」内に[授業のヒント]-[算数の教え上手]にも面白い問題がたくさんがありますので、頭の体操かねて興味関心のある方は是非お立ち寄り下さい(http://www.manabinoba.com/index.cfm/7,0,33,html)。

岩本 昌明(いわもと まさあき)

富山県立富山視覚総合支援学校 教諭
視覚に病弱部門が併置された全国初の総合支援学校。北陸富山から四季折々にふれて、特別支援教育と英語教育を始め、身の回りに関わる雑感や思いを皆さんと共有できたらと願っています。

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