プロ野球の中日ドラゴンズで、成績が芳しくなかった選手の年俸が大幅カットされていると、先日ニュースになっていました。
プロ野球選手にとって、毎年成績を上げ、年俸を上げ続けることは至難の業でしょうね。
同じ成績を維持するだけでも、つまり「現状維持」でも相当大変なんだろうなあと。
さて、話は変わり、私たちが学校で行う校内支援会議。
たとえば小学校の校内支援会議では、「教室での授業に参加できない2年生のAさんへの対応について」というような話し合いがなされることがあります。
「もう本当に大変なんです。クラスの中で、席についていられず、大声を出して授業を妨害したり、教室の外へ出てしまったり・・・。」
担任の先生の悲鳴が会議室に響き渡ります。
話を進めていくうちに、いろいろシビアな現実問題にぶつかります。
家庭環境が複雑で、保護者にも養育の姿勢に問題があったり。
担任教師は、今年教師になったばかりの1年目の若手の先生。授業を進めるだけでも手一杯だったり。
この子が落ち着いて過ごせるような物理的な場所が学校にはなかったり。
空き時間の先生も、他の業務で忙殺されていたり。
教育委員会に掛け合っても、人手をつける予算がないと即答されたり。
そうなってくると、打つ手がなくなってきます。行き詰ります。
そうこうして手をこまねいているうちに、今までは学校の中だけをウロウロしていたこの子供が、学校の外に出てしまい、保護されるという事件が起こったりします。
こうなってくると学校としては「安全管理はどうなっているんだ!」と問われることにもなります。
また、そうこうしているうちに、友達とトラブルを起こし、ちょっと不登校気味にもなってしまったりもします。
不登校になると、それはそれで問題となります。
なにより、この子供への教育の機会を失ってしまうことになります。
ますます問題が複雑になり、大騒ぎに。
そして、また校内支援会議が開かれるのです。みんな万策尽きて、疲れ果てながら。
学校の中をウロウロする分には、いいから。少なくとも、学校の外には出ないでほしい。
学校に来ていれば、いいから。少なくとも、不登校にはならないでほしい。
せめて現状維持。
不本意ながら、そんな結論を出さざるを得ないこともあります。
(上記の校内支援会議はフィクションですが、そう大袈裟な作り話ではないですね。)
五木寛之さんの「下山の思想」という本にはこう書いてあります。
「ずっとすごいことを続けるということはできない」
人生というか、世界の本質をついています。
もしかしたら、当たり前のように思ってきた「学校で勉強する」ということは、とてもすごいことなのかもしれません。
私たちはよりよい教育を目指して、日々奮闘し、教育の発展を願ってもいますが、既に「現状維持」で精一杯になりつつあるのでしょうか。
新しい教育の世界では、持続発展教育(ESD)なんていうのも、最近注目され始めています。
「持続可能な社会づくりの担い手づくり」というのが、その基本的な考えです。
社会全体が21世紀に入り、閉塞感のある現状がその生みの親であるような気もします。
「持続可能」という言葉と、「現状維持」という言葉。
響きは異なりますが、どちらも現代社会では、すごいことになってしまっているのでしょうか。
参考文献:五木寛之「下山の思想」幻冬舎 2011年
増田 謙太郎(ますだ けんたろう)
東京学芸大学教職大学院 准教授
インクルーシブ教育、特別支援教育のことや、学校の文化のこと、教師として大事にしたいことなどを、つれづれお話しできたらと思います。
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