最近多くの学校では、特別支援教育が必要な子供について、アドバイザーが年に数回程度、エリアの各学校を巡回し、相談を受けるという制度が出来上がりつつあります。
この制度、よくあるのは「専門家相談」などの名で行われています。
さて、この専門家とはいったい誰のことをいうのでしょうか?
「専門家相談」として巡回してくるメンバーの顔ぶれを見てみると・・・大学の先生、精神科のお医者さん、臨床心理士、言語療法士、特別支援学校の教員・・・だいたいはこのような方々が多いようです。
これらの方々は、本当に特別支援教育の専門家なんでしょうかね?
言うまでもなく、これらの方々は「研究者」「医療」「心理」「言語」では確かに専門家なはずです。
そして、特別支援教育が必要な子供たちについては、かなり造詣の深い方々なはずです。
でも、ここが大事なところなのですが、この方々は決して「教育」の専門家ではないのです。
「教育」の専門家は、当たり前ですが「教師」です。
このことを見誤るとおかしなことが起こります。
たとえば、「専門家相談」の名のもとに学校にやってきたお医者さんに対して、「この子は学校でどのように対応したらよいのでしょうか?」と、真面目な顔で質問をする教師がいます。
ん? どのように学校で教育を行うか、それを考えるのは、教師であるあなたの仕事ではないのですか?
これは、丸投げといいますね(笑)。
お医者さんは、学校の事情や都合などは知る由もありません。だけど、そのように問われたならば、医学的な見地からアドバイスをしてくださいます。
でもそのアドバイスは、学校としては的を得ているアドバイスなわけがありません。
たとえば、「この子にとって必要なのは、個別の指導です。だから、一対一で指導できる時間を取ってあげてください。」
といわれたところで、学校にそんな余力があるわけがないじゃないですか。
そんなことができるなら、とっくにやっている(笑)。
だから、アドバイスをもらったところで、そのアドバイスを明日から使えるようにはなりません。結局は、会議と資料作成に費やした時間の無駄感が残ってしまいます。
どこに問題があるのでしょうか?
やはり、教師は「教育」の専門家として、医療・心理などの先生方と対等に渡り合うことが求められると思います。
だから、いただいたアドバイスを「神の声」と期待するのではなく、また「こんなの学校でできるわけがない!」と憤らずに受け止める技量が、私は必要なのではないかと思います。
専門家同士の対話の時間・・・そのような姿勢こそが、お互いの技量を高め、ひいては子供のためになっていくような気がします。
増田 謙太郎(ますだ けんたろう)
東京学芸大学教職大学院 准教授
インクルーシブ教育、特別支援教育のことや、学校の文化のこと、教師として大事にしたいことなどを、つれづれお話しできたらと思います。
同じテーマの執筆者
-
東京都立白鷺特別支援学校 中学部 教諭・自閉症スペクトラム支援士・早稲田大学大学院 教育学研究科 修士課程2年
-
東京都立南花畑特別支援学校 主任教諭・臨床発達心理士・自閉症スペクトラム支援士(standard)
-
富山県立富山視覚総合支援学校 教諭
-
北海道札幌養護学校 教諭
-
東京都立城北特別支援学校 教諭・臨床発達心理士
-
福島県立あぶくま養護学校 教諭
-
東京都立港特別支援学校 教諭
-
京都教育大学附属特別支援学校 特別支援教育士・臨床発達心理士・特別支援ICT研究会
-
福生市立福生第七小学校 ことばの教室 主任教諭 博士(教育学)公認心理師 臨床発達心理士
-
信州大学教育学部附属特別支援学校 教諭
-
在沖米軍基地内 公立アメリカンスクール 日本語日本文化教師
-
静岡市立中島小学校教諭・公認心理師
-
寝屋川市立小学校
-
目黒区立不動小学校 主幹教諭
ご意見・ご要望、お待ちしています!
この記事に対する皆様のご意見、ご要望をお寄せください。今後の記事制作の参考にさせていただきます。(なお個別・個人的なご質問・ご相談等に関してはお受けいたしかねます。)