2013.11.01
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特別支援教育の専門家っていったい誰のこと?

東京学芸大学教職大学院 准教授 増田 謙太郎

 最近多くの学校では、特別支援教育が必要な子供について、アドバイザーが年に数回程度、エリアの各学校を巡回し、相談を受けるという制度が出来上がりつつあります。

 この制度、よくあるのは「専門家相談」などの名で行われています。

 

 さて、この専門家とはいったい誰のことをいうのでしょうか?

 

 「専門家相談」として巡回してくるメンバーの顔ぶれを見てみると・・・大学の先生、精神科のお医者さん、臨床心理士、言語療法士、特別支援学校の教員・・・だいたいはこのような方々が多いようです。

 

 これらの方々は、本当に特別支援教育の専門家なんでしょうかね?

 

 言うまでもなく、これらの方々は「研究者」「医療」「心理」「言語」では確かに専門家なはずです。

 そして、特別支援教育が必要な子供たちについては、かなり造詣の深い方々なはずです。

 

 でも、ここが大事なところなのですが、この方々は決して「教育」の専門家ではないのです。

 

 

 「教育」の専門家は、当たり前ですが「教師」です。

 

 このことを見誤るとおかしなことが起こります。

 

 

 たとえば、「専門家相談」の名のもとに学校にやってきたお医者さんに対して、「この子は学校でどのように対応したらよいのでしょうか?」と、真面目な顔で質問をする教師がいます。

 

 ん? どのように学校で教育を行うか、それを考えるのは、教師であるあなたの仕事ではないのですか? 

 これは、丸投げといいますね(笑)。

 

 お医者さんは、学校の事情や都合などは知る由もありません。だけど、そのように問われたならば、医学的な見地からアドバイスをしてくださいます。

 

 でもそのアドバイスは、学校としては的を得ているアドバイスなわけがありません。

 

 たとえば、「この子にとって必要なのは、個別の指導です。だから、一対一で指導できる時間を取ってあげてください。」

といわれたところで、学校にそんな余力があるわけがないじゃないですか。

 そんなことができるなら、とっくにやっている(笑)。

 

 

 だから、アドバイスをもらったところで、そのアドバイスを明日から使えるようにはなりません。結局は、会議と資料作成に費やした時間の無駄感が残ってしまいます。

 

 

 どこに問題があるのでしょうか?

 

 やはり、教師は「教育」の専門家として、医療・心理などの先生方と対等に渡り合うことが求められると思います。

 

 だから、いただいたアドバイスを「神の声」と期待するのではなく、また「こんなの学校でできるわけがない!」と憤らずに受け止める技量が、私は必要なのではないかと思います。

 

 専門家同士の対話の時間・・・そのような姿勢こそが、お互いの技量を高め、ひいては子供のためになっていくような気がします。

増田 謙太郎(ますだ けんたろう)

東京学芸大学教職大学院 准教授
インクルーシブ教育、特別支援教育のことや、学校の文化のこと、教師として大事にしたいことなどを、つれづれお話しできたらと思います。

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