14期もよろしくお願いします
つれづれ日誌、第14期も執筆させていただくことになりました、植竹安彦と申します。改めましてよろしくお願いします。
1ヶ月前になりますが、台風が日本を直撃した9月15日、16日と臨床発達心理士の全国大会が千葉大学で行われました。暴風雨のため、電車が止まってしまったりする中でしたが、全国の発達心理士の先生が集まる熱気、そして、子どもたちの様々な困難さに、正に現場で奮闘している生の声を聞くことは、同じ仲間として勇気づけられる2日間となりました。
その大会の中で、皆さんと共有できたら良いなと思える分科会の内容がありましたので、今回はその内容と合わせてお伝えしたいと思います。
「話さない」のではありません、「話せない」のです
それは「場面緘黙」についてです。
みなさんは「場面緘黙」という言葉を聞いたことがありますか?聞いたことはあるけれどよく分からないなぁという方が多いのではないかと思います。
何週間か前に、この場面緘黙についてつれづれ日誌の中で、岩本先生がご執筆されていますので、そこで初めて知ったという先生もいらっしゃるかもしれません。
ぜひ今回は、この「場面緘黙」について少しでも興味をもってもらい、その子の生き辛さや苦労を知り、理解してくださる仲間になっていただけたらと思います。
場面緘黙の子の理解
「場面緘黙」とは、正式な診断名は「選択性緘黙」と言われるそうです。
家では普通に話せるのに、幼稚園や保育所、学校など特定の場所や状況で話せない状態を言います。
私自身、教員になってから、二人だけですが場面緘黙を示すお子さんを担当したことがありました。一人のお子さんは少しずつですが、学校の中で発話が増えていってくれたお子さん。もう一人は一年間担任をしていましたが、その子の言葉を聞けたのは1回きりでした。
場面緘黙は、本人がしゃべりたいと思っていても体が思うように動かなくおしゃべりできない状態です。
「話さない」のではなく、話したいのに「話せない」と理解したほうが良いと思います。
そして、私自身、幼稚園の時にほんの一過性でしたが場面緘黙の状況が続いたことがありました。
これは、私の場合ですので、一人一人のお子さんにより場面緘黙になる理由や原因は違いますので、参考としてお読みください。
私は、幼稚園に入園したばかりの時、朝の名前呼びの時に声が出ない状況になっていました。名前を呼ばれたら「返事しなくちゃ、返事しなくちゃ」と自分が呼ばれる順番が近づけば近づくほど、胸が締め付けられるような苦しさになり、喉まで声が出かかっているのに、声にならない状況でした。
ですので、毎朝、この名前呼びの時間がとても怖くて怖くてたまらない時間でした。他の時間では友達とも話せるのに、この名前呼びだけが声が声にならない瞬間でした。
きっと、初めての社会生活ということで、見えない心理的な不安がたくさんあったのかと今では思います。3ヶ月ほどたち、幼稚園に慣れて、返事ができなくても「手をあげればいいんだ」とわかったあたりから、私の場合は自然と声が出るようになりました。
なぜ、場面緘黙になるのかというのは、いくつかの諸説があるようですが、脳の中の扁桃体(へんとうたい)という、危険に反応するところが、特に反応しやすいからだと言われています。
なので、扁桃体は命を守るために危険信号を教えてくれる働きをしますので、扁桃体が働きやすいことは悪いことではありません。でも反応しやすいので、話そうとすると、いつもドキドキ、もっとドキドキしてしまい体がもたないので、ドキドキから少しでも開放されるために、話さないでいることが習慣になってしまうと考えられているそうです。
理解から支える支援を
そして、今回の全国大会の中で「信州緘黙サポートネットワーク」の長野大学の高木先生、臼井先生の発表でなるほどというお話しがありましのたでご紹介します。紙面の都合上少し簡略化してお伝えしますので、全て正しい内容でお伝えできていない点をご了解ください。
場面緘黙を示すお子さんを見ていくと、3つのタイプに属すると思われるそうです。
(1)不安障害を示すタイプ
(2)自閉症スペクトラムタイプ
(3)聴覚言語不安タイプ
この3つのタイプにより、改善へ向けた指導法が変わってくるという点について、見方を整理できると、どのように指導をすすめるべきか糸口が見えやすくなると私も思いました。
場面緘黙を示すお子さんでも、一人一人が「話せない理由が違うんだよ」という理解が大切だと改めて思いました。理解こそ大切だと強調させてください。
タイプ分けをすることが大切ではもちろんなく、理解する努力が必要ですので、その点についてはまた別の機会にお話しさせてください。
指導法については、専門書などに譲らせていただきたいと思いますが、私が場面緘黙のお子さんを指導する際に大切にしていることをお話ししたいと思います。
まず、基本的には、どのタイプでも、「不安」な状態、何らかの「ストレス」がかかっている状態だと思います。
なので、生活環境の中で「何が不安」になっているのか考えてあげ、少しでも不安を減らせる環境作りを考えます。
たまたま、私が担当した二人のお子さんは、どちらも「聴覚防衛」を示すお子さんでした。音への怖さ、不安を常に抱えていましたので、不安な音が出さない、減らす、音が出る際は事前に知らせるなど、つれづれ日誌の「聴覚防衛反応を示す子への理解」でお伝えしたような配慮をしていました。
そして、特に大切なのが、しゃべらせることを強要しないことです。平仮名表を使ってコミュニケーションをとったり、一人のお子さんは英語で伝えたら、「Yes,No」と声で伝えてくれたことがあったりと、その子がストレスなくコミュニケーションを取れる方法を探しました。今で言えば、タブレットパソコンなどとても良いツールだと思います。
場面緘黙のお子さんも、話せないけれども、友達や先生に伝えたいことはたくさんあると思います。ですので、その子ができる表現を大切にしてあげたらと思っています。絵でも良いと思います。
表現できたこと、そして、その子自身の良さを常に認めてあげ、自己肯定感を高めてあげたら、不安が減り、少しずつ話すことに近づくと思っています。
「人は理解されないことほど辛いことはない」と、場面緘黙症だった方の手記を読ませていただいたことがあります。
みんなそうだと思いますが、特に、自分から伝えることに誰よりも苦労している子どもたちだからこそ、「いつもとても頑張っているね」と理解し支えてあげたいと思います。
岩本先生の日誌にも紹介されていましたが、私も「かんもくネット」の記事や角田圭子先生の書籍を参考にさせていただいています。
他にも良い本があると思いますので、ぜひ理解から支援へつなげる一歩を一緒にあゆみましょう。
では、14期も引き続きよろしくお願いします。
植竹 安彦(うえたけ やすひこ)
東京都立城北特別支援学校 教諭・臨床発達心理士
肢体不自由教育からの視点を中心に、子どもたちの発達を支えるために日々できることを一緒に考えていきたいと思います。
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