2013.10.11
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英語ディベート大会から考えたこと

富山県立富山視覚総合支援学校 教諭 岩本 昌明

9月29日に、県の高校生英語ディベート大会がありました。
全国大会が12月14日~15日の2日間、長野県の松本大学を会場に行われ、そ
の予選を兼ねています。
(参考 http://www.henda.jp/Pages/dai8kaitaikai.aspx

今年の論題は
「日本政府は輸入米の関税を撤廃すべきである。是か、非か。」です。
論題というのは、賛成、反対に分かれて議論をするためのテーマです。英語の大会なので、英語でテーマが設定されています。それは、次のようなものです。

The Japanese government should remove the tariff on rice imports.
英語の大会なので、上の論題に関して英語で高校生がディベートをします。

ディベートというのは、「ある論題について肯定側と否定側に分かれ、一定のルールの下に議論をするゲーム」です。ディベートは、論理的な思考力やコミュニケーション能力を身につけていくための有効なトレーニングになります。
(参考 http://www.geocities.jp/kuwanaec/page007.html

私はジャッジの一人として昨年に引き続きこの大会に参加しました。
ディベートというと、非常に敷居が高いものと考えられています。
実際は様々なディベートの仕方があるようです。隣に座っていたALT(英語指
導助手)に話を聞くと、自分も高校生のときにディベートを授業の中で体験
したが、自国でのディベートとやり方は少し異なると話してくれました。

日本人は、議論を好まず根回しが必要で、個人の意見よりも集団の考えに従
い協調性を重んじると言われたりします。個々人をみるとそうでない方も多
いでしょうが。ディベートのように賛成、反対に分かれて議論をするような
スタイルは苦手としている傾向があります。議論は議論で割り切れず、議論
が後を引いて感情論になってしまう傾向があります。

私は、ディベートを一種のゲーム感覚で、論理的な思考およびコミュニケー
ション能力を見につけるトレーニングと考えるのは良いことだと思います。


英語でのディベートの方法やジャッジの観点や基準について興味のある方は、是非全国高校英語ディベート連盟のホームページやその他、英語ディベート団体のサイトにお立ち寄りいただければと思います。

ディベートにジャッジとして参加して幾つか感じたことをまとめたいと思い
ます。

まず、英語の前に日本語で討論ができるか。
日本語で討論ができるほどだけの知識やリサーチを行うことです。
私は輸入米の関税に関する興味関心がそれほど高くなかったので正直なとこ
ろ知識の持ち合わせがありませんでした。しかし、大会に参加していた高校
生のスピーチから多くの情報を得ることができました。

たとえば
外国のコメは危険であると意見を述べたチームがありました。
これに対して、輸入する時に食物関係の検査基準が日本は厳しく、それを通
過しているから問題ないと反論がありました。
しかし、これに対して、検査は実際2%以下しか行っていないので、100%安
全性が保証されないのではと議論が進みました。
外国のコメが「危険」であるに対して、双方が意見を戦わせ、論点を深めて
いったのはジャッジとして醍醐味でした。

また、関税を撤廃すると、コメの選択肢が増えるので良い。という意見がで
ました。これに対して選択肢が増えるとどうして良いのか、その理由を尋ね
ました。選択肢が多いとどうして良いと言えるのでしょうか。自然な感じが
しましたが、実は、選択肢が多いことからコメの値段に幅がでてくることに
関連させることが必要でした。選択肢が増えると、より安い値段のコメを購
入できる可能性が増えることで、「良い」と言えるのです。これを英語で説
得力あるように話すことが難しいのかもしれません。

英語の前に、日本語で肯定、否定で仮ディベートができるかは大切だと思い
ます。

次に、基礎的な語句の発音とアクセントです。
制限時間の中でできるだけ多くの主張や意見を英語で伝えようとしても、使
っている英単語、英語のまとまりが相手に伝わらなければ不十分です。自分
だけが分かるような早口で話まくってはコミュニケーションとは言えないの
です。論題に必要な専門用語がたくさん用いられます。しかし、難しい単語
よりは、実は良く使う基本的な単語の発音やアクセントの誤りが散見しまし
た。crisis, Australiaがクリーシスやオーストラリアでは残念でした。ま
た increase, decrease, import, exportではアクセントの位置が問題に
感じました。改めて一つひとつの単語ができるだけ正確に発音できるように
気を配ることが、ディベートの大会だけでなく、平生の授業で必要になって
くるのではと思いました。野球ではないですが、守備の基礎基本のキャッチ
ボールやバッティングのための素振りみたいものかもしれません。

もう1つは、単語と単語の固まりを意識して発表できるかです。つまりチャ
ンクを日ごろから意識して話そうとしているかです。
具体的に言えば、It is very important for us Japanese to think this
case.(私たち日本人にこのケースを考えておくことは意義があります)を
どこでポーズを取って話したら良いのだと思いますか。
It is very / important for/ us Japanese to/ think this case.など
と話されては、聞きにくくなってしまいます。
感情の入れ方や強調したい部分によっても変わってくることがありますが、
イントネーションやポーズやストレスの置き方を意識して読むこと、発話す
ることが、少々練習不足と感じることがありました。日ごろの授業から、声
に出して教科書の本文をどれだけ丁寧に意識して読み続けているかが大事な
のかと思いました。
スポーツに例えれば、ストレッチや柔軟体操みたいものと位置付けたらいい
のでしょうか。

私はディベートというかなり高度な活動も、突き詰めていけば、相手に伝え
られるように発音やアクセントに気を配り発音し、イントネーションや間合
いやチャンクを意識して話すという「英語版おもてなしの精神」が大切であ
るのではと意識できたのです。ディベートのために何か特別なことをするこ
とも必要ですが、平生の授業の中で取り組めることがたくさんあるのではな
いかと意識を新たにでき、これが私の発見でもあり宝にもなりました。

瑣末なことを書き続けましたが、最後に私が高校生であったら決して真似ができないほど素晴らしいディベートの大会でした。私が討論に参加せよと言われたらどうだったか恥ずかしい限りです。近い将来きっと彼ら彼女らが英語を使って世界に伍して活躍してくれるそんな人材になっているであろうと思います。運営スタッフの方々の努力が実った大会でもありました。


予選を含め、全国大会参加の皆さまのご活躍と健闘を祈っております。

P.S.新潟県のディベート大会開催のために視察で来県された先生方とも話す
機会が持てたこと、ディベートの後に参加した生徒同士が互いに握手をして
試合の健闘をたたえ合う爽やかな場面も印象に残りました。

英語ディベートの輪が広がりますように。

岩本 昌明(いわもと まさあき)

富山県立富山視覚総合支援学校 教諭
視覚に病弱部門が併置された全国初の総合支援学校。北陸富山から四季折々にふれて、特別支援教育と英語教育を始め、身の回りに関わる雑感や思いを皆さんと共有できたらと願っています。

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