2013.09.12
  • twitter
  • facebook
  • はてなブックマーク
  • 印刷

個に応じたICTの活用 センター研修を受講して(1)

福島県立あぶくま養護学校 教諭 渡部 起史

 

(写真) テレビ会議システムを活用して複数の会場から同時に編集する描画活動

 

   2学期がスタートしました。今年の福島は不安定な天気が続き、9月に入ってからも蒸し暑さと強い雨に交互に見舞われています。行事が盛りだくさんの2学期を元気に乗り切るため、教師・生徒共々体調管理に十分に気をつけています。

 

   私は2学期が始まってからも、バタバタと出張と研修が続きました。9/5・6には、福島県養護教育センターで、「インクルーシブ教育における合理的配慮~個に応じたICTの活用~」と題された専門研修を受講し、インクルーシブ教育とICT機器活用の基礎や、県内の先生方の実践発表をうかがってきました。ICTの活用に関しては特別支援教育でも関心が高まって久しいですが、自分自身その背景について十分に理解できていないと感じていたので、今回の研修を楽しみにしていました。

 

   初日午前の講話を伺って、インクルーシブ教育について感じることがたくさんありました。インクルーシブ教育とは、「分け隔てのない教育」と言い換えることができるでしょうか。日本政府は、平成18年に国連総会で採択された「障害者の権利に関する条約」に署名はしたものの、国内の福祉法制が複雑すぎるという事情があり、批准と国内法制化はまだ途上にあります。政府は今年になって、障害者差別解消法、障害者雇用促進法と立て続けに可決成立させ、障害を持った方々に支援が行き渡るための法的地盤を整えています。必要な支援が個々にまで行き渡り、各地域において完全にインクルーシブな学校を実現するにはもう少し時間がかかると思われます。福島の養護教育センターでも、少し表現に幅を持たせて「インクルーシブな教育(インクルーシブを志向するという意味だと思います)」と言い表していました。福島県は、インクルーシブ教育システムの構築を目指して、日々努力を続けています。

 

  「障害者の権利に関する条約」では、第24条の「教育」の項目で、教育を受ける障害児・者の権利擁護のために確保されるべき方針が示されています。障害を理由として教育制度一般から排除されないこと、自己の生活する地域社会において質の高い初等中等教育を受けられること、個人に必要とされる合理的な配慮が提供されること、などが挙げられます。この合理的な配慮の中で、ICTの活用が検討されています。

 

   この「合理的配慮」をもう少し掘り下げてみますと、「特別支援教育の在り方に関する特別委員会」による定義では、「障害のある子どもが他の子どもと平等に教育を受ける権利を享受・行使することを確保するために、学校の設置者及び学校が必要かつ適当な変更・調整を行うこと」と具体的に示し、各学校においての子どものニーズに対する柔軟な対応を求めています。その文の後には、「体制面、財政面において、均衡を失した又は過度の負担を課さないもの」と続け、教育を施す側への配慮が見られます。

 

 今まで地域の小中学校における障害児に対する配慮は、学校側の善意によって支えられてきた部分が多く、交渉の主導権は学校や設置者側にありました。それが、法令に裏付けされた「合理的配慮」という考え方が入ってくることで、「善意」から「法令遵守」に変わり、交渉の主導権も支援を受ける側が主体となって握ることになります。この点が、支援を提供する側がとらえ方を変えていかなければならない、大きな転換点であると感じました。

 

   その他にも、地域の学校においての個別配慮は、本人と周囲の合意があって始めて有効であるということを、強く印象づけられました。手段として適切な支援であっても、それを本人が周囲に気兼ねしては適切であるとは言えませんし、また周囲の理解と承認ということも丁寧に培っていかなければならない部分だと思います。「あの子だけズルい!」にならない環境作りは、現状でもなかなか難しい問題であるようです。

 

  初日のその後は、Skypeを使用した在宅病弱児に対するオンライン学習支援の実践報告、聾学校のFM補聴器の活用報告、福島県が提供しているテレビ会議システムの活用実習などが行われました。

   Skypeの実践報告では、見せ方や聞かせ方など、Skypeの機能上の問題で授業の際に配慮すべきことが検討されました。Skypeの画面はデータ送信上の問題で0.1秒単位で細切れになりながら画像が表示されるので、ポンポンを振るなどの細かい動きを提示してしまうと児童の眼精疲労を引き起こしてしまうことが分かりました。また、複数の音信号を同時に処理することも難しく、合奏などの活動もSkype上では音がずれて聞こえることが分かりました。オンラインツールも現場での活用が進み、細かい運用上の問題が次第に明らかになっています。

   FM補聴器の活用例では、最近のデジタル補聴器の性能の向上に驚かされました。新型のFM補聴器ではBluetoothを活用して信号を飛ばし、非常にコンパクトなシステムで遠くの距離まで明瞭な音を提供することができています。今から10年前、私が聾学校の分校に務めていた時に使用していた、床下に這わせた磁気ループを使用した大規模な補聴器システムを思い出すと、隔世の感があります。今の聾学校は、屋外活動や校外学習などで聴覚保証がし易くなり、学習の効果が格段に上がっているようです。

 テレビ会議システムの活用実習では、各校の立場から活用方法を広く検討していきました。県のテレビ会議システムは、オンラインで各会場の映像と音声を繋ぐだけではなく、インターネットのページや文書ソフトによる資料を画面上に開いて共有しながら話したり、お絵かきソフトで一つの紙面に同時に絵を描いていたりすることができ、実に多機能です。小学部の制作活動交流や、高等部の生徒会会議などに有効なのではないかと、教師各々から活発に意見が出され、可能性が広く検討されました。

 

 次回は、2日目に行われたiPadを活用した肢体不自由児の視知覚認知の向上に関する実践報告と、東京大学先端科学技術研究センター准教授の近藤武夫氏による講話をレポートします。

渡部 起史(わたなべ たつし)

福島県立あぶくま養護学校 教諭
東北最大規模の福島県立あぶくま養護学校に勤務し、総務部を担当しています。特別支援学校における学習環境の整備やPTA活動の役割など、様々な話題を提供していきます。

同じテーマの執筆者
  • 吉田 博子

    東京都立白鷺特別支援学校 中学部 教諭・自閉症スペクトラム支援士・早稲田大学大学院 教育学研究科 修士課程2年

  • 綿引 清勝

    東京都立南花畑特別支援学校 主任教諭・臨床発達心理士・自閉症スペクトラム支援士(standard)

  • 岩本 昌明

    富山県立富山視覚総合支援学校 教諭

  • 郡司 竜平

    北海道札幌養護学校 教諭

  • 増田 謙太郎

    東京学芸大学教職大学院 准教授

  • 植竹 安彦

    東京都立城北特別支援学校 教諭・臨床発達心理士

  • 川上 康則

    東京都立港特別支援学校 教諭

  • 中川 宣子

    京都教育大学附属特別支援学校 特別支援教育士・臨床発達心理士・特別支援ICT研究会

  • 髙橋 三郎

    福生市立福生第七小学校 ことばの教室 主任教諭 博士(教育学)公認心理師 臨床発達心理士

  • 丸山 裕也

    信州大学教育学部附属特別支援学校 教諭

  • 下條 綾乃

    在沖米軍基地内 公立アメリカンスクール 日本語日本文化教師

  • 渡邊 満昭

    静岡市立中島小学校教諭・公認心理師

  • 山本 優佳里

    寝屋川市立小学校

ご意見・ご要望、お待ちしています!

この記事に対する皆様のご意見、ご要望をお寄せください。今後の記事制作の参考にさせていただきます。(なお個別・個人的なご質問・ご相談等に関してはお受けいたしかねます。)

pagetop