2013.09.09
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絶対知ってほしい「触覚防衛(触覚過敏)」反応を示す子の理解

東京都立城北特別支援学校 教諭・臨床発達心理士 植竹 安彦

 新学期が始まりました

 2学期が始まりましたが、皆さんいかがお過ごしでしょうか?始業式の日は、自宅のそばで大きな竜巻が起こったり、勤務校の防災訓練当日に本当に地震が起きたりと、自然の猛威を感じずにはいられない日々です。

常にいろいろな事態を想定しておくことも命を預かる立場として大切なことだと改めて感じます。

 

 第13期のつれづれ日誌も終盤になってきました。私は第12期から執筆させていただいていますが、今日はこれだけはつれづれ日誌を通して絶対お伝えしておきたいと思っていた内容を書かせていただこうと思います。

 

絶対に知って欲しい「触覚防衛」反応が生み出す生き辛さ

 それは「触覚防衛(触覚過敏)反応」の理解についてです。

 

 特別支援学校に通う子どもたちに限らず、通常の学校に通う子どもたちの中にも、この触覚防衛反応により、苦労したり傷ついたりしている子が非常にたくさんいるからです。

 

 しかしながら、その生き辛さはほとんど理解されていなかったり、気づいてさえもらえていなかったりする現状だと捉えています。みなさんの周りにも、実は苦しんでいる子ども(大人もいます)たちがいるかもしれませんので、ぜひお付き合いください。

 

触覚防衛反応の状態像

 

次のような様子が見られると、触覚防衛があるかもしれません。

・爪切り、耳かきが苦手

・砂、水遊びなどを過剰に嫌がるか過剰に好む

・体育館など大ぜい人がいる場所を嫌がる

・過剰にくすぐったがる

・初めての人や、初めての場所を嫌がる

・人が近づくと逃げたり、視線をそらす

・帽子、メガネ、マスク、ハイネックの上着、靴したなどを身につけたがらない

・自分からは触れにくるのに、触れようとすると嫌がる

・整列時に友達を突き飛ばしたり、トラブルが多い

・爪かみや指なめが多い

など、よく観察したり、保護者から情報を得たりすると浮かびあがってくる特徴的な行動が見えてきます。もし一つでも観察できたら、ぜひとも気にかけてあげてほしいと思います。

 

本人の生き辛さ

 私を含め、触覚に過敏さがない人からすると、触覚防衛反応を示す子どもの内面世界を理解できないことが多くあります。例えば、視力の良い人にとって、視力の悪い人の見え方の苦労や不自由さというのは分かりづらいのと同じことです。

 

 触覚防衛のある人がどのくらい辛いかを語った事例がります。感じ方は人それぞれですが、ある人にとって、「シャワーを浴びると、針で刺されたような痛みを感じる」そうです。

 

 シャワーが痛いなんて、想像したことも私にはありませんでしたので、この話を聞くまでは、触覚防衛のある方の苦しさを察することすらありませんでした。

 そして、触覚防衛による、この感じ方は、生理的な辛さであるので、「我慢しなさい」と言っても我慢できるものではないのです。

 

 聴覚防衛反応について書いたつれづれ日誌の際にも書きましたが、例えば、聴覚防衛反応を示す人にとり、防衛反応の無い人にとっては全く気にならない音や少しうるさいかなくらいな音が、私たちがガラスや黒板をフォークで「ギーッ」とひっかいた時に出る音に感じるくらい不快に聞こえるそうです。

 

 触覚防衛のある人にとっては、私たちがなんともない皮膚との触れ合いが、針で刺されるくらいの感覚に感じているかもしれないという気付きが大切なのです。

 

「理解」が子どもの心を救う

  それくらい不快な感じ方に対して、気付かないがために、「我慢しなさい」と言ってしまったり、「そのうち慣れます」と繰り返し試させたり、「わがままな子」などと関わっていることが非常に多い現状なのです。

 

 当事者にとっては、生きるか死ぬかくらいの不快さですから、必死で嫌な場面を回避しようとしたり、逃げようとしようとしたりします。例えば、いつ誰から触れられるか分からない体育館は怖くて近づけない子もいると思います。

 「入学式だから」「みんなそろう場だから」など、いくら理由を伝えても、泣き叫んで逃げようとすることも当然かもしれません。その時に「わがままな子」といったレッテルを張らないであげる理解が大切です。

 

 そして、触覚防衛反応は生まれた時から症状として表れています。保護者にとって、赤ちゃんを抱き上げて、にこっと笑ってくれる瞬間があるから、大変な育児も喜びに思えるのだと思います。それなのに、抱き上げると触覚防衛反応を示す赤ちゃんにとっては不快な思いでいっぱいなため、泣き叫ぶだけかもしれません。すると、育児がよりいっそう辛さを増すものとなってしまうかもしれません。

 

 また、大人が幼児くらいの子と視線が合うと、通常は「可愛い」と言って頭をなでたり、抱きしめたりすることが多いと思います。しかし、触覚防衛反応を示す子にとり、触れられること自体が不快ですから、

 

「視線が合う」→「頭をなでられる」となるので、「視線を反らす」→「触れられないで済む」

 

といった、普通の人からしたらゆがんだように感じるコミュニケーションを身につけてしまいがちとなります。

 

 このように、触覚防衛があるがために、人との「共感的な心の育ち」を学ばずじまいになってしまうのです。

 

 そして、人に触れられることが苦手ということは、何か教わる時も、手を触れることすら不快なので、学習が進まない原因となります。また、いつ触れられるか分からない学校など人が多い場では、自分の身を守ることで精一杯ですから、いつもそわそわ「落ち着きが無い子」や「集中力が持続しない子」と見られてしまいがちです。

 

 さらに、触れられる素材も限定してしまうこともあるので、本来は身体を通して学ぶことができる運動感覚も養い辛くなるので、「ボディイメージ」も育ちにくくなります。

 

 ボディイメージは身体的自己像と呼ばれたりしますが、同時に精神的な自己像を育てる源でもあり、自我を育てるためにも欠かせない身体の育ちです。自我が育ちにくいということは、自己主張も少ないかもしれませんが、人との中で心を調整していく力も育ちにくくなってしまいます。

 

 このように、触覚防衛反応は子供たちの学びを妨げたり、人間関係を作り辛くしてしまったりする要因ともなります。

 

 そして何よりも、その当事者が苦しい思いをして生きていかなければならないので、すぐに出来ることは、私たち周りの人が、そんな苦しさで過ごしている事を少しでも理解してあげることです。「嫌だったのに頑張ったね、頑張っているね」という心があるかないかは大きな違いだと思います。

 

 次回は触覚防衛反応のメカニズムと緩和させるための指導の方法をお話したいと思います。メカニズムを知らないと状態を理解した、その子に応じた指導につながらないことが多いので、ぜひ次回もお付き合いください。 

植竹 安彦(うえたけ やすひこ)

植竹 安彦(うえたけ やすひこ)

東京都立城北特別支援学校 教諭・臨床発達心理士
肢体不自由教育からの視点を中心に、子どもたちの発達を支えるために日々できることを一緒に考えていきたいと思います。

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