2013.08.26
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夏期研修会 ~ミューカルがくと館編~

福島県立あぶくま養護学校 教諭 渡部 起史

 さる8月1・2日に、あぶくま養護学校主催の夏期研修会が郡山市のミューカルがくと館で行われました。この夏期研修会は毎年行われており、本校教師にとって夏期休業中の大切な研修の一つです。

 

 特別支援学校は、地域の特別支援教育のセンター的役割を担っており、その役割の中には小中学校等の教員に対する研修協力機能もあります。特別支援学校で培われた指導方法や教材、資料などを、研修として地域の諸学校に広く提供していくことが研修会の大きなねらいのひとつです。小・中学校の特別支援学級では、特別支援教育の経験を十分に積んでいない先生が少人数で指導に当たっていることも多く、悩みを持った先生方から相談・研修の機会を求める声が多く挙がってきます。今回の研修にも、本校からの呼びかけに応じて、郡山市の小中学校から特別支援学級の先生方が多数参加してくださいました。

 

 1日目の講演では、岩手大学付属特別支援学校校長の名古屋恒彦先生をお呼びし、「より確かな自立と社会参加の実現につなげるために」と題し、継続性と系統性という視点からの授業作りという内容でお話をいただきました。特別支援学校の児童生徒への指導は極めて個別性が強い上に、数年おきに担任が交代するという学校の仕組み上の問題もあるので、一貫した指導内容を継続して行うことが難しい場合があります。その中で教師は「継続性・系統性の維持」という問題に、頭を悩ませることが多いようです。

 

 それに対して名古屋先生は、「生活の自立」という視点を軸に置き、そのために必要な内容で学習を選択・組織してはどうかという興味深い提案をなさっていました。継続性・系統性というと、どうしても内容・要素表のようなものを思い出してしまい、「どこまでできているか、いないか」の発達論に偏りがちになってしまいます。そこに抗って「個々の生活の自立」という視点で整理してみますと、できないことを穴埋めする学習ではなく、本人が生活上の課題としてとらえている主体的な学習が浮かび上がってきます。そしてその課題を、個人の学習のステップとして詳細に設定し組織していくと。まさに、「百人百様」の教育課程ができあがるというわけです。知的障害教育の「領域・教科」は、実際的な生活に必要な内容を分類・整理しているという面では特異性があります。教師はその特長を生かして、本当の意味で児童生徒に生活上の価値がある学習を精選し、効果的に提供していかなければならないと感じました。

 

 2日目の研修会の講座では、「保護者への支援・連携」「授業作り」「教材・教具作り」「地域における一貫した支援」をテーマに、事例発表とディスカッションが行われました。各講座で本校の教員から事例の提供があり、私も「授業作り」の講座で机・椅子を中心とした学習環境の整備に関するお話しをさせていただきました。以前、本校で発表したときよりも一歩踏み込み、環境整備に向けた具体的な提案として(1)調整用の器具や調整機会・手立ての共有、(2)協力体制、(3)支援技術の向上の3点を挙げさせていただきました。頷いてくださる先生方も多く、手応えのある話題提供にすることができました。発表後の休み時間には中学校の先生と本校高等部の先生が質問にきてくださり、児童生徒の姿勢の問題に関して話が盛り上がりました。同じ悩みや課題を抱えている者同士なので、「そうそう!」と膝打つことも多く、様々な点で共感し合うことができました。このようなやりとりも、外部の先生方と交流する中で心温まるひとときです。

 

 話題提供の後には、本校以外から参加された先生方に指導上の悩みごとや事例を提供していただき、小人数のグループでのディスカッションを行いました。私は司会の役を担い、中学校の特別支援学級の事例を話し合いました。このような限られた時間の中で、中心となる論点を絞りだし、参加した方々から良いアイディアを出していただくのはなかなか難しいものです。私は緊張しながらも、メンバーの方々から前向きな質問をたくさん出していただきながら、課題の状況を模造紙に書いて整理していきました。参加した先生方が的確な質問を積み重ねてくださったことで、いろいろな対応策や視点の切り替えを生み出すことができ、有意義なディスカッションにすることができました。他の先生方も、普段かかわりのない児童生徒の事例に対しても真摯に向き合ってくださり、皆で解決していこうとする意気込みにあふれていました。特別支援学校の教員は、常に小集団のチームで仕事に当たっています。今回のように即席の集団で話し合って問題解決を図るというのは、その話し合いの過程だけでもとてもよいトレーニングになると感じました。

 

 教師間での相互のコーチング、会議のファシリテーションなど、通常の業務の他にも教員に求められるスキルは多岐に及びます。話し合いは真心をもって当たるのが基本ですが、さらに効果的な技法が入ってくればより効率的になっていくことと思います。教員の雑務や会議の多さ、多忙感などが問題になって久しいですが、取り組んで行く私達教員の工夫によって解決できる場面もたくさんあるのではないかと私は考えています。これからも機会を見つけて、様々な自己研鑽を積んでいくことができればと思っています。

渡部 起史(わたなべ たつし)

福島県立あぶくま養護学校 教諭
東北最大規模の福島県立あぶくま養護学校に勤務し、総務部を担当しています。特別支援学校における学習環境の整備やPTA活動の役割など、様々な話題を提供していきます。

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