2013.08.21
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子どもが育つ土づくり「自立活動の指導とは」

東京都立城北特別支援学校 教諭・臨床発達心理士 植竹 安彦

 熱風が痛いくらいです

 このところ、気温が自分の体温より高い日があります。いろいろな熱中症対策のグッズや食べ物、飲み物も出ているようですので、試しながら乗り切りたいと思います。小さなお子さんは、周りの大人が守ってあげないといけませんね。

全国の熱い先生と共に 

 さて、夏本番ですが、8月8日9日に肢体不自由教育の研究大会が都内でありました。ここ5年間ほど、運営スタッフとして大会に関わらせていただいていますが、今年も全国の熱い思いの先生とお話しをする機会がありました。

 

 全国から参加された200数名の先生の中で、鹿児島、広島、京都、埼玉で教えていらっしゃる先生と1時間ほどお話できました。その中で、若手の先生方が指導で悩んでいることや、困っていることを伺うことができました。

 一学期、私の勤務校で2、3年目の先生と話していたことと共通することも多く、全国の先生にとっても捉え辛いのだなと思う話題がありました。

 それは、「自立活動の指導」についてです。そもそも「自立活動って何を教えたらよいのですか?」や、「指導の優先順位をどのようにつけるのか?」など多岐に渡りました。

 今回は、「自立活動」について私なりの考え方を、お話をしていきたいと思います。

 

「自立活動って何ですか?」

 「自立活動」と言われても、特別支援学校以外では聞いたことがあっても、なじみの薄いものだと思います。

 でも、自立活動について少しでも理解が深まると、普通の学校教育においても、とても役立つ内容ばかりだと思いますので、ぜひ、私には関係ないと言わずにお付き合いいただけたらと思います。

 

 なぜ自立活動が大切かというと、それは、「人の発達の基本」が網羅されているからです。

 

 自立活動の学習指導要領には、自立活動の意義、内容として「個々の障害による学習上又は生活上の困難を改善・克服するための指導」と記されています。

 私には、指導要領の内容がちょっとイメージでき辛かったので、次のように読み替えて解釈しています。
 

 自立活動は「良い土づくり」をするための指導だと解釈しています。
 

 植物が育つためには、その植物が育つのに適した土、水、光が必要だと思います。同じように人も、一人一人の子供がより良く育つためには、その子に適した土、水、光が大切だと考えます。

 大きな幹を支えるには、根っこが広く強くはれることが大切です。そのためには、良い土でないと育ちにくいと思います。この土づくりこそが自立活動の指導だと考えています。

 その上で、水や光など栄養となる言葉かけや教科の教育指導があるのだと思います。根っこが広がらず、土から見え隠れしている状態に、いくら水をかけても日差しがあっても育ちにくいのではないかと思います。

 

 現在、普通教育の小学校を見学させていただいても、感覚面に困難さを抱えている子、姿勢を保持する力の弱さを抱える子など、もはや自立活動は特別支援教育だけのものではないと考えています。

 

 ちょっと理屈めいたことですが、本来は6歳の小学1年生になるころには、読み書き計算するために必要な人の発達に達していることを前提に、一斉指導で行うスタイルの教育(粒ぞろいの子だからできる教育)内容が設定されているのだと思います。しかし、現在の外遊びや自然環境を相手にしながら生活することが希薄した生活環境では、6歳でもなかなかこの発達水準まで到達できないのが現状だと思います。

 このことからも、特別支援教育では当たり前の考えである、「個に応じた教育」の発想をもちながら、少しだけ個に応じた支援を取り入れながら普通教育も進められると、発達に少し遅れた子も育ちやすくなると思っています(既に多くの先生方がされていると思いますが)。

 

 「自立活動で何を教えたらよいのですか?」

 「自立活動で何を教えるべきか?」と本質をついた質問もありました。
 

 自立活動の教育活動としては、個々の実態に応じて、「健康の保持」、「心理的な安定」、「人間関係の形成」、「環境の把握」、「身体の動き」、「コミュニケーション」の六つの区分を適宜組み合わせて指導するようにと学習指導要領にあります。


 この、「実態に応じて、適宜組み合わせる」ということが、私もそうですが、若手の先生方にとって難しいところだと思います。

 まず、「実態に応じて」とありますが、実態を読み取ること自体が幅広い知識を必要とされます。過去のつれづれ日誌に、「実態把握」と「行動観察」のポイントを書かせていただきましたが、まだまだお伝えできていない実態把握の視点は沢山あります。それだけ複数の知識が必要なことと、その知識と知識をつなぎ合わせて解釈する力が必要になるので難しいのです。

 

 そして、「適宜組み合わせる」ためには、運動発達と認知発達の相関性なども知っている必要があります。

 赤ちゃんの1歳までの運動発達のマイルストーンを示してみました。

(1)「首(頸)が座る(生後3~4か月)」、

(2)「寝返り(生後4~5か月)」

(3)「座位がとれる(生後6か月位)」

(4)「一人で座る(生後7~8か月)」

(5)「ハイハイ(生後8か月位)」

(6)「つかまり立ち(生後8~9か月)」

(7)「一人歩き(生後12か月)」

と育ちの順番があり、その一つ一つの運動発達の節目には、認知発達の質的転換があります。

 

 次にこの運動発達と認知発達の関係性を考えてみたいと思います。

 (1)の「首が座る」ことで、視線が安定しやすくなります。興味を引く音や声がする方へ、頭を向けて確認するなど、認知発達を促す上で大きな土台となります。また、視線が安定することで、興味のあるものに手を伸ばし、触って確認する次のステージへの土台となる発達です。
 

 (2)の「寝返り」ができるほど、腰まで運動の発達が育ってくると、今までは仰向けで上しか見られなかったのに、左右どちらも見られたり、うつ伏せをとれたりするようになります。明らかに今までとは違った視野の育ちが広がります。
 そして、うつ伏せもできることで、重力に逆らった姿勢(抗重力姿勢)が自分でとれるようになります。ここから肘で体を起こし、片手で興味の引くものに手を伸ばすなど、興味関心に基づいて動きを広げる起点になります。
 

 (3)「座位がとれる(大人に座らせてもらって)」ことで、さらにさらに視野が広がります。寝ていたときとは全く違った世界です。そして、姿勢を支えるために使っていた手が、操作をするための手と少しずつ変わってきます。
 

 (4)「一人で座る」ことができるには、倒れそうになったら「おっとっと」と姿勢を正中位に戻す「立ち直り反応」が上手になることが必要です。姿勢を保つための手がいらなくなるので、いよいよ「さぁ、いたずらを始める手の準備ができました」と微笑ましく感じる瞬間です。
 

 (5)「ハイハイ」もこの時期にできるようになってきます。すると、寝た姿勢からうつ伏せになり、面白そうなものを見つけたら、ハイハイで移動し、一人座りになり、いたずら開始!と、さらに探索活動と言われる自分の世界を広げる、正に興味関心・好奇心に基づいた人としての育ちをエンジン全開で広げます。
 

 (6)「つかまり立ち」ができることで、今まで高くて手が届かなかったところへも手が届くことができます。さらに視野を広げて見渡すこともできます。生活の目の前で起こる出来事と過去の出来事のイメージを重ね合わせて、少しずつ物事の手段と目的の関係性も理解しだします。
 

 (7)「一人歩き」ができることで、いよいよ人生の大海原に飛び立つ時です。興味関心の基に、自分でそれは何なのか確認しにいけます。

(※研究者により、発達の捉えも少しずつ違いますので、参考程度に捉えてください。また、発達時期には差があります。おおよその目安としてください。)

 そして、この先に、自分の体を通して、外界と関わることが飛躍的に伸びますので、身体意識が高まり、自我も芽生えてきます。自我が芽生えるからこそ、「自分でする」「私のもの」など、「私」が存在してきます。「私」が存在するからこそ、「他者」が存在することが実感として分かるようになり、人との関係性の中でコミュニケーションが育つといえます。

 

 運動発達と認知発達の関係の一部を人の1歳になるまでで捉えてみました。1歳まででもこれだけの運動と認知の関係性があります。このような関係性をつかめるようになることで、自立活動の6区分、さらにその下にある26項目を、発達の視点と、その児童・生徒一人一人の実態に合わせて相関的につなぎ合わせることができやすくなります。
 

 あまり難しく考えると、何もできなくなってしまいますので、上記に示したように、運動と認知の発達の関係性を漠然とでもつなぐ癖をもつとよいと思います。

 お子さんの指導がうまく進まない時に「何ではさみが上手に使えないのかな?」、「何で運動会が近づくと落ち着かなくなるの?」と、「何で?」の「?」を考えてみてください。そして、自立活動の6区分と26項目を読み深めると、そうか、「身体の動き」の(1)(2)の項目かなとか、「環境の把握」の(2)の項目が関連しそうだなとつかめてくると思います。

 最初は「首と座位が安定すればよく見えるよね~」くらいのノリでもまずはよいと思います。ではその「座位が安定する」ために、「座位が安定していないAさん」だから、運動面では、「平衡感覚を使いながら姿勢を保持する練習」をして、学習面では、「座位保持いすを正しく使いながら姿勢を保持する支援と、首を少し支えて見えやすくしてあげよう。」とつながってきたらしめたものです。

 「あれ、座位が安定したら、左手が使いやすくなり、紙を押さえて、右手のはさみの操作も良くなった」ということがあるかもしれません。

 実はこれ、私が過去に教えた子の事例です。指導としてはブランコ乗りを毎日しただけですが、結果としてはここまで成長してくれました。活動としては、ブランコ乗りですが、何のためにその活動をするのかが明確になってくると、保護者や指導する子どもへもきちんと説明でき、活動への意欲も高められると思います。

 

 子どもが育つ土づくりを

 長々と書いてしまいましたが、このように、自立活動は、子供たちがより良く育つための「土づくり」を子供と一緒にする教育活動だと思います。何を教えるかは、担当のお子さんが「育ちやすくなるための土づくりをする」と考えたらいかがでしょうか。

 そのために、児童・生徒の1年後、6年後、12年後の生活が良くなるために、運動と認知の発達の関係性をつなぐ視点をもつこと、逆の視点では、これができると、次にこんなこともできるようになるという仮説を立てる力を高められたらと思います。

 これらの視点をもって教科指導をすると、常に自立活動に基づいた授業となり、学びやすくなると思います。

 

 つれづれ日誌の第1期生、川上康則先生がおっしゃっていたことがあります。「ユニバーサルデザイン」の教育として、自立活動の視点をぜひ、全ての教育活動にエッセンスだけでも取り入れられたら、良い学びの場となるということを私も信じています。

 

 今回は、全国の先生の熱い気持ちに触れ合えた高揚感からたくさん書いてしまいました。特別支援教育にできることを、2学期もお届けしますので、お付き合いください。

植竹 安彦(うえたけ やすひこ)

東京都立城北特別支援学校 教諭・臨床発達心理士
肢体不自由教育からの視点を中心に、子どもたちの発達を支えるために日々できることを一緒に考えていきたいと思います。

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