2013.08.09
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小学校の体育の授業が将来の生活の質に与える影響

帝京平成大学現代ライフ学部児童学科 講師 鈴木 邦明

夏休みも半ばになってきました。皆さんは、充実した夏休みとなっているでしょうか?

教員にとって、夏休みは疲れた体や心を休めるということと共に普段なかなかやれないようなことに取り組む時期としても大事です。読むことのできていない本を読んだり、博物館や美術館へ行ったり、様々なことが考えられます。

この夏に私は、鬼ごっこについての発表をする予定です。(8/15)以前にも話題にしたことがある日本フィットネス協会主催の「フィットネス指導実践報告会」というものです。そこには、フィットネスクラブの指導員、大学や研究所の研究者、スポーツ関連企業の人などが参加してきます。そこで、「鬼ごっこ」をテーマに、子どもの体力や健康などについての発表をしてきます。 私はこの10年ほど、鬼ごっこをテーマにして、様々な実践に取り組んできました。鬼ごっこには、教育上、数多くの魅力に満ちています。体力の向上は勿論、コミュニケーションのスキルの向上など非常の幅の広い内容を含んでいます。鬼ごっこに関係する要素を私なりにまとめたマップがあります。それを見ると内容の幅の広さを実感できると思います。

今回の発表では、その中でも「楽しさ」「休み時間」「生涯スポーツ」などに焦点を当てています。「運動嫌い」=「体力テストの下位群」の子ども達は、普段あまり運動をしません。運動が嫌いなのですから、積極的に取り組むはずはありません。その結果、上手にならない(記録が伸びない)ので、充実感(満足感)も得られず、「つまらない」そして「嫌い」となってしまいます。私は、この状態を「運動嫌いの負のスパイラル」と呼んでいます。そういった子ども達に無理やり運動をさせても、却って運動嫌いを増やしてしまうだけです。運動をやればやるほど、負のスパイラルに陥ってしまい、運動に対してネガティブな思いを持ってしまうからです。

そこで重要になるのが「楽しさ」です。運動をすることで「楽しい」という思いを抱くことができたら、子ども達はまた運動に取り組みます。鬼ごっこは、「楽しさ」を子どもに味わわせるのに最適な教材です。 今回、一年間体育の授業において様々な形で鬼ごっこに取り組み、その結果、子ども達の休み時間の行動などに変化が生じました。体育の時間に鬼ごっこに取り組んだ私のクラスでは、外遊びに取り組む子どもが増えました。特に運動嫌い(体力テストの下位層)の子どもが、休み時間に外遊びに取り組むようになりました。これは、先ほど書いた運動嫌いの「負のスパイラル」の逆です。鬼ごっこを通して、体を動かすことの「楽しい」を実感した子どもは、自分から体を動かし始めます。そうすると、様々なものが上達し、充実感を味わい、さらに「またやりたい!」というようになってきます。キーポイントは「楽しさ」です。

ところで、休み時間に外遊びに取り組むということには、その子どもが自分から外遊びに取り組んでいることを意味します。小学校の休み時間は、基本的にそれぞれの子どもが自分の意志で行動を決められます。そういった時間に運動遊びに取り組むということは、外での運動遊びに対して、好意的な印象を持っている、若しくは、あまり否定的な印象を持っていないということになります。そういったことが、将来も運動に親しむ生活につながると思われます。運動との関わりの距離感が近いことで、大人になってからも、それなりの運動を行うことになります。そうすることで、健康な生活を送ることができる確率が高まります。小学校時代の休み時間の外遊びが、大人になってからの生活の質(QOL)に大きな影響を与えることになります。日々の生活の中で、運動を意識することで、食事や睡眠などの他の要素も意識し、生活習慣病などになりにくい生活を送ることになります。

鬼ごっこなどをきっかけにして、子ども時代に運動に親しむことは、その子どもの人生に大きな影響を与えるとも言うことができます。小学校などでの日々の指導は、時にその子どもの人生に大きな影響を与えることがあります。教師や親など子どもの周りにいる大人は、子ども達に様々な良い影響を与えられるようになりたいものです。

夏休みも少なくなってきました。充実した日々をお過ごしください。

※今回の発表の資料(ポスター、文章)があります。 

その他のデータもあります。  興味のある方は、ご活用ください。

鈴木 邦明(すずき くにあき)

帝京平成大学現代ライフ学部児童学科 講師
神奈川県、埼玉県において公立小学校の教員を22年間務め、2017年4月から小田原短大保育学科特任講師、2018年4月から現職。子どもの心と体の健康をテーマに研究を進めている。

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