2013.08.02
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経験から知識へ導く「フォーマット」

東京都立城北特別支援学校 教諭・臨床発達心理士 植竹 安彦

 夏季研修楽しんでます

 夏季休業に入り、様々な研修を受講させていただいています。

 会社員時代は、勤務時間の前に法務関係の研修を受けたり、業務終了後から税務の研修を受講しにいったりしていました。会社でそういった機会を与えてくださること自体がありがたかったですが、教員となり、勤務時間に職務に必要な研修を受けられることは非常にありがたく思っています。

 私は今年、校内の全校研究会の担当をしています。発達理論を軸に、障害のある児童・生徒の実態把握から、いかに授業実践につなげるかを主題として、年間を通じて行っています。

 開催する側になり、改めて我々教員側の実態把握を行い、一人一人のニーズに少しでも応えられるような研修を計画実施することの大変さを感じています。

 先週行われたその研究会に、校外からの講師として、私が教師道場時代にお世話になった先生に来ていただきました。その中で改めて授業づくりをする上で大切だなと再学習できたことを今回はお話したいと思います。

 

 やっぱり大切、ビデオ分析

 

 助言者の先生は、インリアルアプローチ(Inter Reactive Learning and Communicationの略でコミュニケーション支援の一手法)に長年取り組まれていますので、本校における研究会においても、実態把握と授業の分析をするにあたり、ビデオ映像が大変有効でした。

 助言者の先生にとっては、学習指導案等は事前に目を通していただいていましたが、映像で児童を見るのは初めてでした。しかし、1回映像を見ただけで、児童の認知発達の段階など担任と同じかそれ以上の読み取りが完了したことに一同びっくりです。

 映像を細かく区切り再生し、その場面ごとに、子供が示す一つ一つの小さなしぐさやまなざしからどのようなことが読み取れるかを教えてくださいました。

 1台のテレビを30人の教員が囲み、全員が一瞬にして共通の知識を共有することができ、「これぞ本当のOJT」と内心ワクワクしつつ、改めて映像を研究に使う良さを再確認しました。そして、子供の動きに意味づけしていけるだけの知識がいかにたくさん必要かを、みんなが実感した瞬間でもありました。

 そして、授業改善においては、授業者は授業を進めることに必死で、自分がとった動きを思いだせないでいることがしばしばです。ビデオを通して、改めて見ると、教材を児童に提示する距離やタイミング、そして、言葉かけの内容などどれも客観的に分析でき、どのようにすべきであったかを発達を根拠にした理由の説明で、これも参加者全員が一瞬で納得でき、「授業を作るって面白い!」と教員の目が輝く様子を感じることができ、私自身も研究会の準備をして良かったと思えた嬉しいひと時でした。

経験から知識へ導く「フォーマット」づくり 

 ビデオ観察の他に、「確かな学力を育む授業づくり」という考えの下、「経験から知識へ」つなぐプロセスをご講義いただきました。

 私たちはつい知識というと、記憶の仕方として、いかにインプットをするかという点ばかりに気持ちが向きがちです。

 しかし、記憶とは、インプットしたものを必要な時にアウトプットすることができて記憶なのだというお話を聞き、アウトプットさせるための授業の枠組みを意識することができました。

 どのようなことかというと、「経験しただけでは知識にならない」ということです。経験したことを知識に変えるには、次のような流れがあります。

 

(1)  経験(注意)→(2)覚える(記銘)→(3)イメージやことばに変えて留める(保持)→(4)思い出す(想起)→(5)知識へ

 

となります。

 そして、この一連のサイクルは授業1時間で通して行うだけでなく、一瞬でこのサイクルを示すようなことも、子供の記憶量(ワーキングメモリー)によってや、発達段階によって複数回行うなど、実態に合わせることが大切です。

 経験から知識までもっていく1つのサイクルを枠組みといったり、形式といったり言い方は様々ですが、大学時代の教育心理学で学んだ、アメリカの心理学者「ブルーナー」が提唱したフォーマットという考え方が参考になるかと思います。

 小学校の授業でも、小1と小6では、子供が理解できる学習の枠組みは違うと思います。それこそ、小1は細かいサイクルで確認しないとすぐに忘れて思い出せない段階から、複数の枠組みを組み合わせることで、理解が深まる抽象的思考ができてくる小6の段階など、相手に応じた授業そのものの枠組み(フォーマット)を検討することが大切です。

 特に、知的に障害がある児童・生徒にとっては、授業の中で複数回このサイクルで経験から知識へと学習する間に、想起する手がかりをちりばめる必要があります。具体物による提示、擬音語、擬態語によるイメージづくり。そして、イメージしたものにラべリングする視覚情報の提示など、指導の手立ても大切です。

 授業では、導入、展開、まとめというのが一つ大きな流れとしてありますが、その中でもこのフォーマットを意識し、授業のまとめをいかに効果的に想起を促すか、そして、授業だけでなく、帰りの会でもう一度その日に学習したことを想起させるような配慮が、経験から知識へ導き、確かな学力の積み上げになることを研究会を通して学べました。

 教師道場で、助言者の先生より口がすっぱくなるほど、この授業の枠組みを大切にするようにご指導していただいていましたが、1年半しか経たないうちにすっかり私の記憶から遠のいていました。研修したことも、そのままでは忘れてしまうことの典型が自分だったようです。夏の終わりには研修を振り返り想起してから新学期を迎えたいと思います。

 なかなか心に余裕がないと、深い授業研究や教材作成も十分にできませんので、児童に宿題を出している手前、自分自身に宿題を課して2学期を迎えられるように、夏季休業の後半を過ごしたいと思います。

  みなさん、くれぐれも熱中症にはお気をつけてください。ではまた次回もお楽しみに。 

植竹 安彦(うえたけ やすひこ)

東京都立城北特別支援学校 教諭・臨床発達心理士
肢体不自由教育からの視点を中心に、子どもたちの発達を支えるために日々できることを一緒に考えていきたいと思います。

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