2013.07.18
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トマリン「○○の夏」

石川県金沢市立三谷小学校 教諭 泊 和寿

   

トマリン「○○の夏」

 

 1. 夏休み直前、華やぐ自学帳

夏休みが近づいてきました。

ジリジリと真夏の日差しが照りつけるこの頃、皆様、いかがお過ごしでしょうか。

本校の子どもたちは、一学期のテストに励んでいます。

私のクラスでは、自分でテーマを選んで家庭学習してくる「自学帳」を活用しています。

「自学帳」をしてくることは、強制ではありません。

4月当初は、テーマをこちらで決めて全員に宿題として出します。

マネしたくなるような自学帳を紹介したりしながら、書き方や意欲を引き出していきます。

すると、面白くなって、そのうちに、宿題でない日にも自主的にやってくる子が出てきます。

 

通学や塾で時間をとられてしまうようで、自学帳をやるのは、なかなか大変な時代になりました。

20年ほど前に比べると、年々、毎朝、机の上に出される自学帳は少なくなってきています。

子どもだって、なかなか忙しく、大変なのです。

 

先週くらいからは、テストがあることもあって、普段よりもたくさんの自学帳が出されています。

写真で紹介したように、自学帳の内容も、楽しみながら、個性が出てきているようです。

暑い中、自発的に、工夫しながら家庭学習に励んでいる姿を想像すると、大したものだと感心します。

夏休み直前、

わがクラスでは、ひそかに、楽しみながら、自学帳が華やいでいます。

 

2. ○○の夏

さて、子どもも大人も暑さで集中力や気力が減退する時期です。

あとわずかの夏休みに向けて、皆さんの学校では、どのように過ごしますか?

 

「○○の夏」に文字を当てはめてみてください。

 

もちろん、二文字でなくても結構です。

すぐに当てはめられる方も、そうでない方も、楽しんで考えてみてください。

私のクラスでは、

 

「鍛えの夏」です。

 

(1)その一「水泳」

私は、水泳指導の時間は、泳げない子を中心に指導することにしています。

本人にも周りの子にも、大きな成長を感じさせてあげられるからです。

たいていの場合、5mも泳げない子がいます。

これまでに、一番早くて、5分間の指導で25m泳げるようになった子がいました。

今年も、30分ほどの指導で25mを泳げるようになった子がいます。

私も、周りの子も、大喜びです。

25m泳げるようになった子の多くは、変わります。

大きく自信をもって、人間的にもどんどん成長することが多いです。

周りの子も、信じて努力すれば成長するのだと、活力を増して生活するようになります。

できたら、泳げない子全員に、この喜びを味わわせたいと思っています。

 

しかし、全員が泳げるようになることは、なかなか難しいです。

子どもの現状、意欲、素直さ、素質、周囲との人間関係など、様々な条件が影響しているからです。

1番目は、水泳を通して、成長の喜びを味わえる「鍛え」をと挑戦しています。

毎年、水泳指導が始まるころになると思いだす、エピソードをひとつ紹介します。

 

私が教員になりたての頃、凄い女性の先生と同じ学年を組んだことがあります。

なんと、その先生は、クラスの子全員を泳げるようにするのです。

どんなに水が怖い子も、25m泳げるようにしてしまいます。

私も、子どもたちの泳力を結構伸ばしているつもりでいました。

何人も25mを泳げるようにしていました。

が、その先生は、全く別格でした。

何十年も全員を泳げるようにしているのでした。

最初はプールに近づくことも怖がっていた子が、25m泳げるようになっていく姿を何人も見ました。

見た目は、失礼ながら、どこにでもいそうな、気さくでいつも笑顔の、ごく普通の先生でした。

普段は、家庭の話題などを面白おかしく話してくれ、別に変ったところはありません。

でも、人間的に大変すばらしい方でした。

「あなたから、こんなことを教わった。私はね、初めて気づいた。」

と、明け透けに心を開いて話しかけて下さるのです。

凄い方です!

大学卒業したての、教員としてヨチヨチ歩きの若者をつかまえて、そんなことが言えるでしょうか。

国語や算数などの授業も、ツボをつかまえて、テキパキと指導し、進度の速い先生でした。

七月には、もう一学期の学習は、たいてい終わっていました。

きっと、コツをつかむことや、子どもをその気にさせて成長させる術に、秀でておられたのだと推察しています。

ただし、指導は厳しかった。

子どもの心の弱い部分は、泣いていても、しっかりと向き合わせて、一緒になって、乗り越えさせていました。

とても熱心な先生でした。

定年退職をしてしまわれたのが、とても残念です。

 

余談ですが、

残念ながら、現代はクレーム社会になってしまいました。

熱心な先生は、格好のターゲットになりがちです。

もちろん、熱心な指導に共感してくれる方も多いです。

だけど、熱心な指導をしていると、そのうちに必ずクレームが来ます。

昔なら、守ってくれる周囲の人がたくさんいました。

現在は、守る人はほとんどいません。

「火の無い所に煙は立たない。」

「うまくやっていないからだ。」

「私には関係ないわ。お気の毒様。」

と、無責任で冷たい、足切りと傍観が常です。

ドラマの企業や官僚物的にいうならば、

「彼のキャリアは終わったな。」

となるのです。

全く、ため息が出ます。

普通に指導していても、クレームが来ることが多いのが現状です。

熱心に指導していれば、なおさらです。

そして、助けてくれる人は、昔よりとても少ない。

こんな状況では、無難に一年間過ごそうかと考える人が出てきて当たり前です。

職業的に見て、比較的わずかですが、残念な教員の不祥事がニュースになることがあります。

もちろん、本人の責任ですが、私は、このような現状に、その原因の一端があると見ています。

大変に残念なことです。

熱心な先生や、個性的で規格外の指導力をもった先生が、どんどんいなくなるのは、社会のニーズによるところが大きいのです。

私は、このような悪循環を変えねばならないと思っています。

他国には、このような道程を通って、教育に苦悩している国もあると聞きました。

日本も、同じ道を歩んでよいのでしょうか。

こんなことを書くと、格好のターゲットになる恐れがあります。

ですが、私は、真摯に受けとめてくれる大多数の方と一緒に、この問題に目を背けてはならないと考えています。

 

話しを戻します。

私は、その先生ほどの水泳指導力は発揮できませんが、水泳での鍛えを通して、少しでも成長する喜びを味わってほしいと願っています。

私が尊敬する先生の御一人のエピソードを御紹介しました。

 

(2)その二「授業の基礎基本」

暑いと、授業に活気がなくなってきます。

とくに本校は、大変に日当たりがよく、3階の5年生教室の暑さは、めまいがするほどの日もあります。

ですから、日常的に風通し良くすることと、休み時間の冷水器での水分補給は欠かせません。

私は、それに加えて、ベランダに水をまいて涼をとっています。

 

それほど暑いので、挙手して発言する子も減りがちです。

声も、一時期に比べて、元気がない気がします。

そんな時期だからこそ、「聴く」、「話す」、「書く」などの授業の基礎基本を大切にします。

集中力をもって挑むことを大切にします。

これだけの暑さを、子どもたちと一緒に乗り越えるのです。

暑さに打ち勝った子どもほど、多少のストレスでは心が折れなくなります。

私のクラスの子どもたちの、集中力は夏に育ってきています。

 

 

3.  最も鍛えたいもの

最も鍛えたいのは、自分自身です。

暑さの中、がんばっている子の姿は、見ていてわかります。

夏休みまであとわずかですが、

私も、子どもたちに負けず、自分自身を鍛えたいと思っています。

 

先日、リサイクルショップで新古品の流しそうめん機を700円で買いました。

家に帰って、家族で、流しそうめんを食べるのを楽しみにしながら・・・。(笑)

泊 和寿(とまり かずひさ)

石川県金沢市立三谷小学校 教諭
私は、子どもたちが目を輝かせて生き生きと学ぶ姿が大好きです。子どもが本気になって学ぶと、グワッと教師を越えていきます。今年も、そんな感動をめざしたいと思います。

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