トマリン「○○の夏」
1. 夏休み直前、華やぐ自学帳
夏休みが近づいてきました。
ジリジリと真夏の日差しが照りつけるこの頃、皆様、いかがお過ごしでしょうか。
本校の子どもたちは、一学期のテストに励んでいます。
私のクラスでは、自分でテーマを選んで家庭学習してくる「自学帳」を活用しています。
「自学帳」をしてくることは、強制ではありません。
4月当初は、テーマをこちらで決めて全員に宿題として出します。
マネしたくなるような自学帳を紹介したりしながら、書き方や意欲を引き出していきます。
すると、面白くなって、そのうちに、宿題でない日にも自主的にやってくる子が出てきます。
通学や塾で時間をとられてしまうようで、自学帳をやるのは、なかなか大変な時代になりました。
20年ほど前に比べると、年々、毎朝、机の上に出される自学帳は少なくなってきています。
子どもだって、なかなか忙しく、大変なのです。
先週くらいからは、テストがあることもあって、普段よりもたくさんの自学帳が出されています。
写真で紹介したように、自学帳の内容も、楽しみながら、個性が出てきているようです。
暑い中、自発的に、工夫しながら家庭学習に励んでいる姿を想像すると、大したものだと感心します。
夏休み直前、
わがクラスでは、ひそかに、楽しみながら、自学帳が華やいでいます。
2. ○○の夏
さて、子どもも大人も暑さで集中力や気力が減退する時期です。
あとわずかの夏休みに向けて、皆さんの学校では、どのように過ごしますか?
「○○の夏」に文字を当てはめてみてください。
もちろん、二文字でなくても結構です。
すぐに当てはめられる方も、そうでない方も、楽しんで考えてみてください。
私のクラスでは、
「鍛えの夏」です。
(1)その一「水泳」
私は、水泳指導の時間は、泳げない子を中心に指導することにしています。
本人にも周りの子にも、大きな成長を感じさせてあげられるからです。
たいていの場合、5mも泳げない子がいます。
これまでに、一番早くて、5分間の指導で25m泳げるようになった子がいました。
今年も、30分ほどの指導で25mを泳げるようになった子がいます。
私も、周りの子も、大喜びです。
25m泳げるようになった子の多くは、変わります。
大きく自信をもって、人間的にもどんどん成長することが多いです。
周りの子も、信じて努力すれば成長するのだと、活力を増して生活するようになります。
できたら、泳げない子全員に、この喜びを味わわせたいと思っています。
しかし、全員が泳げるようになることは、なかなか難しいです。
子どもの現状、意欲、素直さ、素質、周囲との人間関係など、様々な条件が影響しているからです。
1番目は、水泳を通して、成長の喜びを味わえる「鍛え」をと挑戦しています。
毎年、水泳指導が始まるころになると思いだす、エピソードをひとつ紹介します。
私が教員になりたての頃、凄い女性の先生と同じ学年を組んだことがあります。
なんと、その先生は、クラスの子全員を泳げるようにするのです。
どんなに水が怖い子も、25m泳げるようにしてしまいます。
私も、子どもたちの泳力を結構伸ばしているつもりでいました。
何人も25mを泳げるようにしていました。
が、その先生は、全く別格でした。
何十年も全員を泳げるようにしているのでした。
最初はプールに近づくことも怖がっていた子が、25m泳げるようになっていく姿を何人も見ました。
見た目は、失礼ながら、どこにでもいそうな、気さくでいつも笑顔の、ごく普通の先生でした。
普段は、家庭の話題などを面白おかしく話してくれ、別に変ったところはありません。
でも、人間的に大変すばらしい方でした。
「あなたから、こんなことを教わった。私はね、初めて気づいた。」
と、明け透けに心を開いて話しかけて下さるのです。
凄い方です!
大学卒業したての、教員としてヨチヨチ歩きの若者をつかまえて、そんなことが言えるでしょうか。
国語や算数などの授業も、ツボをつかまえて、テキパキと指導し、進度の速い先生でした。
七月には、もう一学期の学習は、たいてい終わっていました。
きっと、コツをつかむことや、子どもをその気にさせて成長させる術に、秀でておられたのだと推察しています。
ただし、指導は厳しかった。
子どもの心の弱い部分は、泣いていても、しっかりと向き合わせて、一緒になって、乗り越えさせていました。
とても熱心な先生でした。
定年退職をしてしまわれたのが、とても残念です。
余談ですが、
残念ながら、現代はクレーム社会になってしまいました。
熱心な先生は、格好のターゲットになりがちです。
もちろん、熱心な指導に共感してくれる方も多いです。
だけど、熱心な指導をしていると、そのうちに必ずクレームが来ます。
昔なら、守ってくれる周囲の人がたくさんいました。
現在は、守る人はほとんどいません。
「火の無い所に煙は立たない。」
「うまくやっていないからだ。」
「私には関係ないわ。お気の毒様。」
と、無責任で冷たい、足切りと傍観が常です。
ドラマの企業や官僚物的にいうならば、
「彼のキャリアは終わったな。」
となるのです。
全く、ため息が出ます。
普通に指導していても、クレームが来ることが多いのが現状です。
熱心に指導していれば、なおさらです。
そして、助けてくれる人は、昔よりとても少ない。
こんな状況では、無難に一年間過ごそうかと考える人が出てきて当たり前です。
職業的に見て、比較的わずかですが、残念な教員の不祥事がニュースになることがあります。
もちろん、本人の責任ですが、私は、このような現状に、その原因の一端があると見ています。
大変に残念なことです。
熱心な先生や、個性的で規格外の指導力をもった先生が、どんどんいなくなるのは、社会のニーズによるところが大きいのです。
私は、このような悪循環を変えねばならないと思っています。
他国には、このような道程を通って、教育に苦悩している国もあると聞きました。
日本も、同じ道を歩んでよいのでしょうか。
こんなことを書くと、格好のターゲットになる恐れがあります。
ですが、私は、真摯に受けとめてくれる大多数の方と一緒に、この問題に目を背けてはならないと考えています。
話しを戻します。
私は、その先生ほどの水泳指導力は発揮できませんが、水泳での鍛えを通して、少しでも成長する喜びを味わってほしいと願っています。
私が尊敬する先生の御一人のエピソードを御紹介しました。
(2)その二「授業の基礎基本」
暑いと、授業に活気がなくなってきます。
とくに本校は、大変に日当たりがよく、3階の5年生教室の暑さは、めまいがするほどの日もあります。
ですから、日常的に風通し良くすることと、休み時間の冷水器での水分補給は欠かせません。
私は、それに加えて、ベランダに水をまいて涼をとっています。
それほど暑いので、挙手して発言する子も減りがちです。
声も、一時期に比べて、元気がない気がします。
そんな時期だからこそ、「聴く」、「話す」、「書く」などの授業の基礎基本を大切にします。
集中力をもって挑むことを大切にします。
これだけの暑さを、子どもたちと一緒に乗り越えるのです。
暑さに打ち勝った子どもほど、多少のストレスでは心が折れなくなります。
私のクラスの子どもたちの、集中力は夏に育ってきています。
3. 最も鍛えたいもの
最も鍛えたいのは、自分自身です。
暑さの中、がんばっている子の姿は、見ていてわかります。
夏休みまであとわずかですが、
私も、子どもたちに負けず、自分自身を鍛えたいと思っています。
先日、リサイクルショップで新古品の流しそうめん機を700円で買いました。
家に帰って、家族で、流しそうめんを食べるのを楽しみにしながら・・・。(笑)

泊 和寿(とまり かずひさ)
石川県金沢市立三谷小学校 教諭
私は、子どもたちが目を輝かせて生き生きと学ぶ姿が大好きです。子どもが本気になって学ぶと、グワッと教師を越えていきます。今年も、そんな感動をめざしたいと思います。
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