2013.07.26
  • twitter
  • facebook
  • はてなブックマーク
  • 印刷

SWOT分析は学校で可能か?~異文化理解教育を考える

東京学芸大学教職大学院 准教授 増田 謙太郎

分析方針シート

 昨年学んだ教職大学院で、尊敬する教育学の教授がこうおっしゃったことがあります。

「民間企業でやっていることを、そのまま学校に持ち込んでもうまくいかない。」

 

 たとえば「SWOT分析(スゥオットと読む)」。

 現場で起こる事象を強み ( Strengths)、弱み (Weaknesses)、機会 (Opportunities)、脅威 (Threats)の4つのマトリックスに分類します。そして、弱みをどのように克服するか、潜在的なニーズをどう活かすか、脅威を防いでいくか・・・などなど、戦略的な分析をしていくという手法です。企業では、コンサルタントがこの手法を使い、新規事業の開拓などに活かすそうです。

 

 教職大学院では、学校現場の様々な課題解決を研究しています。このSWOT分析を使って学校現場での課題解決を研究をしている教授や学生もいました。

 私も、学級担任と特別支援の専門家を「コンサルティ」と「コンサルタント」に見たてて、「SWOT分析」の手法を用い、子どもにとっても担任にとっても最善の支援策を見つける・・・なんてアイディアを研究してみようと取り組んでみたこともありました。写真がそのとき作ったシートです。

 

 またSWOT分析は、学校現場の管理職の研修でも用いられることがあるそうです。

 

 けど、「民間企業でやっていることを、そのまま学校に持ち込んでもうまくいかない。」のです。

 SWOT分析が学校現場で有効であった、という報告はまだ稀なのではないでしょうか。

 

 「民間企業でやっていることを、そのまま学校に持ち込んでもうまくいかない。」・・・多くの学校人が気づいている事実です。

 

 どうしてでしょうか。

 「自然」か「不自然」か?

 端的に言えば、学校に「SWOT分析」は不自然なのです。

 だって、「脅威」とか言われても別に学校が潰れるわけでもないし・・・の世界ですから(笑)。

 現場での皮膚感覚的に「違う!」「違和感がある!」という感じなのです。

 

 学校というものは、独特の風土があり、「文化」があるのです。

 

 そう、「文化」なのです。

 学校という、一般の企業とは異なる文化をどう理解するかという「異文化理解」がまず新しい取り組みを導入する際の前提となるのではないでしょうか。

 

 

 民間人校長が各地で採用され、思うような成果が現れていないという話も聞きます。

 でも、杉並区の中学校で「夜スペ」などの取り組みを行った藤原校長のように手腕を発揮された校長先生の話もあります。藤原校長は、実際に授業をしたり、生徒とランチを共に食べたりする写真がメディアでもたくさん紹介されていました。校長室でただ企業の手法を用いてトップダウンをするだけではなく、学校文化をそうやって理解しようとしていたのではないかと思います。

 

 そういえば、プロ野球でも、一時期たくさんいた外国人監督が急にいなくなりましたね。

 私は千葉ロッテマリーンズのファンなので、ボビー・バレンタイン監督の手腕には熱狂したこともありました。ボビー・バレンタインは、アメリカでは否定されている「千本ノック」を自ら体験して、日本の野球「文化」を理解しようとしたというエピソードもあるようです。

 

 学校に新たな風を吹かせた民間人校長、チームを優勝に導いた外国人監督。

 彼らは、手法だけにこだわることなく、学校の文化を理解し、楽しみ、その上で改革を実行したのではないでしょうか。

 また、手法だけにこだわって、「文化」を理解できていなかった場合の多くは失敗に終わっていたのではないでしょうか。

 これは学校だけの話ではないように思います。歴史を見ると、そのような事例は大小たくさんありますよね。

 

 「異文化理解」って大事。

 そして、どう他者の文化を理解していくかを教える「異文化理解教育」というのも重要ではないでしょうか。

 

 さて、私は特別支援教育が専門です。

 障害をもっている人=独自の文化を持っている人、とするならば、やはり「異文化理解教育」が多くの人に必要なんだろうなと思っています。

 この話は、またの機会に(笑)。

増田 謙太郎(ますだ けんたろう)

東京学芸大学教職大学院 准教授
インクルーシブ教育、特別支援教育のことや、学校の文化のこと、教師として大事にしたいことなどを、つれづれお話しできたらと思います。

同じテーマの執筆者
  • 吉田 博子

    東京都立白鷺特別支援学校 中学部 教諭・自閉症スペクトラム支援士・早稲田大学大学院 教育学研究科 修士課程2年

  • 綿引 清勝

    東京都立南花畑特別支援学校 主任教諭・臨床発達心理士・自閉症スペクトラム支援士(standard)

  • 岩本 昌明

    富山県立富山視覚総合支援学校 教諭

  • 郡司 竜平

    北海道札幌養護学校 教諭

  • 植竹 安彦

    東京都立城北特別支援学校 教諭・臨床発達心理士

  • 渡部 起史

    福島県立あぶくま養護学校 教諭

  • 川上 康則

    東京都立港特別支援学校 教諭

  • 中川 宣子

    京都教育大学附属特別支援学校 特別支援教育士・臨床発達心理士・特別支援ICT研究会

  • 髙橋 三郎

    福生市立福生第七小学校 ことばの教室 主任教諭 博士(教育学)公認心理師 臨床発達心理士

  • 丸山 裕也

    信州大学教育学部附属特別支援学校 教諭

  • 下條 綾乃

    在沖米軍基地内 公立アメリカンスクール 日本語日本文化教師

  • 渡邊 満昭

    静岡市立中島小学校教諭・公認心理師

  • 山本 優佳里

    寝屋川市立小学校

ご意見・ご要望、お待ちしています!

この記事に対する皆様のご意見、ご要望をお寄せください。今後の記事制作の参考にさせていただきます。(なお個別・個人的なご質問・ご相談等に関してはお受けいたしかねます。)

pagetop