2013.07.16
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教師道場で得たもの(2)「目を閉じて一本釣りを」

東京都立城北特別支援学校 教諭・臨床発達心理士 植竹 安彦

太陽がまぶしい季節です 

 夏本番といった天気が続いていますね。プールもぬるいお風呂ぐらいの印象を覚えるほどの温度です。熱中症に心がけて指導したいです。

東京教師道場で学んだこと(2)

 さて、前回も書きましたが、本校の初任者や2・3年次の先生の研究授業が多く行われています。その先生方が学習指導案を作成する際に、事前確認をさせていただくことを校務分掌として行っています。なかなか苦戦している様子が伝わってきます。

 もうすでに、10枚近くの学習指導案を今年だけでも見ていますが、その中で共通の部分が苦手なようです。

 そこで、前回に引き続き、教師道場で学んだことの1つに学習指導案の書き方がありますのでお話していきたいと思います。

 学習指導案の書き方自体は、各都道府県の教育委員会でも力を入れて指導されていることだと思います。今回は、私が所属した班の東京教師道場において、しかも肢体不自由教育だからこそ大切だよなぁと感じた点をお話しします。でも、ここで書く視点は、普通教育にもとても役立つのではと思いますのでお付き合いください。

 

評価は一本釣りで

 若手の先生が学習指導案を書く際に、どうしても曖昧な表現が多くなってしまいがちです。きっと授業者の先生の頭の中では、具体的なものが目に浮かんでいるのかもしれませんが、いざ、紙に書く段階になると、抽象的な10人の人が読めば、10通りのとらえ方をされかねない表現が多くみられます。

 
 例えば、指導の手立てに「わかりやすく説明をする」などど、書かれていると、「さて、わかりやすい説明とはどんな説明?」と読む立場の人は頭をかしげてしまうでしょう。

 
 そこで、私の所属していた班の教師道場では、評価場面の様子を、目を閉じて、「あぁ○○さんがこんな風に発言してくれたら嬉しいなぁ」と、児童・生徒に期待する姿を具体的に思い浮かべることを教わりました。すると、頭の中で、映像としてかなり具体的なしぐさまで浮かんできます。
 

 この期待する具体的な姿こそ、評価規準に書くべき内容になります。長々とした記述は指導案にはできませんので、その浮かんできたイメージを端的に書かなければいけませんが、言語表出がまだないお子さんの評価場面では、ここをしぐさの観察の視点まで詳しく述べる必要があります。私はこのしぐさや表情が見られたら、ねらいが達成したと評価するといった明確な評価規準とすることです。


 普通教育ですと、そこまで評価規準として書く必要性はないかもしれませんが、作成する段階で、授業の場面を思い描き、いかに児童・生徒の具体的な発言や喜んでいる表情まで思い浮かべられるかがカギだと思います。40人児童・生徒がいたら、全員の姿を思い浮かべることが理想ですが、代表となるようなお子さんを3人くらい想定して思い描けるとよいかと思います。

 
 そして、評価からさかのぼり、期待する姿を引き出すためには、現状のままでは引き出せず、何か具体的な言葉かけ(発問)や、思考を深めさせる教材の提示が必要になると思います。この際もビデオを巻き戻すかのように、期待する姿を引き出した映像からさかのぼり、「この子なら、こんな言葉をかけてあげると気付いてくれるかな」という具体的な言葉を書きだします。その言葉自体が発問計画になりますし、端的に表現しなおすと、ねらいを達成する指導の手立てとなっていきます。


 評価で思い浮かべた、「こんなことを言ってくれたらなぁ」「やってくれたらなぁ」という映像が育てたい力であり、個々のねらいや目標になります。


 そして、このねらい・目標に対して指導する教科に必要な実態を記述すると、何人の人が読んでも、初めてこの授業を観察する方や、初めて会うお子さんでさえ、指導案を読むことで授業者と同じイメージを共有することができると思います。

 
 特に、評価規準は出た結果をじびき網で大まかにひきあげるような、曖昧な表現ではなく、カツオの一本釣りをするかのように、具体的な姿を狙って指導し評価できないといけません。


 ですので、「○○を楽しむ」のような内容は指導目標になりにくいのですが、もし目標とするなら、Aさんが「どんなしぐさをしたら」「どんな表情をしたら」授業者はAさんが楽しむことができたと評価すると、具体的に想定できていないとなりません。

 
 学習指導案は教員だけでなく、保護者や地域の方など教育の専門家ではない方が読んだとしても分かる記述でないといけないと教師道場で何度も指導を私も受けました。そして、チームティーチングで指導することが多い特別支援学校では、サブティーチャーも同じ評価規準で指導することが大切です。そのためには、指導案を読めば、指導の手立てを含め、授業者と同じ考えで指導できるまで、イメージを共有できる内容が求められます。

 
 いきなり学習指導案も上手に書けるようになるものではありませんが、授業の設計図でありますので、ここをいかに具体的に詳細にイメージしておけるかが、実際の授業で一人一人のこどもにとって分かりやすい授業につながるのだと思います。

 
 夏季休業中ではいろいろな研修計画があると思います。そして少し時間のとれる時期でもありますので、自分の授業を見つめなおす時間にしたいと思います。 

植竹 安彦(うえたけ やすひこ)

東京都立城北特別支援学校 教諭・臨床発達心理士
肢体不自由教育からの視点を中心に、子どもたちの発達を支えるために日々できることを一緒に考えていきたいと思います。

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