2013.06.03
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掲示物がない!

東京学芸大学教職大学院 准教授 増田 謙太郎

 掲示物

 今、全国の教室で、こんな現象が見られています。

 クラスの目標が貼ってない。子どもの作品が貼ってない。九九や漢字の表が貼ってない・・・。

 いわゆる、「掲示物」が教室にないのです。

 

 これは先生の怠慢・・・ではありません(笑)。

 

 最近の特別支援教育またはユニバーサルデザインの普及によって、「教室の前面に掲示物を貼ってはいけない」という自主規制(!?)をとっている学校や学級が増えているのです。なぜかというと、「黒板の上や教室の前面の掲示物があると、ADHD傾向の児童は、落ち着きがなくなる」から。

 

 学校現場に、特別支援教育の発想が、浸透していくこと。私は、大歓迎です。

 しかし、掲示物を撤去することが、特別支援教育かといえば、それは違うかなあとも思います。

 

 「ウチの学校は、特別支援教育に力を入れています。だから、どのクラスも子どもたちができるように掲示物を貼ってないんですよ。」と、ドヤ顔の学校もありました(笑)。

 

  実際のところはどうなのでしょうか?

 「黒板の上や教室の前面の掲示物があると、ADHDの児童は、落ち着きがなくなることがある。」程度ではないかと、私は思います。

 

 この掲示板問題(私が勝手に命名)の問題点は二つ。

 (1)「それはだれのための支援なのか?」

 (2)「特別な支援なのに、規格品にしてしまっている。」

 

 (1)について、例えばADHDの子だっていろんなタイプの子がいるということをまず理解しなければいけません。ADHDの全員が、掲示物に過敏に反応するわけではないでしょう。

 

 

 (2)について、そもそも、特別支援教育は「規格品」になるのでしょうか?

 特別なニーズが必要なのに、それをも「規格品」のように一定の規準を押し付けてよいものでしょうか?

 視力が悪い人はメガネをかけます。私もかけています(笑)。

 メガネ屋さんに行ったら、全員が一律の規格品メガネを押し付けられますか?

 視力に応じて、レンズの度が変わりますよね。

 サングラスだって、コンタクトレンズだって、選ぶことができます。

 

 掲示物には、子どもの学習を促進したり、教室を明るくする効能もあると思います。

 「掲示物を貼らない」ことが、「特別支援教育」なんだと勘違いしないでほしいと願っています。

増田 謙太郎(ますだ けんたろう)

東京学芸大学教職大学院 准教授
インクルーシブ教育、特別支援教育のことや、学校の文化のこと、教師として大事にしたいことなどを、つれづれお話しできたらと思います。

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