2013.05.27
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みんなをつなぐPTA通学指導

福島県立あぶくま養護学校 教諭 渡部 起史

 

 今年度の1学期も、あっという間に半分が過ぎました。4月は泣いてばかりいた小学部の1年生も、先生の支援を受けながら徐々に学校生活への見通しを持ち、安心感を得て生き生きと活動し始めています。毎年各学部の新入生と触れ合っていると、様々な課題を乗り越え、本当によく通学しているなと感心させられます。この時期の新入生とそのご家庭に対しては、特にきめ細やかな支援を進め、各場面での環境の変化をうまく乗り切ってもらうことが、その後の学校生活をスムーズにしていくためにもとても大切だと感じています。

 

 さて今回は、PTA活動「通学指導」の話題です。私が所属する福島県立あぶくま養護学校は、小・中学部の児童生徒を対象にバス会社へ委託して5路線の通学バスを運行しています。始発から乗車すると乗車時間が1時間を超える路線がほとんどで、新入生をはじめとして、ベルト外しや立ち歩きなどバス内での乗車マナーに課題を持つ児童生徒も多く見られます。

 

 そこでPTAの総務委員会では、毎年全児童生徒を対象に保護者による「PTA通学指導」を実施しています。年に1度は保護者自身が通学バスに添乗して利用している児童生徒の様子を実際に確認し、実態の把握に努めようというのがこの事業のねらいです。保護者の添乗で得られた情報が生徒指導につながって成果を挙げた例もあり、昨年度まで総務委員会担当だった私もよい手応えを感じています。

 

 PTAの総務委員会は、各学年から1~2名出ていただいている委員と、PTA役員の理事、担当教員で構成されています。この委員会で添乗指導の方針や具体的な方法の決定、指導日の割り振り、指導記録の整理と各関係機関への連絡相談、意見の集約とフォローアップ等を行っています。各学年に情報網を張り、通学指導の他にも学年活動なども取りまとめている、PTA各委員会の中でも核となる重要な組織です。

 

 保護者による添乗は、例年各家庭1名ずつ乗っていただいていますが、新入生や低学年児童の保護者の中には、少し不安な気持ちになりながらこの通学バスに乗車している方もいらっしゃるようです。記録や反省を挙げていただくと、我が子の乗車の仕方をどのように支援したらよいか分からないことや、観察のみとはいえ様々な子がいるバス内でどのように振る舞ったらよいか分からないこと、添乗した後やする前の保護者さん自身の送迎の手段を確保することが難しいという悩みが、係に具体的に寄せられています。また、添乗日のみならず、日頃の通学に関する悩みを相談する先も、入学してすぐの時期は担任教師や学校のバス係などに限られてしまうのが現状です。

 

 そこで、心強い味方になってくださるのが、同じ路線の先輩保護者やPTA役員の保護者です。送迎の助け合いを申し出てくださるほかにも、毎日バスの到着を待つ間あれこれ話をしながら、今までの豊かな経験談を聞かせていただき、新入生の支援に対するよい気づきにつながっています。具体的に挙げると、バス座席の座面・足台・ベルトや補助具などの物理的な工夫、注意事項やルートスケジュールなど視覚支援の工夫、車内で楽に過ごすための余暇グッズの工夫、聴覚過敏や感覚要求に対しての工夫などです。先輩保護者の実践は、子どもたちの特徴を捉え工夫を凝らされたものが多く、他の子どもたちの支援においても非常に参考になります。児童生徒本人・保護者・先輩保護者・担任教師が知恵を出し合い、その子どもにぴったりと合った支援の方法を見つけ出せたときは、心地よい達成感と充実感に包まれます。

 

 保護者が我が子を大切に思う気持ちは、時として頑なさにつながることもあり、お子さんに対する支援が広く検討されにくいこともあります。そのようなとき信頼の置ける先輩保護者の温かい傾聴と助言は、保護者の視野を広げ、より前向きに支援の可能性を話し合っていくきっかけとなっていきます。学校や教師、専門機関に相談する場合とはまた違い、保護者にゆったりとした気持ちの余裕をもたらすようです。

 

 私個人としては、このように保護者の中での自然な助け合い・教え合いを一歩進め、PTAとしての組織的なペアレントメンター(※1)の機能を持たせることができないかと考えています。新入生と先輩の保護者の橋渡し役をPTAが担い、よりよい繋がりができれば本当に幸せなことだと思います。本校の全校児童生徒は333名を数え、東北有数の大規模校となっています。(平成25年5月現在)同時に保護者の持っているポテンシャルも大きいものがあり、それがうまく結びついて相互支援につながれば、長い療育の大きな支えになることと思います。卒業後も継続してつながっていくコミュニティの開発という意味でも、特別支援学校のPTAが果たす役割は大きいと思います。

 

(※1)ペアレントメンター

 発達障害者の子育て経験のある親であって、その経験を活かし、子どもが発達障害の診断を受けて間もない親などに対して相談や助言を行う人のこと。(厚生労働省HPより抜粋)

渡部 起史(わたなべ たつし)

福島県立あぶくま養護学校 教諭
東北最大規模の福島県立あぶくま養護学校に勤務し、総務部を担当しています。特別支援学校における学習環境の整備やPTA活動の役割など、様々な話題を提供していきます。

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