2013.05.22
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未来を創る「行動観察」の視点

東京都立城北特別支援学校 教諭・臨床発達心理士 植竹 安彦

 連休いかがお過ごしですか?

 連休中、車を走らせていると、至る所で田植えをしている様子が見られました。機械で田植えをすることが主流ですが、中には手で苗を植えている田もあり、その苦労はものすごいだろうなと容易に想像できました。

 日本人は、「いただきます」と言ってご飯を食べ、「ごちそうさま」と言い箸を置きます。でもその言葉に、実感の伴っている人はどれだけいるでしょうか? 心と言葉、行動が伴う子どもたちを育てたいと改めて思いました。食が豊かになった日本だからこそ、植物を育てる苦労を知り、大切に食べる大切さを子どもの頃に知ることが必要かなと思います。

 今年は子どもたちと、畑の土づくりから行いました。車いすに乗りながらの作業は大変です。でも、大変だったからこそ良いものが収穫できる喜びを一緒に味わっていきたいと思います。

 未来を創る「行動観察」の2つの視点

 さて、前回のつれづれ日誌では、「子どもたちの今の状態像」を「3つの軸」から理解する視点についてお話させていただきました。これは、ペーパー資料からの読み込み等が中心で、実際の子どもたちに出会う前に行う作業が中心になります。この事前の作業を基に、「こんな子かな?」という予想を立て、その予想の検証作業と、さらに指導していく上で必要な情報収集をする「行動観察の視点」を今回はお話したいと思います。

 

 実態を把握するために子どもたちの行動から状態像を読み取っていく訳ですが、私が初めて出会う子どもと関わる際に、必ず確認するポイントがあります。

 

 それは、(1)「感覚面」と(2)「認知発達段階の把握」です。

 

 ではこの2つを把握することが“なぜ”必要で、“どのようなこと”が見えてくるのかをお話していきます。

 

 まず、(1)の「感覚面」の状態が分かると、「指導の優先順位」が付けられます。逆の言い方をしますと、感覚面の状態把握をしないと、指導が進まなくなることがよくあるということです。運動面の育ちがあるからこそ、認知が育つという相関関係があるからです。それを無視した指導は、指導が思うように進まないだけでなく、子どもたちにも、辛い思いをさせてしまいがちです。

 

 次に(2)の「認知発達段階の把握」をしないと、「生活を豊かにするために育てるべき力」が定まりません。例えば、物を見分ける力の段階を把握したとします。型はめパズルを自分中心にはめている段階と、先生が指差して「ここはめて」と伝えて、それに応じてはめられる段階とでは、人と共感的に過ごす力に大きな差があります。まだ自分中心な段階であれば、行動もパターン的には過ごせるけれど、一度予定が変更されるとパニックやかんしゃくを起こしてしまうなど、生き辛い状態の生活になってしまいます。認知発達段階を把握することは、どの力をどういった手順で育てるとその子やその家族が生活しやすくなるのか捉えるために欠かせない視点です。

 

 続いて、(1)「感覚面」、(2)「認知発達段階」といってもとても広い範囲のことをいっていますので、どのような点について見ていく必要があるのか考えていきます。

 「感覚面」で捉えるポイント

 (1)の「感覚」というと、皆さんはどのような感覚を思い浮かべるでしょうか? よく五感とうと、「視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚」の五つのことを言うと思います。時々「第六感がよく働くんです」なんて、ドキッとすることを言われる方もいらっしゃるかもしれませんが、第六感はさておき、特別支援教育では初期感覚といわれる「触覚、固有覚、前庭覚(平衡感覚)」の状態を把握することが大切です。

 「触覚」はよく聞く名前だと思いますが、「固有覚」「前庭覚」って何? と思われる方も多いと思います。あまり聞き慣れない感覚ですが、実は人が生きていく上でこの感覚器官なくして生きていけないくらい重要な感覚なのでぜひこの機会に知識に入れてみてください。
 

 では、「固有覚」とは、どのような働きをしているかというと、「力の入れ加減をコントロールする感覚」です。自分の「手足の力の入れ加減や曲げ伸ばしの状態を感知」しています。

 固有覚の働きが良くないと、外界からの刺激が、脳に届く前に消えたり薄れてしまったりします。すると、より強く刺激を入れて自分で感じるようにしようとするので、例えば、コップをテーブルに置くときに「ドン」と叩きつけるように置いたり、いつも「ドタドタ」と歩いたりと、力の入れ加減ができないがために、「乱暴な子」や「ガサツな子」と見られてしまいます。

 

 続いて「前庭覚(平衡感覚)」とは、「身体の軸の傾き具合や姿勢の様子を感じる感覚」です。主に「バランスを取る感覚」で、自分の体が動いている速さや、傾き加減、姿勢がどのようになっているかを感じています。前庭覚の働きについては、私のつれづれ日誌の3回目あたりに書きました「姿勢の大切さ」等を参考にしてください。

 

 そして、「触覚」です。触覚は「外界の受容や、身体の輪郭・サイズの把握」に働きます。「自分の体や手足の輪郭やサイズ、部位や位置関係」が皮膚を通して分かります。ですので、この触覚に過敏があると触れられることを嫌がるので、友達に攻撃的になったり、人との関わり方に偏りがでたりします。また逆に鈍磨があると、痛みを感じにくかったり、服がぬれていても平気だったりと、自分の体への危険信号が読み取りにくい生活になってしまったりします。

 

 以上3つの感覚(固有覚、前庭覚、触覚)を丁寧にみていきますが、さらに「視覚」では視力はどのくらい見え、注視・追視の様子はどうかや、「聴覚」の聞こえにくさはないかなども観察していくことが大切です。

 

 「認知発達段階」で捉えるポイント

 次に、(2)の「認知発達段階の大まかな把握」で見るポイントです。発達検査をするにこしたことはありませんが、関わりを通して多くの情報を子供達は伝えてくれています。手段と目的の関係性理解物を見分ける力短期記憶の長さ(ワーキングメモリー)等を中心に見ていきます。主に弁別の力の段階を見ていきます。物の分け方、くくり方の難易度を見ていくと、発達の年齢段階を捉えることができます。

 例えば、はめ板課題で形を見分ける際に、はめ板を手に取ってから、見比べて同じ形のはめ板に重ねることができる段階と、指導者が指定したはめ板の形を複数の選択肢の中から目で選んで取れる段階とでは、大きな力の差があります。前者は運動に伴って視覚が働く段階ですが、後者は視覚が先行して運動の方向を導きだしています。また、後者のほうが相手の要求に柔軟に対応できるなど、情緒の面でも他者との折り合いが付けやすいだろうと推察できるからです。

 

 認知発達を読み取るには、ここで語るには膨大な時間が必要となりますので、私は淑徳大学の宇佐川浩教授の発達理論をベースに読み取りをしています。太田ステージなどいろいろな認知発達を読み取る方法がありますので、どれか一つでも読み取るツールをもっていただけたらと思います。

 

 以上大まかですが、私は感覚面と認知発達の段階をこのような視点で読み取り、指導計画に生かしています。

 

 この他にも、「脳の処理過程」で、継次処理と同時処理のどちらが得意なのかなど、まだまた読み取る必要なことはありますが、感覚と認知を知ることで子どもたちの状態がよりよく見えてくると思います。

 行動の読み取りに大切な「5つの手がかり」

 そして、行動から読み取る際に、次の5つの手がかりを参考にすると気付きが増えます。

(1)表情、(2)視線・まなざし、(3)しぐさ・動作・行動、(4)発声、(5)姿勢です。ここに「なぜ・どうして」この表情なの? という疑問に思う気持ちを重ねることで読み取りが深くなると思います。

 

 このような特別支援教育の視点を普通教育にも重ねていただけると、通常の学校でも子どもたちの指導を改善させる要素が増えると思います。それには、日ごろから観察する目をもって接することが大切です。ぜひ実践生かしていただけたらと思います。

 

 暑さも日々増してきています。体調管理に気をつけて頑張りたいと思います。また次回もお楽しみに。

植竹 安彦(うえたけ やすひこ)

東京都立城北特別支援学校 教諭・臨床発達心理士
肢体不自由教育からの視点を中心に、子どもたちの発達を支えるために日々できることを一緒に考えていきたいと思います。

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