新年度が始まって半月ほど経ちました。
順調なスタートであることを願います。
特に若い先生達が、元気に毎日を過ごせていることを願います。
今回は、私のクラスでの経験や長年見てきた中で、若い先生達のクラスがうまくいかなくなってしまう仕組みについて少し書きたいと思います。
前半は、「授業の準備の大切さ」について、後半は、「ルールが崩れていく仕組み」について書きます。
始めは、「授業の大切さ」についてです。
新年度が始まったこの時期は、様々な事務仕事に特に時間が掛かります。
書類に氏名印を押すような割と単純な仕事がとてもたくさんあります。
締め切りがあるものもあるので、そういったものをやるために時間が掛かります。
若い先生達は慣れない仕事であることもあり、そういった仕事がたまっていきます。
「あの書類はまだ?」と担当の先生に言われると、どうしてもそちらを先にやるようになります。
そうしているうちに、本来、大切にしなければならない授業の準備に時間を割くことができなくなってきてしまいます。
そうなると、当然、授業の質が下がります。
子どもは、授業の質について、文句のようなことはほとんど言いません。
授業の質が下がると、子ども達の落ち着きがなくなることが多いです。
いくら休み時間に一緒に遊んであげても、優しく声掛けをしても、毎回の授業がつまらないものになってしまうと、子どもが教師から離れていってしまいます。
そこで大事になるのが、様々な仕事を「エネルギーをかけるもの」と「あまりエネルギーをかけないもの」に分けることです。
これは、取り組むべきものに「優先順位をつける」という言い方でも良いかもしれません。
A:エネルギーをかけたいもの(優先順位の高いもの)
・次の日の授業の準備
・子どものけが
・子ども同士のトラブル
B:エネルギーをある程度かけたいもの
・テストの採点
・家庭訪問のスケジュール決め など
C:あまりエネルギーをかけないでよいもの
・廊下の壁に子どもの作品を貼ること
・氏名印を押すこと など
「C:あまりエネルギーをかけないでよいもの」は、できる限り効率よく、時間を掛けずにやることができる方法を考えます。
短時間で、ある程度の質でできるように取り組んでいきます。
大切な「授業について考える」時間を確保するためです。
人が活動できる時間には限りがあります。
通常の小学校の教師は、午後3時過ぎ位までは子どもを目の前にして授業をしています。
子どもが帰った後、各種の事務仕事や次の日の授業の準備の時間になります。
遅くまで学校にいれば、それらに取り組む時間は、確保できますが、それにも時間に限りがあります。
できなかった分は、休日出勤をすることになります。
そんな日々を過ごしていくうちに、体も心も少しずつ疲れがたまってしまいます。
学校の教師は、一年間が単位の仕事です。
年間を通じて、コンスタントに仕事ができることが求められます。
体も心もよい状態を保つことも、教育の質を高い物にするにあたってとても大事なことです。
是非、効率よく仕事をすることを身に付け、「授業のための準備」にしっかりと時間をかけられるようにしてください。
ところで、今まで集団がうまく機能しなくなったクラスを見たことが何度もありますし、私自身もうまくいかなかったこともあります。
どういった仕組みでそういったことが起こってしまうのかということを「ルール」に着目して書きたいと思います。
若い先生達が陥りやすいケースは「ルールが崩れていく」というものです。
学校には、さまざまなルールがあります。
例えば「1時間目は8:45~9:30」という時間に関するものは基本的なルールの一つです。
そういった明文化されたルールは崩れにくいです。
なぜなら、そういったルールは掲示物などになって見える所に貼られていることが多いです。
ルールが明確なので、崩れにくいです。
崩れやすいものは、明文化されていないようなルールです。
特に担任が自分のクラスの中で基準を設定しなければならないような場合です。
例えば、宿題を忘れた人への対応についてです。
子どもが宿題を忘れた場合、担任が「すぐにやりなさい!終わらせてから遊びに行きなさい!」と言ったとします。
別の日、同じ担任が同じような状況の時に「まあいいよ。遊びに行ってきなさい。」と言ってしまったとします。
宿題を忘れた場合の対応は、多くの場合、学級担任に対応が任されています。
どうするのかの基準を担任が決めなくてはいけません。
上のケースでは、担任の基準がぶれています。
こういったことが続くと、子ども達が「不公平」「ずるい」「人によって言っていることが違う」などと言い出します。
子どもからの信頼を失っていきます。
そうしていくうちに、段々と担任の指示に従わない子どもが増えていきます。
気がつくと、荒れたクラスになってしまいます。
このような状況になるまで半月もあれば十分です。
なぜ、このようなことが起こるかというと、学級において子どもは様々な質問を担任に伝えてくるからです。
「○○はしていいですか?」
「○○はどこに置きますか?」
「野菜はきらいだから減らしていいですか?」
数えたことはありませんが、一日に数十個から百個もの質問に担任は答えていくことになります。
その都度、判断を迫られます。
先ほども書いたように明文化されているようなものは、担任に聞く必要がないので、聞いてはきません。
子どもが聞いてくるようなことは、教師が何らかの判断をしなければならないようなものが多いです。
そういった状況で、若い先生達が犯してしまうミスが「その場であまり考えずに答えてしまう」ということです。
あまり考えずに答えているので、違う場面で他の子どもが同じようなことを聞いた時に違うように答えてしまったりします。
これによって子どもが不公平感を感じることにつながっていきます。
こういったことへの対策としては、判断に困るような時には、すぐに答えずに時間を置くようにするということです。
「ちょっと分からないから学年の先生に聞くまで待っていて」
「ちょっと考えるから明日にして」
このように答えて、少しだけ時間を伸ばします。
その後、放課後などに学年の先生達に確認をするのです。
大概、明確な基準を示してくれるはずです。
子どもの質問にすぐに答えず時間を置くということに違和感を感じる人もいるかもしれませんが、正しくないことを伝えてしまうよりも良いと私は思います。
自分の判断が間違っていて、一度許可してしまったことを取り消すことは、とてもエネルギーが必要になります。
「えー、先生は良いって言ったのに・・・」
というような言葉を子どもが言います。
教師への信頼感を少しずつ失っていきます。
これまで「判断がぶれる」ことで、子どもからの信頼を失っていくことについて書きました。
ルールを共通なものにしていくにはいくつかのコツがあります。
先ほども書いたように、判断に迷うような場合は、すぐに答えずに時間をかせぐということがまず第一です。
第二には、ルールの変更などは、全体の場で伝えるということです。
学級では、日々、様々に状況が変化していきます。
そういった中で、子どもが「先生、○○してもいいですか?」と聞いてくることがよくあります。
子どもが聞いてくるということは、子どもが判断に迷っているということなので、ルールを設定していないか、一度定めたルールを違う形にしてよいかということを聞いていることになります。
先ほど書いたように、学級では状況が日々変化していくので、ある時点でルールが変わるということもよくあります。
気の利く子どもが、状況が変わったから、ルールを変えた方が良いのではないかと先生に提案してくることがよくあります。
話を聞くともっともなことが多いので、「では、そのようにしよう!」とその場で教師も答えてしまいます。
しかし、この段階では、話をした子どもにとってルールは変わっていますが、それ以外の子どもは以前のルールのままです。
クラスの中のルールが統一されていない状態です。
そのままでは「ずるい」「不公平だ」「言っていることが違う」などと教師が言われてしまう可能性があります。
こういった場合のポイントは、「ルールの変更は全員が聞いている場で行う」ということです。
先ほどのようなケースでは、良い提案をしてきた子どもがいた時に、「では、後でみんなの前で確認をするからね。」と伝えます。
そして、その後、全体の場で、全員にルールを変更することを伝えます。
この様な手続きをとれば、「不公平だ」などと言われることは減っていきます。
若い先生達が気にすることで、クラス経営がうまくいく方法をいくつか紹介しました。
今回、書いたようなことは、非常に基本的なことなので、どんなタイプの先生にも当てはまることなのではないかと思います。
若い先生達が経験しているような苦労は、多くの場合、先人(先輩たち)も同様に苦労しています。
相談してみることで、きっと良い解決策が見えてくると思います。
もう少しで、連休です。
体も心も少しだけリラックスできるようになります。
若い先生達が充実した日々を送ることができることを願っています。
がんばってください。

鈴木 邦明(すずき くにあき)
帝京平成大学現代ライフ学部児童学科 講師
神奈川県、埼玉県において公立小学校の教員を22年間務め、2017年4月から小田原短大保育学科特任講師、2018年4月から現職。子どもの心と体の健康をテーマに研究を進めている。
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