2013.04.08
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ワトスンの負傷について-視覚障害者の読書体験からー

富山県立富山視覚総合支援学校 教諭 岩本 昌明

今日は、年度末及び3学期末の図書整理の日です。
本校には、蔵書の一部としてたくさんの点字本があります。
点字本についているタイトルを読むのはA先生の出番です。

A先生には、点字本のタイトルと目次などから何を扱った書籍なのかを読んでもらい、書棚に並べたほうが適切な書籍か、そうでないかを判断分別していただきました。
この作業をしながら、所属する学部が違い、接触のさほど多くないA先生と読書について話す機会が持てました。

私は週末に、東野圭吾さんの『マスカレード・ホテル』を半日で読了していました。
そして宮部みゆきの『模倣犯』を読み始めていたところでした。

東野圭吾や宮部みゆきや村上春樹など最近の作家をA先生は読んでおられるのか御存じなのか尋ねてみました。
最近の作家にはあまり興味関心はないようで読書体験が共通の話題になりそうでなく残念に思い始めました。
 

すると「シャーロックホームズの話は60話全部読んだ」と話し始められました。
A先生は点字使用の方なので、墨字で読書はされません。

視覚障害者情報総合システムというものがあり、このシステムの中に[サピエ図書館」があります。
音声データ―のダウンロードが利用できようになっています。
A先生はこの音声データを利用してシャーロックホームズの読書体験に関して話して下さいました。
(参照:「サピエ」https://www.sapie.or.jp/)

24年の夏休みにA先生は全60話を読了したそうです。
その時に1つ気が付いたことがあったと言われました。

それはシャーロックホームズの相方であるワトスンの負傷した箇所についてでした。
(シャーロッキアンの間では非常に有名な話題だそうで、A先生から私はその時に始めて知ることとなりました。)

最初のホームズ物語『緋色の研究』では、ワトスンは肩に負傷があることが記されています。
第2作『四つの署名』では、「傷ついた足をいたわりながら座っていた。」
さらに『花嫁失踪事件』では、
「片方の下肢に入ったままのジザイル銃の弾のあたりが、ずきずきうずいていた」
『ボール箱』では、ホームズがもの思いにふけるワトスンを観察して「君の手は、戦争で負った自らの古傷へ行った」という記述があるそうです。
 


私はだんだん興味が湧いてきました。
A先生は、音声で60話を読み(?)、いや聴きつづけた結果、「おや、ワトスンの怪我の記述が違うぞ」と気付かれたそうです。自分で発見されたことはとても楽しそうに話してくださいました。

60話全部を通しで読んだから気付くことができたことかもしれないと話されました。
A先生は、自分の読まれた他のホームズの作品についても色々と話して下さいました。
A先生との会話の後、シャーロック・ホームズを私も読み直してみようかという気になりました。

豊かな読書体験をした方との共感を通して、ちょっとした気づきと発見にわくわくする時間が
持て幸せな気持ちになり、私は図書室を後にしました。
 


付記1.
私は前任校で、シャーロックホームズについて学習したあと、「ホームズに英語で手紙を書こう」という活動をしたことを思い出しました。
1学期末考査後に、生徒が書いた英語の手紙をイギリスの『シャーロックホームズ博物館』に送りました。
2学期が始まる頃に、封筒にイギリスの切手が貼ってある返事を受け取りました。
生徒らはホームズの秘書と称する方からの返事が届いて大変驚き喜んでくれました。
手紙を印刷して全員に配布しました。英語が身近に感じることに役立つこととなったようです。

付記2.ダルビッシュ完全試合逃すも、26人アウトのテレビ映像に感動する。


(参考)
ホームズ作品の引用は、水野雅士「シャーロキアンの果てしなき冒険」のサイトを参考にしました。

岩本 昌明(いわもと まさあき)

富山県立富山視覚総合支援学校 教諭
視覚に病弱部門が併置された全国初の総合支援学校。北陸富山から四季折々にふれて、特別支援教育と英語教育を始め、身の回りに関わる雑感や思いを皆さんと共有できたらと願っています。

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