2013.03.14
  • twitter
  • facebook
  • はてなブックマーク
  • 印刷

「今(日々)が未来をつくる」教え子が教えてくれたこと

東京都立城北特別支援学校 教諭・臨床発達心理士 植竹 安彦

 桜が咲く頃に

 年度末を迎え、先生方にとっては1年で一番忙しい季節ではないでしょうか?

 そして、もうすぐ卒業式ですね。卒業学年の担任として児童・生徒を送り出すことは数年に1回かと思います。でも、卒業生へ指導する機会は幾度となくあったと思います。
 そんな時期に感慨深い出来事がありましたので、今回はその出来事についてお話しさせていただきます。

過去の私と、今を生きる子どもたち

 先月末、まだ、私が時間講師として知的障害養護学校で教えていた頃の、懐かしい八年前の教え子の保護者の方々と、その時の担任の先生方との食事会がありました。当時小学六年生だった彼らも新成人となり、保護者の皆さんから写真でその立派な姿を見せていただきました。

 食事会では、八年前の様子にも関わらず、保護者も我々もいろいろなことをよく覚えており、運動会での出来事など話はつきることなく、懐かしいひと時はあっという間に過ぎてしまいました。そのひと時の中で、お母さん方から伺った印象的なお話しと、見せていただいた写真から気づかされたことがあります。

2400日で教え育てることとは?

 背も大きくなった子どもたち、すっかりお母さんの背も追い越していました。最近のお母さんの苦労は、その大きく育った子どもたちを見上げ、首が痛くなりながらヒゲを剃ってあげることが共通の大変さだそうです。

 自分自身で出来る子や、お父さんが剃ってくださっている家庭もありましたが、子育てはまだまだお母さんが担っている部分が多いのが現状です。そして、お母さんご自身としては、ひげ剃りなどしたことがないですから、なかなか難しい作業になります。

 お母さん方は、「1本ピョンと残っていたりすると、気になって気になって、私の方がこだわってしまったりするのよぅ。」と笑いながら話していましたが、毎日のことですから、大変なことだと思います。

 「ひげ剃り」は学校で取り組みにくいスキルですが、自立した成人男性として社会に出るにあたり、学校で教えるかどうかは別としても、こういった生活スキルも保護者へアドバイスしていればと思いました。

 最近ソーシャルスキルトレーニングという言葉を聞くようになりましたが、人との関係性の築き方に含めて、日々のことなので、高等部くらいからは、身だしなみの指導として考えないといけないと思いました。
 

 そしてもう一つ、今度は逆に、「学校で身につけたことは今でもしっかりやれています。」というお話しもいただきました。

 小学一年生の時に、風呂敷結びを学校で習ったそうです。私が受け持った高学年では既に、当たり前のように体操着を風呂敷に包んでいましたが、一年生の時に「紐を結ぶ」という技術を身につけるのはとても大変だったと話されていました。

 でも当時の担任が、熱心に根気強く指導してできるようになったそうです。このように、根気強く身につけたものは、成人となった今でも生活の中でしっかり身についていると話してくださいました。

 小学一年生を担当していた先生は、私が尊敬しているベテランの先生でした。きっと、子どもたちが学校を卒業した後のことまで、小学一年生の時から考えて指導されていたのだと思います。改めて、未来は、この日この日の積み重ねが作るのだと思った瞬間でした。


 さらにもう一つは、見せていただいた写真から気づかされたことです。

 数枚の写真の中に、進路先の作業所で開いていただいた「成人を祝う会」で撮られた写真がありました。

 晴れの舞台の成人を祝う会ですが、人がたくさん集まり、賑やかな雰囲気の中で、教え子のAくん、そしてBくんも耳をふさいでの写真でした。その写真には、八年前と変わらない、音への過敏さに困惑している子どもたちの姿がありました。

 八年前、当時の私の知識では、的を射た指導をすることも、またその状態像を深く理解することもできなかったのが事実です。

 社会へ出た彼らの人生に1回の儀式、せっかくの晴れの舞台も楽しい場となりえたのか、やはり苦痛の場となってしまったのではないかと、自分の未熟さ、指導の至らなさを悔いる瞬間でした。


 二回前のつれづれ日誌の中でも書きましたが、学校で学んだことが彼らの人生の土台になっているのだと改めて感じました。教え育てられなかった点は、彼らの中に生き辛さとして残してしまいかねないのだと、悔しさが残りました。

 

 1年間の授業日数はだいたい200日くらいです。1年200日×学校教育12年間=2400日で、私たちはどれだけ子どもたちに、自分の力で自分の未来を切り拓く力を育てられているのでしょうか?

 そして、本当に育てなければいけない力とは何なのか、そのことを考えながら指導することが大切だと、教え子とその保護者の皆さんから教わった時間でした。貴重な時間をくださったことに感謝でいっぱいです。

子どもたちの応援団として

 卒業してしまった彼らに、学校で直接指導することはもうないでしょう。

 しかし、一度担当したお子さんは一生応援していきたいと思い、いつも次の方へバトンを渡しています。

 今なら、聴覚の過敏(防衛反応)への指導も分かるようになりました。食事会後、保護者の皆さんと別れ際に「つれづれ日誌というところに、聴覚・触覚過敏とはどのようなメカニズムなのか、また、どのように改善させられるのか書きますから、読んでくださいね。」と約束してきました。

 この貴重な場をお借りして、今できることをこれまでの教え子たち、そして今、これからの教え子たちへしていきたいと思います。

 次回、この続きを書きますので、ぜひ読んでいただけたらと思います。

 

 特別支援学校に通う児童・生徒だけでなく、通常の学校の中でも聴覚や触覚に過敏をもっている子どもたちは実はたくさんいます。

 ただ、そのことに気づかないと、知らず知らずのうちに、指導者が子どもたちの心に傷をつけてしまいかねないことがあるということもお話ししていきたいと思いますので、。

 

 卒業式・修了式まであと一週間足らずとなりました。最終日のスクールバスが出発するまで、子供たちへ教えられること、育てられること、褒めてやれること、認めてやれること、一つひとつ丁寧に頑張りたいと思います。忙しい時期ですが、皆さん一緒に頑張りましょう。 

植竹 安彦(うえたけ やすひこ)

東京都立城北特別支援学校 教諭・臨床発達心理士
肢体不自由教育からの視点を中心に、子どもたちの発達を支えるために日々できることを一緒に考えていきたいと思います。

同じテーマの執筆者
  • 吉田 博子

    東京都立白鷺特別支援学校 中学部 教諭・自閉症スペクトラム支援士・早稲田大学大学院 教育学研究科 修士課程2年

  • 綿引 清勝

    東京都立南花畑特別支援学校 主任教諭・臨床発達心理士・自閉症スペクトラム支援士(standard)

  • 岩本 昌明

    富山県立富山視覚総合支援学校 教諭

  • 郡司 竜平

    北海道札幌養護学校 教諭

  • 増田 謙太郎

    東京学芸大学教職大学院 准教授

  • 渡部 起史

    福島県立あぶくま養護学校 教諭

  • 川上 康則

    東京都立港特別支援学校 教諭

  • 中川 宣子

    京都教育大学附属特別支援学校 特別支援教育士・臨床発達心理士・特別支援ICT研究会

  • 髙橋 三郎

    福生市立福生第七小学校 ことばの教室 主任教諭 博士(教育学)公認心理師 臨床発達心理士

  • 丸山 裕也

    信州大学教育学部附属特別支援学校 教諭

  • 下條 綾乃

    在沖米軍基地内 公立アメリカンスクール 日本語日本文化教師

  • 渡邊 満昭

    静岡市立中島小学校教諭・公認心理師

  • 山本 優佳里

    寝屋川市立小学校

ご意見・ご要望、お待ちしています!

この記事に対する皆様のご意見、ご要望をお寄せください。今後の記事制作の参考にさせていただきます。(なお個別・個人的なご質問・ご相談等に関してはお受けいたしかねます。)

pagetop