2013.02.25
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「オノマトペ」と9歳(10歳)の壁

東京都立城北特別支援学校 教諭・臨床発達心理士 植竹 安彦

9歳の壁とは 

「9歳の壁」という言葉を聞いたことがありますか?よく9歳(10歳)頃に勉強についていけなくなる子どもが急激に増えると言われることがあります。これはいったいどうしてでしょうか?

 9歳、10歳というと、ちょうど小学校3年生から4年生くらいの時期にあたります。学校の授業で言うと、算数なら分数や余りのある割り算が加わってきたりするころです。これまでは目でみたり、実際に数えたりと具体的、実際的なものを通して学ぶことができたものが、頭の中で操作して考えるといった、抽象的な内容に変わってくる時期になります。教える内容が質的に変化していく時期にあたるので、学習に遅れが出る児童が増えるのだと考えられます。

 このことを、特別支援教育の視点から見ていくと、教える者としてとても大切なことが見えてくると思っています。ここで私の勤務している肢体不自由特別支援学校の視点から見ていきたいと思います。

特別支援から考えるイメージする力 

 これまでの「つれづれ」で何度もお話してきましたが、私の学校は下肢に障害がある子どもたちが中心に学習する学校です。下肢そのものに障害がある子どももいますが、大半は脳の中で足をつかさどる部分に障害を受けてしまったために、歩くことが難しい子どもがほとんどです。このことはさらに付け加えると、脳の中で足をつかさどる部分は、視神経を通る部分とも重なる部分が多いので、歩くことの困難さに加え、見ることにも困難さを抱えていることが多くあります。見えているけれども、空間の把握の仕方が悪かったりします。視覚から情報が取り入れ辛いことから、聴覚から情報を取り入れる比率が高くなりがちです。通常私たちは、視覚から8割くらいの情報を取り入れて生活しているといわれています。それが、視覚に困難さがあることから、聴覚からの情報に頼りがちになるということです。

 下肢に障害はないけれども、通常の学校でも見ることに苦手さをもっている子どもたちがたくさんいると思います。例えば、板書をノートに移すのが苦手な子や、教科書を読むと行を読み飛ばしてしまう子、さらには、算数など横書きの教科書は読めても、国語の教科書のような縦書きの文章になると、かなり読む速度が遅れる子などは、目の使い方や見え方に困難さを抱えていると受け止められます。

 さらに、知的障害を併せ有する重複した障害の子どもたちもたくさん学んでいます。知的障害があるということは何を意味するでしょうか?それは、具体的・実際的なことは分かりやすいけれども、頭の中でイメージすることや、抽象的なことは分かり辛いという特徴があげられます。 

 

 

9歳の壁とオノマトペ(擬声語)の活用から
 


 ここで、話しを元に戻します。9歳の壁を越えるには、頭の中で抽象的な内容を具体的にイメージする力が必要になります。本校の児童・生徒のように、見ることが苦手(どちらかと言えば聞くことのほうが得意)で、イメージすることも苦手な児童・生徒に対して、どのように話すと「よく分かり」「イメージ」がもちやすくなるでしょうか?

 子どもたちがイメージをもちやすくするために、私が指導の中で意識していることがあります。そのうちの3つをご紹介します。

(1)「指示語(これ、それ、あれ)を使わない」・・・「これをそこに入れて」では、これを見ていない時点で何をどうしてよいか分かりません。さらに、これが何なのか、そこはどこなのかが伝わりませんので、名詞や動詞をしっかり使い、主語、述語を意識して使い、誰が誰に何を伝えようとしているのかを強調しています。

(2)「イメージしやすい言葉を使おう」・・・そう、ここで今回のタイトルにある「オノマトペ(擬声語)」を意識的に使っています。擬音語、擬態語をまとめて擬声語と言ったりしますが、擬声語を目的に応じて使いわけることで、子どもたちは興味を示して見て欲しいものに視線を向けたり、動詞表現だけでは分かり辛い動きをイメージさせやすくなります。また、「ヒューーーー、ポン」など、始点から終点までの動きを言語化でき、一つの活動のまとまりとして視覚的情報をさらに聴覚的情報と合わせて伝えられるので、記憶にも残りやすく、さらに再現(想起)しやすくさせる効果もあります。

 例えば、家庭科の時間に今日の作業内容や作業手順を示すとします。「今日は、ホットケーキを作ります。1、粉と卵と牛乳をボゥルに入れます。粉をサッサッサ、卵をパカッ、牛乳をチョロチョローです。2、ボゥルに入れて材料を泡立て器で混ぜます。混ぜるはグルグルグルです。3、混ぜた材料を生地といいます。この生地をホットプレートで焼きます。焼く時は、お玉でトロトローとホットプレートに流し、プツプツプツと泡が出てきたらフライパン返しでペッタンとひっくり返します。」など手順を示し、作業に入る前にもう一度、擬音語部分だけを取り出し、「今日のみんなのお仕事は、1、サッサ、パカッ、チョロチョロの入れる。2、グルグル混ぜる。3、トロトロ、プツプツ、ペッタンの焼くです。」のように動作を加えながら説明し、知的に障害がある児童にもこれからの活動にイメージが湧くようにしています。

(3)「視覚情報も合わせて伝えよう」・・・そうは言っても、音は消えて無くなってしまうので、再確認する手段としても、具体物や写真カード、文字での表記などと合わせた提示を行い子どもによって、イメージの補助や再確認の手段を示しておきます。また、注目させながら伝えるには、手話やマカトンサインと言われるサイン言語を併用した伝達なども加えています。

 伝えたい内容を整理し、相手が「分かる」「イメージできる」伝え方を工夫してみてください。なんとなくでは、なかなか子どもたちに意図通りの内容は伝わらないものです。イメージする力が高まることは、自分の頭の中で自分自身を振り返る力になります。自己を見つめ直す力の育ちは、相手と共感的に高め合うことにもつながると思います。日々の教育活動に少し伝える工夫を意識して加えてみてください。 

植竹 安彦(うえたけ やすひこ)

東京都立城北特別支援学校 教諭・臨床発達心理士
肢体不自由教育からの視点を中心に、子どもたちの発達を支えるために日々できることを一緒に考えていきたいと思います。

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