2013.02.27
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肥満が増えた福島の子ども・・・

帝京平成大学現代ライフ学部児童学科 講師 鈴木 邦明

平成24年12月のニュースの中に「文部科学省から肥満の全国調査の結果が出された。」というものがありました。

 

福島県のデータが非常に悪化しているとのことでした。

年齢別でいくつかの層で、肥満度が全国一位でした。

 

「悲しい思い」や「やりきれない思い」などが交錯します。

 

福島の子どもの肥満の増加は、放射線の影響で、外遊びなどができなくなったことが大きな原因だと思われます。

様々な環境の変化による影響が「子どもの肥満の増加」につながっています。

 

詳しく調べたところ、特に幼児、小学校低学年児童の肥満の増加が著しいそうです。

考えられる原因を挙げてみます。

 

「放射線の影響を減らすため」

 ・屋外活動の制限(外での体育、遊びなど)

 ・通学方法の変更(徒歩→自家用車、バスによる送迎)

 

「転居のため」

 ・遊び場所がない(校庭に仮設住宅など)

 ・遊ぶ仲間がいない

 ・通学方法の変更(徒歩→自家用車、バスによる送迎)

 

「その他(複合的)」

 ・ストレスなど(食事への影響)

 ・食生活の変化(家庭での調理の方法の変化)

 ・室内にいる時間の増加(間食の影響など)

 

私は、この数年、子どもの身体活動量(運動量)についての研究をしています。

日本幼児体育学会で論文の発表をしたり、こども環境学会や日本保育学会でポスター発表などをしてきました。

また、日本フィットネス協会主催のフィットネス実践報告会などでも発表してきました。

 

主に、「鬼ごっこ」を題材にして、場所の大きさや鬼の数などの条件を変えた時に、子どもの身体活動量がどのように変化するのかを調べています。

そういった調査の結果、小学校のクラス(30~35人)で鬼ごっこを行う場合、大きさは体育館全面、鬼の数は6人程度が最も身体活動量が多くなります。

他にも、教師が積極的に鬼ごっこに関わると、子どもの身体活動量も多くなります。

詳しくは、きちんとした文章になったものがあるのでそちらを見てください。

 

また、体育の授業に関する日体大の高橋健夫先生の研究によると,体育授業の運動学習量をALT-PE観察法を用いて測定した結果,体育的内容場面に使われている時間は全授業時間の75%,この中で個人が実際に学習に従事している時間は40%,この40%の中の30%は認知学習(教師の説明,話し合い,記録)であり,意味のある運動学習への従事は10%でしかなく,小学校の体育の授業時間45分のうち,活発な運動学習従事は5分以下であると報告されています。

この様に体育学習の時間に子どもが十分に運動ができていない場合もあるということが考えられます。

 

簡単に言うと、体育の授業のやり方によっては、あまり体を動かさないような授業になってしまう可能性があるということです。

逆に、教師が配慮をしながら体育の授業を行えば、子どもがたくさん体を動かすような授業が可能だということになります。

 

外遊びなどができない福島のような状況においては、体育の授業において、子どもがたくさん体を動かすことができるようなプログラムを実施していくことが望まれます。

 

そういったことに関する先行研究の論文を調べてみました。

今回は、「小学校の体育授業における身体活動量」ということがテーマなので、それに関連する言葉で国立国会図書館の資料を検索しました。

 

その結果、集まった資料が下のものです。

 

小学校高学年229名を対象に調査をしたところ、体育のある日はない日と比べ、2000歩多く歩いていた。種目に関しては、サッカー、持久走などは、歩数が多くなりハードル走などは、あまり歩数が多くない。

(小学生における体育授業および休み時間の外遊びへの参加が身体活動量に及ぼす影響、山下広昭ほか、研究論、pp152-153、2008)

 

中休みの前後に体育の授業があると、外遊びをする児童が増える傾向がある。児童の総歩数には、大きなばらつきがある。休み時間に外遊びをした場合、外遊びをしなかった場合に比べ、その時間帯の歩数だけでなく、総歩数も多かった。

(小学校の学校生活歩数調査、大塚隆ほか、東海大学紀要39、p68、2009)

 

身体活動量は、体育の有無や天気の違いに左右されている。体力の高低と身体活動量の関連は、低いが、女子においては、体力の高い子どもは、身体活動量が高い傾向が見られた。

(小学生の体力と学校生活における身体活動量の関連、杉山遥ほか、岐阜大学教育学部研究報告(自然科学)35、p165、2011)

 

学年が上がるにつれて、身体活動量は減少する。男子と比べ、女子は身体活動量が少ない傾向にある。

(小学生の日常生活における身体活動量の評価、足立稔ほか、体力科学56、p354、2007)

 

小学校の体育授業は、歩数の増加だけでなく、高強度に相当する走行以上の運動強度の身体活動を増加させる。

(小学校の体育授業が日常生活の身体活動量に及ぼす影響について、角南良幸ほか、福岡女学院大学紀要12、p80、2011)

 

先ほど、私の鬼ごっこの実践でも書いたのと同じように、方法によって、子どもの身体活動量に変化があるようです。

しかし、小学校の授業において、どのように行っていくことが望ましいのかということが、明確に示された研究はありません。

 

福島の子どもを取り巻く環境は、現在、非常に特殊なものです。

その環境の下に育った子どもが、健全に育っていけないということは、あってはならないことなのだと思います。

 

私は、小学校の現場にいて、日々、子どもと接しながら、子どもの身体活動量について考えている立場です。

以前のつれづれ日誌でも書いたのですが、子どもが健康に育っていく上で、学校には大きな「可能性」と「責任」があります。

様々な機関の人達と関わりながら、福島の子どもが健全に育つようなプログラムの開発をしていきたいと思っています。

 

福島の子ども、そして、日本中の子どもが、健やかに育つことを願います。

 

※私の実践をまとめたHPがあります。そのページからはメールを送ることができます。

 アイデアやご意見などがある方は、是非ご連絡ください。

 

 

鈴木 邦明(すずき くにあき)

帝京平成大学現代ライフ学部児童学科 講師
神奈川県、埼玉県において公立小学校の教員を22年間務め、2017年4月から小田原短大保育学科特任講師、2018年4月から現職。子どもの心と体の健康をテーマに研究を進めている。

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