2013.01.18
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「学ぶことの意味」って言えますか?

東京都立城北特別支援学校 教諭・臨床発達心理士 植竹 安彦

祝 新成人 

 新成人のみなさんおめでとうございます。大人って大変だけど楽しいって、一緒になれたらなと思います。

 それにしても、成人の日は関東でも大雪となり大変でしたね。雪が降ると、子どものころはわくわくしていましたが、今も少しはそんな気持ちがありつつも、車いすで通学している児童・生徒が大部分の学校で勤務していますので、翌日の路面状況がとても心配です。車いすを押す保護者の安全も気になります。

 雪だけでなく、街の放置自転車なども生活を脅かす存在です。車いすを使わないと生活ができない人や、点字ブロックの上に障害物があると移動が困難になる視覚障害がある人になど、みんなの安全や利便性が守れる街になればと思います。

 その力を担っているのは、心が敏感に動く子どもたちであり、その子どもたちへの教育がやはり、未来を変えると信じています。もちろん、大人が良い見本を示すことが大切です。ぜひ、子どもたちが憧れるような大人に新成人のみなさんもなっていただければと思います(私も頑張ります)。
 

「学ぶことの意味」って何でしょう? 

 さて、今回は、自分が何のために教育をしているのか、と「ハッ!」と心が大きく動いた去年の出来事をお話しします。

 もう4ヶ月も前になりますが、昨年9月の臨床発達心理士の全国大会での出来事です。大会の中の公開シンポジウムで、書籍でしか知らなかった奈良女子大学の浜田寿美男先生のお話しを伺う機会がありました。

 『主体とは何か』というテーマの中で、「育つということ、学ぶということの意味」のお話しがありました。

 これまで、子どもを育て、学ばせていながら、その意味は?と投げかけられ、私はすぐに思いつくことができませんでした。

 浜田先生は、育つこと、学ぶこととは、「力をあらたに身につけ、その身につけた力を使って、あらたな世界を広げるということ」と話されていました。

 それは、「歩く力が身につくということは、その力を使って歩行の世界が広がるということ」、「話し聞く力が身につくということは、その力を使ってコミュニケーション(関係)の世界が広がるということ」、「文字の力が身につくということは、その力を使って、読み書きの世界が広がるということ」と話されました。

 どれも当たり前のことかもしれませんが、学び育つことで世界が広がるという教育の本質、そこに喜びや感動が子どもに生まれるから、さらに育つエネルギーになるということを再確認した一瞬でした。

 そして、さらに、「今、学びの意味」が反転しているのではないかと投げかけられました。今の教育は、身につけた力や知識が「将来役立つ」からという建前で子どもたちに与えられ、それが身に付いたかどうかの試験が子どもたちの学習を支配し、そこに乗れない子どもの多くは「学ぶことの意味」を見失ってしまっている現状への危惧です。

 人は、「自分の手持ちの力を使い、共同の場で何かをして、そのことで人が喜ぶのを喜ぶ。」
 子どもたちは、「自らの力で自然に働きかけ、それによって人を喜ばせ、また自らが喜べる機会を持つことで自尊感情が育つ」とう発達の大原則が抜け落ちかけているという投げかけでした。

 浜田先生のお話を聞きながら、自分の教育実践を振り返っていました。

 子どもたちに、力を伸ばすことばかりに目が奪われていなかっただろうか。学んで身に付けた力を人のために生かせる場をどれだけ用意できていただろうか。自分の力が相手を喜ばせることができるのだと、実感させられる教室になっているのだろうか、と考えました。どれもこれも十分ではなかったと思いました。

 「なぜ学ぶのか?」自分も中学生くらいのころに思った気がします。その時は、将来のためとしか思わなかったように思います。今、改めて教える側となり、「学ぶ」ということの意味を考えながら教育することが大切だと思います。試験の点数だけではない、子どもたちが自分自身のために「学ぶ」ということを大切に思える学校にしていきたいと思います。 

植竹 安彦(うえたけ やすひこ)

東京都立城北特別支援学校 教諭・臨床発達心理士
肢体不自由教育からの視点を中心に、子どもたちの発達を支えるために日々できることを一緒に考えていきたいと思います。

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